(前編)国産2×4材の可能性を広げるウイング【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編)国産2×4材の可能性を広げるウイング【遠藤日雄のルポ&対論】

人口減の影響などで国内の住宅市場は大きな曲がり角を迎えている。昨年(2023年)の新設住宅着工戸数は、前年比4.6%減の82万戸。木造住宅も4.9%減の45万4,000戸にとどまった。今後、木造住宅などの戸建て需要が大幅に回復するとは考えられず、国産材業界は従来の延長線上ではない新たな需要先を掴む必要がある。その有力候補の1つと目されているのが2×4(ツーバイフォー)工法(枠組壁工法)で建てられる住宅だ。2×4工法に用いられる部材といえば、北米産のSPF材というのが業界の常識だった。だが、最近は様相が変わってきている。国内各地で国産スギなどを利用した2×4材の加工工場が動き出しており、大手ハウスメーカーなども国産2×4材を採用し始めている。2022年11月には、関係者が結集して「ツーバイフォー建築における国産木材活用協議会」が発足し、国産2×4材の海外輸出も検討されるなど、目の離せない状況になっている。そこで、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、国産2×4材の利用に先駆的に取り組んでいるウイング(株)(東京都千代田区、倉田俊行・代表取締役社長)の事業戦略を聞くことにした。
1987年に創業した同社は、北米産SPF材を中心とした2×4コンポーネント事業をメインにしつつ、12年ほど前から国産2×4材を積極的に取り扱っている。2022年3月には、国(農林水産省)との間で都市(まち)の木造化推進法(改正木材利用促進法)に基づく「建築物木材利用促進協定」をいち早く締結し、「国産木材活用協議会」の主要メンバーとしても活動しながら、独自のビジネスを展開している。

独立系コンポーネント会社として年間6,550棟を手がける

遠藤理事長からの「対論」オファーに応じたのは、ウイングの橋本宰(つかさ)・常務取締役。橋本氏は、同社の国産材関連事業を牽引しているキーパーソンだ。東北支店長だった2021年2月には、宮城県仙台市内に日本初のオール国産材2×4住宅を建設し、長野県産カラマツを使った2×10(ツーバイテン)材を用いるなどチャレンジングなプロジェクトを数多く手がけてきている。

その橋本氏に、遠藤理事長が問いかけた。

橋本宰・ウイング常務取締役
遠藤理事長

2022年に木造で建てられた新設住宅の工法別シェアをみると、在来工法(木造軸組工法)が78.8%、2×4工法が19.1%、木質プレハブ工法が2.1%となっている。依然として在来工法の割合が高い中で、2×4工法は約10万戸の着工実績をキープしており、国内の住宅市場で一定の地歩を固めたとみることができる。

橋本常務

当社が2×4工法住宅用構造材の製造・販売を主目的に発足したのは37年前のことだった。以降、木材の輸入から加工、販売までを一貫して手がけるコンポーネント事業を続け、全国にネットワークを広げてきた。
現在の取引先は、大手ハウスメーカーをはじめ約150社に上っている。国内のコンポーネント会社やプレカット工場は、商社やハウスメーカーの系列子会社になっているところが多いが、当社は独立系なので物件ごとに柔軟かつスピーディに対応できるのが特徴となっている。

ウインググループの主な拠点(画像提供:ウイング)
注:(株)たかくらは、2023年7月に業務・資本提携した特定建設業者
遠藤

直近の事業実績はどうなっているのか。

橋本

関連会社も含めたグループ全体で、年間6,550棟、24万2,000坪を手がけている。2×4工法の戸建て住宅市場では、15%ほどのシェアを維持している。

2×4工法と国産材を組み合わせて新たな競争力を生み出す

遠藤

それだけの事業規模であれば、使用する2×4材も大量になり、供給力のある北米産SPF材に頼らざるを得ないだろう。そこに国産2×4材が割って入る余地はあるのか。

橋本

確かにSPF材は供給力があり、これまで使ってきた実績もある。ただし、相場商品であり、為替レートや輸送費の影響をダイレクトに受けるリスクを常に背負っている。コロナ禍とともに起きたいわゆるウッドショックのときには、このリスクが一気に露呈した。
国産材も相場商品であるが、SPF材と比べると乱高下の幅は小さい。また、産地(木材生産地)が地続きで、輸送費などを抑えられる利点もある。

遠藤

そうした背景があって国産2×4材をつくる工場が徐々に増えてきているのだろう。では、プロの眼から見て、国産2×4材の品質などはどう評価されるのか。

橋本

それぞれの工場が製造プロセスの改善などを重ねてきたことで、十分に使えるレベルになってきた。
率直に言って、北米から輸入しているSPF材については、10%くらいハネ材(不良品)が出るという前提で購入している。これに対して、国産2×4材の場合は、ハネ材の割合をもっと低くすることができる。その分、購入価格を高められる余地も出てくる。

遠藤

国産2×4材には見込みがあるということか。

橋本

2×4工法のメリットを国産材にあてはめることで、様々な可能性が出てくる。
まず、部材の種類を少なくすることができる。在来工法の場合は、1棟の現場で30種類くらいの部材を使い分けているが、2×4工法では基本的な構造材はわずか6種類だけだ。
また、仕口などの複雑な加工は必要なく、工場でパネル化したものを現場に持ち込めば施工性が大幅に高まり、コストも抑えられる。

遠藤

なるほど。合理的でシンプルな2×4工法と国産材を組み合わせることで新たな競争力が生み出せるわけか。

橋本

2021年に仙台市内で建てたオール国産材2×4住宅は、そうした可能性を実際に“見せる”ことを目的にし、確かな手応えを感じることができた。以降もチャレンジを続けている。

大径スギを4×6材に加工して床に利用、炭素貯蔵量も公表

遠藤

どのようなチャレンジをしているのか教えて欲しい。

橋本

国内の人工林では伐期の遅れで大径化が進んでおり、新しい用途をつくることが課題になっている。そこで、大径のスギを大断面の4×6(フォーバイシックス)材に加工して使用する剛性床構造「Union Frame(ユニオン フレーム)」を開発し、普及を進めている。

「Union Frame」の現場施工状況
遠藤

4×6材を床の構成部材として使用しているのか。

橋本

こうすることで、省力化や工期の短縮、コスト削減などが図れる。エネルギー消費も少なくなるので、環境にもいい。

遠藤

2×4工法は環境にもいいということか。

橋本

当社では、「カーボンオフセットの見える化」にも取り組んでいる。林野庁が2021年10月に公表したガイドラインに基づき、木拾いの積算データを使用して住宅1棟ごとの炭素貯蔵量を算出する仕組みを整えた。
2022年2月には、「カーボンニュートラル 無垢材活用の会」も立ち上げた。

ウイングが発行している炭素貯蔵量計算書
遠藤

「無垢材活用の会」? 2×4工法にムク材がマッチするのか。

橋本

そうだ。ここに国産材を使う最大のメリットがある。(後編につづく)

(2024年2月28日取材)

(トップ画像=オール国産材2×4住宅の内部)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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