森の恵み「フルボ酸」を化粧品にも提供・国土防災技術【突撃レポート】

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森の恵み「フルボ酸」を化粧品にも提供・国土防災技術【突撃レポート】

治山・林道・建設コンサルタントの国土防災技術(株)(東京都港区、柳内克行社長)が森林から得られる「フルボ酸」を用いた新規ビジネスを拡大している。公共事業を中心とした地すべり調査を主業としている同社だが、フルボ酸のユーザーは多方面に広がり、化粧品にも使われるようになってきた。新たな“森の恵み”事業が見せ始めた可能性をレポートする。

自然界の“眠れる資源”をチップと木酢液で効率的に生産

フルボ酸とは、土壌の腐植層に含まれる物質の1種で、ミネラルの溶出を促進し、保持する機能を持つ。「ミネラルの運び屋」とも呼ばれ、植物の生長促進や土壌改良、水質浄化などに効果がある。かねてから自然界に存在する有用物質として知られていたが、土壌中で腐植層が1cm形成されるには約100年の時間を要し、効率的にフルボ酸を抽出・精製することは難しかった。

田中賢治・国土防災技術緑環境事業部長(兼日本フルボ酸総合研究所会長)

国土防災技術は、この“眠れる資源”を有効活用すべく、約10年前から技術開発に着手。担当の田中賢治・緑環境事業部長によると、「当初は硫酸や塩酸を使ってフルボ酸をつくろうとしたが、なかなかうまくいかずに廃液の処理も問題になった。試行錯誤を重ねているうちに、pHの低い木酢液を用いればといいと思いついた」。そして、木質バイオマス・木質チップを木酢液に数百時間浸して人工的に腐植化させ、効率的にフルボ酸溶液を生成することに成功。一連の製造工程について特許を取得し、東北や九州などから木酢液を調達するルートも確保して、「安定的かつ大量にフルボ酸を得られるようになった」。現在、同社では、フルボ酸を配合した土壌改良資材(商品名「ネクストソイル」)などを販売している。

芝生緑化、農地改良、塩害地再生、海藻復元など広がる用途

国土防災技術のフルボ酸製品は、様々なところで使われている。

首都・東京では、渋谷区の恵比寿東公園や文京区の小学校などで、芝生の緑化を促進するためにフルボ酸を希釈した植物活性剤が散布され、効果をあげている。

農業分野では、新燃岳の噴火で降灰被害を受けた宮崎県都城市内の農場が土壌改良のためにネクストソイルを使用。牛糞やバーク堆肥を用いた場合と比べて稲の倒伏率が低下し、米の収量が1.2倍にアップ、ホウレンソウの成長率が1.3倍に高まったなどのデータが得られている。

ネクストソイルと製鋼スラグをミックスした土壌改良資材もつくられており、荒廃森林の再生に実績があったとして、平成24年度の第39回日立環境財団「環境賞」を受賞した(新日鐵住金(株)との共同受賞)。

このほか、中国における砂漠緑化や塩害地の再生、さらに海藻の復元など、「フルボ酸は、陸域・海域を問わずどこでも利用できる」(田中部長)。高い汎用性がフルボ酸の魅力であり、人の肌に触れる化粧品の分野でも使われ始めている。

日本フルボ酸総合研究所がヘアケア・スキンケアで商品化

練馬駅から徒歩3分ほどの住宅地に事務所を置く(株)日本フルボ酸総合研究所。まだ社員は3人というベンチャー企業だが、フルボ酸を配合したヘアケアやスキンケアなどの化粧品シリーズ「フルピュア」を世に出し、業績を向上させている。

飛田和陽子・日本フルボ酸総合研究所社長

同社の飛田和陽子社長は、以前からフルボ酸に注目していたが、「特殊でわかりにくいもの」であり、手を出すことには躊躇していたという。だが、3年前に、田中部長が学会に出した論文に出会い、化粧品の原料として使用することを決断。国土防災技術と業務提携し、田中部長を会長(兼務)として迎えて助言を受けながら、フルボ酸を「フルピュア」に活用している。

「フルピュア」は、市販の化粧品よりはやや高額だが、シャンプーが“仕事”の理美容師などから、「手あれがなくなった」など好評を得ているという。

フルボ酸を化粧品に用いる場合、とりわけ安全性への配慮が重要になる。同社では、化粧品の成分表示に関する国際規格であるINCIコードを取得しており、「フルピュア」に表示して“安全・安心な製品”であることを消費者に明示。飛田和社長は、「日本の森をよくする商品であることも伝えていきたい」と話している。

「得たいの知れないもの」が「知れるもの」に、輸出も可能

「フルボ酸は、得体の知れないものというイメージがありましたからね」――田中部長は苦笑しながらこう振り返り、「これからは林業の活性化に役立てていきたい」と意欲をみせる。フルボ酸づくりに必要なチップや木酢液(木炭)の樹種は何でもよく、大きな設備投資も必要ない。微生物による発酵過程を経ていないので、そのまま輸出することもできる。

フルボ酸を希釈せずに直接土壌に撒くと栄養過多になりすぎるなど使用上の留意点はあるが、「ようやく得体の知れるものになってきた」と田中部長は言う。地方創生が叫ばれる中、フルボ酸が山村地域に新たな収入機会を生み出す――そんな期待の芽が出てきている。

(2015年6月22日取材)

(トップ画像=希釈した「フルボ酸」を撒いて校庭の芝生を緑化した東京都内の小学校)

『林政ニュース』編集部

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