生産者目線から脱却し、エンドユースに合った資源を開発
九州における早生広葉樹の利用、とくにセンダンの商品化が加速するきっかけとなったのは、4年前に九州大学で開催されたあるシンポジウムだった。「国産早生広葉樹を考える」のテーマの下、横尾謙一郎氏や中ノ森哲朗氏などキーパーソンが一堂に会する機会となり、家具の産地・大川での製品づくりにつながった。
このシンポジウムを企画したのが、九州大学教授の松村順司氏。国内外の早生樹に関する研究に、ライフワークとして取り組んでいる。

松村氏は、6月19日に静岡市で開催された「第34回全国優良ツキ板展示大会」(家具展示大会と同時開催)に駆けつけ、特別講演を行った。100名を超える木材・家具業者らに国産の早生広葉樹が秘める可能性を伝えるとともに、持論である「フィードバック型林業」について解説。エンドユースにマッチした多種多様な国産木質資源を開発し、より高品質なものにしていくサイクルをつくることが「極めて重要」と強調した。
高度経済成長時代に「つくれば売れる」という成功体験を味わった日本の林業・木材産業界は、生産者中心の考え方からなかなか脱却できない。松村氏が「フィードバック型林業」という造語を唱え始めたのは24年前だが、「当時はほとんど反応がなかった」と振り返る。だが、「最近は理解してくれる人が増えてきた」と言い、「もっと仲間を増やしていきたい」と続けた。
この言葉に応えるような動きが、関西で始まっている。
関西の10か所にセンダン植栽、早生植林材研究会も積極活動
管内の10か所で、計170本のセンダンを試験植栽する──近畿中国森林管理局は、4月末に公表した今年度(平成27年度)の重点取組事項で、早生樹の育成に踏み出す方針を打ち出した。最も有望な樹種としてセンダンを選び、5月までに図に示した各地で植え付けを完了。併せて、岡山森林管理署では、早生針葉樹であるコウヨウザンの植栽も行った。

同局は、平成25年11月に京都府立大学と協力協定を締結しており(第475号参照)、これからセンダン等の成長量に関するデータ収集や施業方法、植栽適地の検討などを、両者が連携して進めていくことにしている。
また、日本木材加工技術協会関西支部も早生植林材研究会を設置して意欲的な活動を続けている。同研究会は、一昨年に先進地である大川を視察し、大阪市内でセンダンを試験植栽した。その成果などを踏まえ、7月24日には大阪港木材倉庫(株)の会議室に近畿中国局や熊本県の関係者らを招いてシンポジウムを開き、普及啓発活動にも力を入れていくことにしている。
「さすがに関西は対応が早い」──九州の早生広葉樹関係者が舌を巻くようなスピード感で、産学官の取り組みが進んでいる。
「暖かいところだけの話」を打破、地域の「売り」を育てる
九州、そして関西でクローズアップされてきた早生広葉樹。だが、全国的な広がりをみせるには、まだ時間がかかりそうだ。
全国化粧合単板工業協同組合連合会が行った未利用広葉樹についての調査事業では、都道府県を対象にしたアンケートも行った(37都道府県が回答)。その中で、「早生広葉樹資源として捉えている樹種はありますか?」という問いに対しては、「ない」という回答が76%と4分の3を占め、早生広葉樹の育成に関しても「考えていない」という回答が43%にのぼった。
調査事業の報告書には、「『早生=暖かいところだけの話』を打ち破る必要がある」との記述もある。報告書をとりまとめた松村氏は、「総じて西日本は関心が高いが、まだ『何のこと?』という地域も多い」と認める。そして、「全国各地でセンダンを植えるのもどうか。地域ごとに『売り』になる樹種を見つけたい」と語る。調査事業の対象樹種に北海道産のハンノキや長野県産のチャンチンを加えたのも、多様性を広げる狙いからであり、「どこにどんな木があるのか、また、ユーザー側はどういう材料が欲しいのかという発信をどんどんしてほしい」と呼びかけている。
九大演習林に早生樹の試験林、ロードマップ作成し未来へ
3月、福岡県糟屋郡の九州大学演習林内に、1haほどの造林地がつくられた。植えられたのは、センダン、チャンチン、チャンチンモドキ、ユリノキなどの広葉樹と針葉樹のコウヨウザンなど11樹種。松村氏が念願していた早生樹の試験林で、「私(現在49歳)が退官するころには伐って使える木が出てくるでしょう」と笑顔をみせる。
「フィードバック型林業」を実践する場を得た松村氏は、最終目標として「国際競争力のある木質資源をつくること」をあげる。そのためのロードマップをつくり、エンドユーザーの視点から「今、取り組んでいけば、次の世代は恩恵を受けることができる」と前を見詰める。
早生樹の試験林は、様々な分野の研究者らに開放して各種のデータを収集、分析していくという。“未来への実験場”からどのような“果実”がもたらされるか、期待が高まる。

『林政ニュース』編集部
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