注目集める全天連の調査報告書、早生5樹種の可能性探る
この春、1冊の調査レポートが注目を集めている。題名は、『未利用広葉樹の新規需要開拓に関する調査委託事業報告書』。全国天然木化粧合単板工業協同組合連合会(全天連)が昨年度(平成26年度)の補正予算を活用して行った調査事業の結果をまとめたものだ。注目されている理由は、内容の斬新さにある。ポイントは、次の3つだ。
第1に、調査対象を伐期が20~30年の国産早生広葉樹に絞っていること。国内の広葉樹というと、ケヤキやブナなどの「銘木」がまず頭に浮かぶが、同調査では、植えてから30年以下で伐り出せるセンダン(熊本県産)、チャンチン(長野県産)、チャンチンモドキ(大分県産)、ユリノキ(同)、ハンノキ(北海道産)の5樹種に焦点をあてた。第2に、これら5樹種の材質評価を行うだけでなく、実際にツキ板・家具・フローリング製品などを試作して、ユーザー目線で商品化の可否を検証した。第3に、早生広葉樹林の造成地として、里山、とくに耕作放棄地を有力候補に位置づけた。
これら3つは、針葉樹人工林を前提とした、従来の林業の「常識」にはなかった切り口だ。そして調査の結果、概ね良好な結果が得られたと報告書は伝えている。つまり、人家に近いアクセスのよい場所で、早生広葉樹による短伐期林業を行う可能性が示されたのだ。
ロシア産ナラ・タモを希少樹種に指定、資源枯渇が深刻に
この「常識」に捉われない調査が行われた背景には、広葉樹資源を巡る世界的な情勢変化がある。
昨年6月、日本の家具業界などに衝撃を与えるニュースがロシアからもたらされた。ロシアの天然林に生育するナラ(モンゴリナラ)とタモ(ヤチダモ)がワシントン条約(CITES)の附属書Ⅲに登録され、輸出するには事前申請が必要となったのだ。ロシア政府がナラ・タモを希少樹種に指定して保護に動いたのは、資源の減少が深刻化してきたからとみられている。
現在、日本国内で販売されている輸入家具の最大産地は中国だが、その中国は揚子江流域で起きた大規模な洪水災害の教訓から、上流域での天然林伐採禁止措置を強化している。黒竜江省や大興安嶺全域にとどまらず、吉林省や内モンゴルを含めた東北全域で、天然林の伐採を取り止める政策がとられている。
このため中国の家具業者は、用材(原木)をもっぱらロシアから調達するようになっているのだが、ナラ・タモのワシントン条約登録で、その供給源が先細っていく危機感が強まっている。
一方、ロシアと並んで天然広葉樹林が豊富なことで知られる北米でも、資源保護への要請が日増しに強まっており、供給量の減少は避けられない見通しだ。
世界的に環境意識が高まる中で、針葉樹資源と同様に、広葉樹資源も人工林を育てて安定供給を図る方向へとシフトチェンジしていくことが迫られている。今や「広葉樹材は人工林から」が世界の「常識」であり、その広葉樹人工林を自国内でいかに育成していくかが問われている。 では、この激変期に、広葉樹業界のプロ達は、どう対応しようとしていくのか。その“肉声”を、次号からおおくりする。続きはこちら。
(トップ画像=早生広葉樹でつくられた化粧合板のサンプル(写真提供:林野庁))
『林政ニュース』編集部
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