(後編)グローバルな視野で国産材を活かす江間忠グループ【遠藤日雄のルポ&対論】

(後編)グローバルな視野で国産材を活かす江間忠グループ【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)米材の輸入で一時代を築いてきた江間忠グループは、国内にある約5,200haの社有林を基盤にした国産材の利活用事業に乗り出している。同グループを率いる江間壮一・(株)江間忠ホールディングス社長は、「川上から川下に至る国産材流通の仕組みをつくる」ことを重点課題にあげる。国内外で広範な木材ビジネスを展開する同グループの経営資源が日本林業に投入されると、どのような“化学反応”が起きるのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が、「対論」を通じて「江間ビジョン」の全貌に迫る。

江間忠版国産材流通システムを構築しパートナーを広げる

遠藤理事長

江間忠グループが国産材事業を本格化するにあたって、「解決しなければいけない課題が数多くある」という指摘は重要だ。外材ビジネスで培ってきたノウハウをそのまま国産材にあてはめることはできないということか。

江間社長

外材のように規格化された製品がまとめて港に着くという形態とは全く違う。国内の山で伐採した原木(丸太)を製材工場などに運搬して加工し、川下の施工現場まで届けるという流れを効率化することは一筋縄ではいかない。実際に着手してみると机上では解決できない問題がいくつも出てきて、3歩進んで2歩下がるように感じることもある。
ただ、当グループとしても、中途半端なかたちではやりたくない。やるからには徹底して、建築用材だけでなくバイオマス燃料やチップも含めて森林資源を100%有効活用できる仕組みをつくりたい。

遠藤

つまり、江間忠バージョンの国産材流通システム構築にチャレンジするわけか。

江間

当グループが持っている加工や物流などのインフラをベースにした流通システムをつくることが基本になる。その上で、各地の森林所有者や原木市場、製材工場などとパートナーシップを組んでつながりを広げていきたい。様々な関係者がそれぞれの強みを発揮できるように情報の共有化などを進めることにしている。

最大のネックは人材の確保・育成、海外から受入れ拡大を

遠藤

国産材事業を推進していく上で最大のネックとなっていることは何か。

江間

やはり、人材の確保だ。日本の山で働きたい、国産材にかかわる仕事をしたいという人をどうやって集め、育てていくかが最優先の課題といえる。伐採・植林の現場や製材工場などは、全国各地に分散して存在している。地方で雇用をしっかり維持し、安定した働き口があることを広くアピールしていかなければならない。

遠藤

国内人口は減少が続いており、産業間で人材の取り合いになっている側面もある。

江間

石油化学産業などと比べて、林業・木材産業は脱炭素社会の実現やSDGsの達成などに貢献しやすいという優位性を持っている。経済発展への寄与だけでなく、新たな時代の要請にも十分に応えられる産業であることを、とくに若い人達に伝え、教育もしていくべきだろう。

遠藤

外国人材の受け入れと活用についてはどう考えているか。

江間

人材の確保・育成についてもグローバルな視点で取り組んでいく必要がある。足元の絶対数が不足しているのだから、国境を設けずに、海外からも広く人材を求め、安心して働ける仕組みをつくっていくことが重要だ。これは避けて通れない課題であり、制度面も含めて解決していかなければならない。

非住宅や外構など需要開拓に注力、輸出は付加価値製品で

遠藤

今後の国産材需要についてはどう見通しているか。国内の住宅市場は少子高齢化で縮小過程に入っており、非住宅分野がビジネスチャンスになるとみられている。

江間

非住宅のマーケットは、当グループだけでなく業界全体にとって非常に大事な分野であり、需要開拓に力を入れていきたい。住宅と非住宅では、営業の仕方も事業の進め方も違う。専門的な知見を培って、ゼネコン等の要望に応じていきたい。

遠藤

CLTなどの新しい木質材料の取り扱いも増やしていくのか。

江間

CLTに限らず集成材やLVLなどのエンジニア―ド・ウッドを適材適所で使いこなしていくことにしている。
当グループの江間忠木材(株)では、薬剤を一切使用しない高耐久性木材「エステックウッド」を製造・販売しており、デッキやルーバー、フェンスなどの外構分野で利用が広がってきている。
これまで木材が使われていなかったマーケットは、まだまだ開拓の余地が大きい。当グループにご相談いただければワンストップでベストな提案ができるようにしていきたい。

遠藤

国産材の輸出についてはどう考えているか。最近の材価高騰と品不足を受けて、輸出はやめて国内需要だけに専念すればいいという極論も聞かれるが。

江間

基本的に木材ビジネスはグローバルに展開されており、国産材を輸出して海外のマーケットを開拓する努力をやめるべきではないだろう。
ただ、現状はスギの原木での輸出が多いという話を聞くと、非常にもどかしく感じる。なぜもっと付加価値をつけた製品で輸出しないのか。原木で輸出してしまうと、具体的な使い方は輸出先の企業などが決めることになり、マーケティングが難しくなる。製品で出荷すれば、向こうでどのように使われているかという情報が返ってくるので、改善点も明確になる。いずれは国内と海外のマーケットの善し悪しに応じて、生産量や輸出量を調整できるようにしていくべきだ。欧米の木材関連企業はそのような戦略をとっており、率直に言って日本は出遅れている。これから追いついていきたい。

木材製品の輸出入も新たな段階を迎えている

90年以上にわたり培ってきた経験やノウハウなどを活かす

遠藤

川上から川下に至る一気通貫型の国産材流通システムをつくり、海外市場にも打って出るとなると、それなりの事業規模で資本力もある木材企業でなければ実現できない。

江間

今後は地域ごとに核となるような加工工場が整備され、そこが拠点となって国産材流通の合理化を進める段階に入っていくのではないか。木材の場合は物流、つまり輸送コストのウエイトが高いので、北海道で伐出した原木を九州まで持っていって加工するというのでは極めて非効率になる。基本的に、地域の森林資源を地域で有効活用する。そのために、拠点工場と地元の工場がそれぞれの得意分野を活かして連携するというかたちが理想だろう。

遠藤

その理想形を江間忠グループも目指すということか。

江間

当グループは、創業から90年以上にわたり木材商社として活動してきた。とくに、川下分野に関して豊富な経験と高いノウハウがあると自負している。これを川上分野に反映させることで、効率的な国産材流通の構築に寄与できると考えている。 ある地域でモデルがつくれれば、それが他の地域にも波及していくだろう。多少時間はかかるかもしれないが、欧米と比較しても遜色のない競争力のある国産材ビジネスが展開できると考えている。

(トップ画像=江間忠ホールディングス本社の玄関に使用されている「エステックウッド」)

(前編)グローバルな視野で国産材を活かす江間忠グループ【遠藤日雄のルポ&対論】

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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