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2×4材の生産に多額の設備投資は不要、品質の向上に期待
2×4工法(枠組壁工法)は、19世紀に北米で開発され、世界各地に普及してきた。その外国産住宅工法を国産材と融合させて新たな需要を掴もうとする取り組みは斬新であり、実に興味深い。とくに、国産のムク(無垢)材を使うと最もメリットが引き出せるという指摘は、“目からウロコ”の感がする。
2×4工法は非常に合理化されており、使用部材が少なく、仕口も簡単だ。基本的に主要構造材にはJAS(日本農林規格)のムク製材品を使用するので、国内の製材工場にとっても対応しやすい。乾燥機とプレーナーさえあれば、既存の製材加工ラインを活用して2×4材を生産できる。
つまり、多額な設備投資をしなくても国産2×4材のメーカーになれるわけか。
2×4材メーカーとなる国産材製材工場には、今の品質管理水準をさらに高めていく取り組みを期待したい。その実力は、十分に備えているとみている。
以前、カナダのバンクーバーでSPFの2×4材を見たことがある。率直に言って、仕上げは粗いという印象を持った。
SPFの2×4材を扱う現場では、「クリアランス」という業界用語がよく使われる。いわゆる「余裕」や「すき間」を意味し、施工時に調整することが必要になっている。精度の高い国産2×4材ができれば、この「クリアランス」をゼロにして、施工時のムダを省くことが可能になる。
「無垢材活用の会」を核に「小さなサプライチェーン」構築
高精度の国産2×4材を安定的に供給できるようになれば、外国産2×4材のシェアを奪っていくことができると考えるか。
その可能性は大いにあるが、個々の国産2×4材メーカーがバラバラに取り組んでいるだけでは限界があるだろう。川上と川下の関係者が結束して戦略的なプロジェクトを展開することが必要だ。そのために、2022年2月に「無垢材活用の会」を立ち上げた。全国各地の事業者に参画していただいており、2×4工法の国産材化に向けた「小さなサプライチェーン」をつくっていくことを目指している(図参照)。
川上と川下の事業者は、利害が反するところがある。同じテーブルにつくのは、なかなか難しいのが実情だ。
確かに、住宅を建てる側は「欲しい材をできるだけ安く入手したい」と考え、山側は「一定の価格と量を約束して買ってもらいたい」と要望する。お互いに疑心暗鬼になっているところがある。この局面を打開するためには、もっと情報共有を進めて業種を超えたチームとしての取り組みが必要になる。「無垢材活用の会」がその母体になれればと願っているし、具体的な成果も出てきた。
具体的な成果とは?
昨年(2023年)6月9日に、弊社と佐伯広域森林組合(大分県佐伯市)、ウッドステーション(株)(千葉県千葉市)、佐伯市の4者で、再造林を促進する木材取引協定を締結した*1。この協定のポイントは、通常の製品価格に再造林費用を上乗せした価格で一定量の取引を約束することだ。疑心暗鬼を払拭するモデルケースにしたい。
海外産2×4材の「置き換え」でなく、別の土俵で勝負すべき
製品価格に再造林費用を上乗せするためには、2×4材の生産・加工・流通過程で一層のコストダウンを図っていく必要があるだろう。
その問題も2×4工法の特長を活かすことで解決できる。これから建築や物流分野などで人手不足が深刻化していくのは間違いない。この状況に対応するためには、2×4材を使ったパネル化工法をもっと進化させて、施工の合理化や省力化を進めることが欠かせない。例えば、1棟の住宅を建てる場合に、SPFの2×4材は20本使っているが、国産の2×4材ならば16本で済むような仕組みをつくっていきたい。合理化や省力化によって生み出される利益を山元に還元することで、再造林可能な循環型林業が実現できる。
国産2×4材の市場戦略がかなり明確になってきた。今後は、北米など海外のマーケットに輸出することも重点課題になる。
もちろん、国産2×4材の海外輸出も重要なテーマだ。ただその際は、単純な「置き換え」に陥らないように留意すべきだ。
「置き換え」とは、どういうことか。
SPFなど外国産の2×4材と同じ土俵には乗らないようにするという意味だ。
今、北米では、SPFとともにサザンイエローパインを使った2×4材がよく使われるようになっている。成長の早いサザンイエローパインは、供給力が高く価格も安いので急速に普及してきている。そこに海を越えて国産2×4材を持ち込んでも、輸送コストもあるので、価格競争力は出てこない。消耗戦になるだけだろう。
では、どうすればいいか。
国産2×4材を単品として輸出するのではなく、パネル化した製品にして、施工の合理化などとセットにして供給するべきだ。
「2×4建築パネル」などを戦略的に供給し日本林業復権へ
なるほど。製品として輸出するのであれば、土俵を変えられる。
国産2×4材は、海外産のものより品質や精度のいいものができるだろう。しかし、現地のカーペンターが雑に施工をしたら台無しになる。日本で高品質なパネルにして、北米では組み立てるだけというシステムにすれば、メイド・イン・ジャパンの製品に対する評価が高まり、相場に左右されない価格で安定的な利益を確保できるようになる。
そこまでの体制を構築するには、どうすればいいか。
弊社のように2×4材の輸出入から加工、販売までを一貫して手がけているコンポーネント会社が一定の役割を担えると考えている。
すでに、ウッドステーションと業務提携して、サッシや断熱材まで組み込んだ「2×4建築パネル」を製品化しており、これから本格的に普及していく計画だ。
今後に向けては、山元の伐採・製材方法も、2×4工法を念頭に置いて見直していくことが求められる。在来工法の“おまけ”ではなく、2×4工法独自のサプライチェーンを構築することで、日本林業とムク材の復権が叶えられると考えている。
(2024年2月28日取材)
(トップ画像=ウイングの工場では壁・床・天井・小屋(屋根)をパネル化して完成度を高めている。画像提供:ウイング)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。