枠にとらわれない発想で林業の可能性を広げる「森と踊る」【現場で輝く!】

枠にとらわれない発想で林業の可能性を広げる「森と踊る」【現場で輝く!】

東京都八王子市の高尾山で、一風変わった森づくりをしている会社がある。2016年に創業した森と踊る(株)(三木一弥社長)だ。既成の林業の枠にとらわれない柔軟な発想で新規事業を展開し、林業の可能性を広げている。

8年前に突如木こりに“変身”、創業時はツルハシで道づくり

森と踊るの三木一弥社長(52歳)は、8年前に会社勤めを突如辞めて、山に入った。その理由を聞くと、「自分でもわからないんですよ。気づいたら木こりになっていました」と飄々と話す。退職後、知り合いの縁で山主とつながり、山林管理を請け負うようになった。

三木一弥・森と踊る社長

ただし、林業には全くの素人であり、1年目は約10m×10mの森林整備しか頼まれなかった。ここにツルハシとシャベルを持って林道をつけていったが、重機なしでは「ほとんどものにならなかった」。それでも黙々と現場に通い、少しずつ仲間を増やしていった。その姿が山主や地域住民の目にとまり、今では約200haの森林整備を任されるまでになっている。

土中環境」を重視、水を潜らせ循環させて山全体を活性化

三木社長が活動を始めた頃は、もっぱら皮むき間伐を行っていたが、造園会社や製材所の関係者など様々な出会いを経て、森づくりのやり方が変わってきた。

現在の同社の森づくりは、「土中環境」を重視して行われている。(株)高田造園設計事務所の高田宏臣社長に教えを受けながら、古来から伝わる土木技術を林業に融合させた独自の取り組みを続けている。

枠内が“潜水”用の側溝入り口

例えば通常、林道の雨水対策では、ゴム盤や丸太を埋め込み、水が路面上を“走らせる”ようにする。しかし、同社のやり方は、雨水を路面の下に“潜らせる”。林道の切土側の法面に20cmほどの側溝を掘り、炭と枝葉や藁を敷き詰めて水の潜り道にする。尾根側から流れた水は側溝に入り路面の下を通って谷側に流れる。また、必要に応じて大きな穴を掘り、潜水の入り口を広げる。「これを繰り返すと山全体の水脈がつながり、水の流れがよくなる。水が循環すると、空気を運び、樹木の成長がよくなり、山全体が活性化してくる」と三木社長は説明する。

「食べ森クラブ」に「森ぼー」などユニークプログラム展開

森と踊るの社員数は、副業で参加しているメンバーも合わせて6名。年間の売上高は1,500万円程度。事業の主軸は、森づくりと丸太・木材の販売などだが、森林空間を利用した事業にも力を入れている。

「食べられる森をつくろう!」を合言葉に2019年から始まった「食べ森クラブ」は、月に1度、同社が管理する森林内で10組の家族がアクティビティを行うもの。参加費は、家族1組当たり年間16万5,000円(税込み)。三木社長は、「高額ではないか?とも言われたが、『子供たちが本当に伸び伸びと遊んでいる。教育費と考えたら安いくらい』と言われて嬉しかった」と笑顔をみせる。

林内のウッドデッキでぼーっとできる

このほか、林内でリラックスするだけの「森ぼー」と名づけたイベントも参加費1,000円で実施している。「『気持ちのいい森だから』といって100万円寄付してくれる人もいた」と三木社長は話しており、今後に向けて、「森を安売りせずに全体の価値を高めていきたい」と意欲をみせている。

『林政ニュース』編集部

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