国産材率97%!三栄建築設計の事業戦略【遠藤日雄のルポ&対論】

国産材率97%!三栄建築設計の事業戦略【遠藤日雄のルポ&対論】

外材製品の入手難が続き、国産材製品を求める住宅メーカーが増えている。だが、これまで築いてきた調達ルートを切り替えるのは簡単ではなく、現場では戸惑いや混乱がみられる*1*2*3。そうした中で、一歩先を行く取り組みを進めているのが年間約2,000棟の木造分譲住宅を供給している(株)三栄建築設計(東京都新宿区、小池信三社長)だ。同社の使用する住宅部材の国産材率は97%にまで上昇しており、4月13日には同業の(株)オープンハウス(東京都千代田区、荒井正昭社長)及びケイアイスター不動産(株)(埼玉県本庄市、塙圭二社長)とともに「一般社団法人日本木造分譲住宅協会」を設立した*4。同協会の活動目的には、国産材の利用促進が掲げられている。一気呵成に“国産材シフト”を進める同社の事業戦略と将来ビジョンを知るために、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、新宿センタービルの32階にある本社を訪ねた。

課題だった横架材も国産カラマツやスギ集成材にシフト

遠藤理事長を出迎えたのは、三栄建築設計の菊谷憲太郎・経営企画本部経営企画課長と、谷口猛・工事本部生産管理統括積算購買課課長代理。2人は、住宅事業全般のマネジメントと部材調達を担うキーパーソンだ。

遠藤

三栄建築設計は、主に首都圏で木造分譲住宅を建設していると聞いている。そこで国産材の使用率を97%にまで引き上げているとは驚いた。建売分譲住宅のマーケットでは、外材製品が標準仕様なのではないか。

谷口・積算購買課課長代理

弊社も以前は外材製品をメインに使っていたが、段階的に国産材製品への切り替えを進めてきている。昨年(2020年)末の時点では、土台や大引などの構造材や羽柄材の野縁、合板に国産材製品を用いることで、国産材使用率は22.5%になっていた。強度が必要な梁桁などの横架材を国産材化することが課題だったが、カラマツやスギ集成材などで代替できるようになり、今年5月時点の国産材使用率は97.4%と100%近くになっている。

三栄建築設計が建設している住宅の国産材使用率

上流森林の“放置化”に危機感、伐って植える循環をつくる

遠藤

なぜ、そこまで“国産材シフト”を推し進めているのか。

菊谷・経営企画課長

弊社社長の小池が国産材の利用促進で強力なリーダーシップを発揮している。そのきっかけとなったのは、頻発している甚大な自然災害だ。最近は大型の台風や局地的豪雨に襲われることが増え、河川が氾濫して被害が拡大するケースが目立つ。河川の水位が上昇する原因の1つとして、上流にある森林の保水力が低下していることが考えられる。伐期を迎えているスギ林などが利用されずに放置されたままだと、森林が本来持っている災害防止機能などが十分に発揮されなくなるだろう。
 
弊社が住宅を供給しているエリアにも多摩川などの1級河川が流れており、もしも大雨で洪水でも起きたら大変なことになる。何かできることはないかと考えた結果、積極的に国産材を使うことで、伐って植える循環システムをつくり、森林を若返らせるべきだという結論に達した。時間はかかるだろうが、こうした取り組みを続けることで、森林が持つ保水力などが向上すると考えている。

三栄建築設計の菊谷氏(左)と谷口氏
遠藤

外材製品の調達が難しくなったから国産材を使うという単純な理由ではないわけか。

菊谷

国産材を安定的に利用するにはどうしたらいいかを我々なりに検討し、仕組みづくりを進めてきた。今は木材製品全般が入手難の状況になっているが、おかげさまで弊社の場合は必要量が確保できている。

新設の日本木造分譲住宅協会が需要情報を発信し共同購入

遠藤

国産材を安定的に利用するといっても、調達ルートは一朝一夕にできるものではない。どうやっているのか。

菊谷

4月にオープンハウス、ケイアイスター不動産と弊社で設立した日本木造分譲住宅協会で共同購入するかたちをとっている。事業の全体スキームを示すとのようになる。
 
林業地とつながっている集成材メーカーや製材メーカーから国産材製品を協会が一旦買い上げ、各社のプレカット工場に販売して最終加工を施し、施工現場に納品するという流れになっている。

日本木造分譲住宅協会を中心とした国産材流通の概要
遠藤

なぜ、このような流通形態にしているのか。

谷口

国産材の供給元にどのような製品がどれだけ必要とされているかという情報を正確に伝えるためだ。3社を合わせると年間に1万棟以上の住宅を建設している。その着工予定に基づく発注量を定期的に知らせることで、計画的な生産ができるようになる。

遠藤

そういう役割は、商社や木材問屋が担うことが多い。

谷口

このスキームでは、協会が木材製品を売って儲けるということは考えていない。安定的に国産材製品を流すための仲介機能をできるだけ経費をかけずに行うために、非営利の社団法人としている。
 
また、協会が中心となって川上(山元)から川下(ユーザー)までが直接つながる仕組みができることで、国産材のトレーサビリティ(流通経路)が明確になり、エンドユーザー(施主)に対してもどこの木を使っているのかがわかりやすく示せるようになる。

遠藤

この流通システムに参加している集成材や製材メーカーはどこにあるのか。

谷口

今のところは関東・東北地方のメーカーが主体になっている。今後、他の地域にも広げていきたい。

ライバル3社が手を組んでスケールメリット、植林協力も

遠藤

この協会を立ち上げた3社は、いずれも首都圏で木造分譲住宅を供給しているライバル同士だ。なぜ、手を組めたのか。

菊谷

ご指摘のとおり、3社は、ほぼ同じビジネスモデルであり、商圏もかぶる。当初は弊社だけで国産材の調達ルートをつくろうと検討したときもあった。しかし、それでは年間約2,000棟の需要量しかない。ライバル企業の3社が手を取り合えば、年間の需要量は1万棟を超え、業界全体での国産材の利用がより促進されると考えた。

遠藤

なるほど、新しいチャレンジだ。これから協会への加入企業を増やしていく予定はあるのか。

菊谷

まだスタートしたばかりなので体制整備を優先させているが、それが整ってきたら賛同者を募ることにしている。また、協会から山元に苗木を寄付するなど、次世代の森林づくりに協力していくことも考えている。

遠藤

日本の住宅市場は縮小傾向に入っている。木造分譲住宅の将来性はどうみているのか。

菊谷

住宅市場全体の規模が小さくなっていくことは間違いない。しかし、生活に不可欠な住宅の需要がゼロになることはないし、まだまだシェアを拡大し、深掘りできる余地はある。
 
弊社の特徴は、画一的ではない設計自由度の高い家づくりを目指していることだ。都市部では、傾いたり変形した土地や極端に狭い土地などでも住宅を建設しなければならない。木造在来工法は、こうした難しい条件に柔軟に対応できるメリットがある。その強みを発揮しながら、国産材の利用を進めていきたい。

*1(前編)外材価格高騰と品不足にどう対応していくか【遠藤日雄のルポ&対論】

*2(中編)外材価格高騰と品不足にどう対応していくか【遠藤日雄のルポ&対論】

*3(後編)外材価格高騰と品不足にどう対応していくか【遠藤日雄のルポ&対論】

*4建売3社で「日本木造分譲住宅協会」発足、国産材を活用

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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