ハイブリッド型林業で「磨き丸太」を守る米嶋銘木【突撃レポート】

ハイブリッド型林業で「磨き丸太」を守る米嶋銘木【突撃レポート】

明治期前からの山林事業を受け継ぎ、昨年(2020年)7月に法人化した米嶋銘木(株)(京都府京都市右京区、米嶋昌史・代表取締役)が独自の経営スタイルをつくり上げている。地元・京北地域の特産である「磨き丸太」づくりを絶えさせないために、林業機械化を積極的に進めるハイブリッド型の事業を展開している。(文中敬称略)

生産業者はピーク時から9割減、本来の良さをどう伝えるか

米嶋銘木の起源である米嶋家は、明治期前から京北地域を代表する山林家として知られていた。そして、北山磨き丸太ブームが到来した1972(昭和47)年に個人事業者として米嶋銘木を設立し、昨年7月に株式会社となった。

米嶋昌史・米嶋銘木社長

社長の米嶋昌史(64歳)は、磨き丸太の(せ)り市を運営する京北銘木生産協同組合(京都市右京区)の理事長でもある。和風住宅の減少などで、磨き丸太の売れ行きに往事の勢いはない。生産業者は、ピーク時に比べて9割以上が廃業したといわれる。

この苦境から抜け出すため、同組合では、表面仕上げや含水率、強度等級の明確化などを通じて磨き丸太の品質向上を図っている。また、中国・上海での展示販売や、ベンチ・壁材といった新製品の開発など、磨き丸太の新規需要開拓にもチャレンジ中だ。

米嶋は率直に言う。「磨き丸太は完成された製品。下手に削ったり色を塗ったりすると他の製品と競合するようになり価値が下がる。北山林業の歴史とともに、磨き丸太本来の良さをどう伝えていくかが鍵になる」

年間に約700本の人工絞り丸太を生産、独特の技法を継承

磨き丸太には、自然に絞り模様が浮き出た「天然絞り丸太」と、人の手で絞り模様をつくる「人工絞り丸太」がある。価格は、人工絞り丸太が6万円前後、天然絞り丸太なら15万円前後が相場となっているが、「それはあくまでも目安」(米嶋)。3,000円程度の安値品がある一方で、天然モノになると1本100万円以上の青天井価格になる。このほかに、出節丸太や面皮丸太、数寄屋建築用の雑木丸太など磨き丸太には幅広い種類がある。

こうした中で米嶋銘木では、年間約2,500本の磨き丸太を生産し、うち約700本は人工絞り丸太に加工している。「これだけの量を生産している業者は、弊社くらいになってしまった」という文字通りのトップメーカーだ。

同社が抱える60歳代の職人は、人工絞り丸太づくりを続けて40年になる。適木を選び、絞り模様をつけていく作業はまさに職人技だ。

「はし」を巻いて人工絞り丸太が生産されている林分、昔はよく見られた風景だが今は珍しくなった
「はし」が解かれた林分

まず、「はし」といわれるプラスチック製の棒を、薄皮1枚残した樹皮に針金を用いてくくりつける。「はし」をつける高さは、地上1mくらいから3~6mまでだが、12mの高所までくくりつけることもある。1本巻くのに約1時間半はかかる根気のいる仕事だ。

「はし」は、大小2種類があり、稲妻模様状に曲がっていて、上下で微妙に角度が異なる。この組み合わせによって無数の模様パターンをつくることができる。ただし、あくまでも自然さを失わないようにすることが基本だ。

「はし」は、2年間くくりつけたままにする。すると、「はし」と「はし」の合間が浮かび上がり、伐採の数週間前にほどくと絞り模様が残る。こうして「工芸品のような磨き丸太」ができあがる。

350haのフィールドで計9台の林業機械を効率的に活用

「ほとんどの業者は磨き丸太を捨てて素材生産業か別事業へ転換していった。その中で磨き丸太づくりを続けるためには、最新式の林業を取り入れて、経営の多角化を進めるしかない」と米嶋は話す。

磨き丸太生産では、ha当たり約6,000本を植え、枝打ちや間伐を繰り返し、約30年後に約3,000本になった段階で皆伐し、再造林する。収穫時には丁寧な地拵えが必要になりコストが嵩む。ただ、同社が磨き丸太生産を行っている場所は、北山では珍しい緩傾斜地であり、「機械を使った林業ができる」という地の利がある。

米嶋は、10年前から森林経営計画を樹立して施業を行っている。当初は約50haの持ち山を中心に実施していたが、現在は約300haの区画も加え、計約350haのフィールドを抱えるまでになった。

また、6年前には、大学卒業後、京都府立林業大学校に進学し、林業機械の操作技術などを学んだ息子・貴生(31歳)が家業に戻ってきた。以降、「息子と相談して、中古の機械でもいいものならば積極的に導入していくようになった」。ほぼ1年に1台購入するペースで機械装備を拡充していき、今ではハーベスタやフェラーバンチャザウルス、フォワーダなど計9台の林業機械を有する。これを20歳代から60歳代までの4名の社員が使いこなす体制ができてきた。

年間約1,000m3を間伐中心に伐出している

磨き丸太という高付加価値製品をつくるために、機械作業時には特有の配慮が必要になるが、それが他には真似のできない作業システムの確立にもつながってきている。

米嶋は、「機械化を進めても弊社の生産規模が大きく増えることはない」と見定めた上で、「細く、長く、風景とともに、先人たちが築いてきた磨き丸太の技術を絶やさないように、時代に合わせた技術を取り入れ、継続していきたい」と意欲を口にした。

(トップ画像=京北銘木生産協同組合の倉庫に並ぶ磨き丸太)

『林政ニュース』編集部

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