早生樹革命は可能か? 盛況シンポから、目指すは「林業の時間軸を変える!」【緑風対談】

早生樹革命は可能か? 盛況シンポから、目指すは「林業の時間軸を変える!」【緑風対談】

年度末は補助事業の成果報告会などが毎日のように行われ、霞ヶ関を中心に都内を右往左往する関係者が目につく。その中で一際目を引く集会があった。3月4日に東京大学弥生講堂一条ホールで開催されたシンポジウムだ。テーマは、「早生樹・エリートツリーの現状と未来」。20~40年程度の短伐期で収穫が期待できるコウヨウザンやヤナギ、センダンなどの利用可能性を探った。

会場に行って驚いたのは、定員300名の席が開始前から満杯になり、立ち見の参加者もいたことだ。林業・木材関係の会合では異例の盛況であり、関心の高さが窺えた。

会場は満席で立ち見の人も

シンポジウムのキャッチフレーズが「林業の時間軸を変える」とあったのも刺激的かつ意欲的だった。木を育てるには長期の時間がかかるというのが林業界では至極当たり前の話。その制約の中で様々な努力が重ねられてきたのだが、人口減少など日本の先行きを展望すると、従来の延長線上ではない大胆な発想転換が必要になっている。そうした時代背景も追い風になって、チャレンジングなシンポジウムが実現したのだろう。

中ノ森氏「パナソニックだけで月300~500m3必要」

シンポジウムでは、宇津木玄・森林総合研究所研究ディレクターと松村順司・九州大学教授が総合的な解説をした後、樹種ごとの事例発表が行われた。コウヨウザンは生方正俊・林木育種センター遺伝資源部長と松本寛喜・四国森林管理局森林整備部長、ヤナギは原山尚徳・森林総研北海道支所主任研究員、センダンは横尾謙一郎・熊本県林業研究指導所育林環境部長、エリートツリーは倉本哲嗣・林木育種センター育種第1課長がそれぞれ最新の知見を披露。オノエヤナギとユキヤナギは北海道でも年間にha当たり10tの生産量が期待できるなど、興味深い報告が続いた。

早生樹の中でも注目度の高いコウヨウザンとセンダンについては、本誌でも折に触れ取り上げてきた*1*2*3*4*5*6。また、今回のシンポジウムの発表要旨は林野庁のホームページで公表されるという。そこでここでは、利用者(ユーザー)側の代表として登壇した中ノ森哲朗・パナソニックエコソリューションズ創研(株)上席コンサルタントの発言にスポットをあてよう。

早生樹ビジネスの可能性を力説する中ノ森哲朗

中ノ森氏は、松下電工出身で長年にわたって住宅資材の販売に携わってきた。30年以上前から海外の木材を扱うようになり、やがてユーカリやアカシア、ゴムの木、ファルカタなどの早生樹に重心を移した。そして今、最も着目しているのがセンダンだ。
 
中ノ森氏は、国産のセンダンについて「非常に可能性がある」と評価。独自のマーケット調査を踏まえ、「使いたいメーカーはいっぱいある」とも断言した。ただし、「パナソニック系列で扱うとなると毎月300~500m3はいる」と指摘、センダン製品を全国規模で販売するには安定した供給能力が不可欠であり、「センダンをどんどん植えて育てよう。早生樹ビジネスはすぐそこまで来ている」と呼びかけた。

西日本中心に試験植栽など進む、造林樹種に新しい選択肢

中ノ森氏のような営業のプロがそこまで期待をかけてくれるとは心強い。もう海外の木材を思いのままに輸入できる時代ではなくなった。潮目ははっきりと変わってきている。
 
そうなると問われるのは、中ノ森氏のいう早生樹の供給能力、すなわち植林状況だ。林野庁が今回のシンポジウムで明らかにした各都道府県の取り組み状況はのとおり。主なものをあげると、次のようになる。

  •  茨城県=試験的にコウヨウザンのコンテナ苗を生産し植栽
  •  鳥取県=コウヨウザンのモデル林造成を支援
  •  広島県=コウヨウザンを森林整備事業で活用
  •  山口県=コウヨウザン、センダン、チャンチンモドキ等の実用化を検証
  •  長崎県=コウヨウザンやセンダンなど9樹種の適正化試験を実施
  •  熊本県=センダンなどを活用して植栽と下刈りコストを縮減
  •  鹿児島県=コウヨウザンを森林整備事業で活用
  •  沖縄県=ウラジロエノキ、ハマセンダンなどの植栽を推奨

全体的に西日本の方が積極的なようだが、前述したヤナギのように北海道でエネルギー作物として有望視されている樹種もある。早生樹についても適地適木の見極めが重要であることは言うまでもないが、スギ・ヒノキ一辺倒だった造林樹種に新しい選択肢が出てきていることは間違いない。

こうした状況の中で開催された今回のシンポジウムがこれからどのような波及効果を生んでいくか。引き続き注視していこう。

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体お主は何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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