ポスト・コロナの中国木材市場 その実情を探る【遠藤日雄のルポ&対論】

ポスト・コロナの中国木材市場 その実情を探る【遠藤日雄のルポ&対論】

世界を揺さぶっている「第3次ウッドショック」*1の“震源地”は米国である。住宅市場が異常なほどの活況を呈し、これが引き金となって木材不足と材価高騰をもたらした。しかし、もう1つ“震源地”があることを忘れてはいけない。コロナショックの発生起源である中国だ。その中国では、新型コロナウイルスの感染拡大を封じ込めて経済活動を再開させ、木材輸入量が増加し、日本からの丸太輸出量も増えている。この状況はいつまで続くのか。そして、国産材業界はどう対応していけばいいのか。その見通しを得るために、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、木材輸出戦略協議会(会長=枦山博・曽於地区森林組合長)の事務局を担っている南那珂森林組合(宮崎県)の奥村泉・営業部長と、専門商社である(株)S・D・PLAN(エスディプラン)(福岡県)の進藤伍暉社長に「対論」を申し込んだ。S・D・PLANは、木材輸出戦略協議会が出材した丸太を主に鹿児島県の志布志港から中国に輸出している。

輸出量も額も増加基調だがまだ流動的、EUも中国を優先

遠藤理事長

まず、一昨年(2019年)11月からのコロナ禍における日中木材貿易の推移を簡潔に整理しておきたい。

進藤・S・D・PLAN社長

中国がコロナの感染拡大を抑制した昨年(2020年)9月に日本からの丸太受け入れが再開された。だが、当初は価格が安く、国産丸太の輸出事業は赤字続きだった。11月になってようやく価格が持ち直し、今年(2021年)1月に入って中国の経済活動が目に見えて活発になると、5月には輸出用丸太価格も上昇し始めた。

遠藤

全国的な動向を知るために、財務省「貿易統計」で確認しておこう(図1図2参照)。中国向け丸太輸出量は2020年に入って増加し始めている。多少の起伏はあるものの、10万m3を超えている。輸出額(FOB)も2021年に入って急激に上昇している。全体的にみて、中国向け丸太輸出は好調とみていいか。

進藤

総論的にはそのとおりだが、今年7月頃から輸出量を減らして欲しいという打診が中国側から弊社にもたらされるケースも出てきた。その背景などを分析しているところだ。まだまだ状況は流動的といえる。

進藤伍暉・S.D.PLAN社長
遠藤

周知のように、日本国内では木材製品不足が続いており、中国への丸太輸出はストップして国内消費に回すべきという声も出ている。ところで、日本へ輸入されるEU材も減少しているが、これにも中国が関係しているのではないか。

進藤

EU、とくにドイツから中国への木材輸出量が増えており、主にマンションなどの内装用に使われている。その分、日本への輸出量が減っている。いずれにしても、中国が世界の木材貿易を左右する存在になっていることは間違いない。

オール九州から全国連携で供給力強化、ニーズに応じ採材

遠藤

このような状況の中で、木材輸出戦略協議会は今年の丸太輸出目標を8万m3に設定したと聞いている。クリアできそうか。

奥村・南那珂森林組合営業部長

何とか達成できそうだ。しかし、今後を考えると、4森林組合(曽於市・曽於地区・南那珂・都城)で構成している当協議会だけで輸出量を拡大していくのは難しい。

遠藤

どうやって打開していくのか。

奥村

まず、「オール九州」に枠組みを広げて、各地の森林組合などと連携していきたい。それと併行して、森林資源が潤沢に賦存している東北地方の森林組合などとの協力関係も強化することを検討している。

遠藤

その場合、単純に丸太輸出量を増やしたいから応援してくれというだけでは、なかなか話が進まないだろう。輸出ビジネスそのものをどうやって発展させていく考えなのか。

奥村泉・南那珂森林組合営業部長
奥村

例えば、九州のある有力な森林組合では、1980年代初期までスギのヤブクグリという品種を盛んに造林していた。ところが、このヤブクグリは根元が曲がるという性質をもっている。そこで根元から2mの長さで伐って、木質バイオマス発電所へ燃料用チップ丸太として販売している。
当協議会は、2mに伐るのではなく、2.2mや2.4mに伐って中国へ輸出した方が付加価値が高まると提案している。

遠藤

2.2m? そんな中途半端なサイズの丸太を中国ではどのように使っているのか。

奥村

棺桶用材だ。末口径40㎝以上のスギ丸太を、10㎝程度の余尺をとって2.2mに採材して中国へ輸出している。

遠藤

中国南部に棺桶用材のニーズがあるという話は聞いている*6。そのような売り先をどうやって開拓したのか。

進藤

弊社が中国の木材マーケットを調査した結果、一定の需要があることがわかった。中国の奥地では、今でも土葬の風習がある。その土葬用に棺桶が使われている。ただ、環境問題の観点から中国政府は土葬を禁止し始めた。いずれ棺桶用材の需要は減っていくだろう。

奥村

そこで当協議会では、長さ2.4mに採材することを提案している。近いうちに連携している森林組合とトライアル輸出を始めるつもりだ。

遠藤

2.4mのスギ短材を中国では何に使うのか。

奥村

スギフェンスに製材して米国へ輸出する。これまでは末口径18㎝以上、長さ4mのスギ丸太を半分に伐ってフェンスに製材していたが、2.4mの方が効率がいい。当協議会では、2.2m、2.4m、3.7mなど10種類の採材が可能だ。こうしたスペックの整備をS・D・PLANと協議をしながら進めている。

採材の研究に余念のない奥村部長

中国がメインだが韓国も有望、二重三重の輸出戦略が必要

遠藤

今後、日本の住宅市場は少子高齢化でシュリンクしていくことは必至だ。木材需要の“伸びしろ”は海外に見出すしかない。その際の基本的なスタンスについてどう考えているか。

進藤

複眼的な視点が求められるだろう。今は日本の丸太をイケイケドンドンで中国に輸出しているが、韓国市場をもう少し評価していいのではないか。中国に比べて韓国のマーケットが小さいことは確かだ。だが、日本から輸出する場合、燻蒸(くんじょう)処理がいらない。中国向けは燻蒸処理が絶対必要なので手間もコストもかかる。このあたりも考慮しながら、弾力的に対応していくべきだ。

遠藤

木材貿易に伴うリスクを分散させるということか。

進藤

そうだ。木材輸出に関わっては、意思疎通面のリスクもあるし、法制度の違いも考慮しなければならない。さらに、“国益”を巡る政治情勢にも左右される。米中貿易紛争などが日本の木材輸出にどのような影響を与えるのかなど、細かな情勢分析が必要だ。

奥村

その意味では、日本の木材輸出は、コロナショックを経て新たな段階に入ったとも考えられる。

遠藤

膨大な需要力を持つ中国を輸出のメインターゲットにすることは当然だが、それだけに寄りかかる危険も大きいということか。二重三重の輸出戦略を講じていく必要がある。

(トップ画像=中国に輸出される棺桶用材)

*1 (前編)外材価格高騰と品不足にどう対応していくか【遠藤日雄のルポ&対論】

『林政ニュース』編集部

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