(後編)国産材輸出のトップランナー・瀬崎林業の挑戦【遠藤日雄のルポ&対論】

(後編)国産材輸出のトップランナー・瀬崎林業の挑戦【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)2010年に国産材の海外輸出という新規事業に挑み、着実に実績を積み上げてきた瀬崎林業(株)(大阪府大阪市、遠野嘉之・代表取締役社長)。現在は、主に中国や台湾に向けて原木(丸太)を出荷し、販路を広げている。
政府が策定している「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」では、海外市場の開拓にあたって、「生産から販売までのバリューチェーン全体を、『プロダクトアウト』から『マーケットイン』に徹底的に転換する必要がある」と強調している。では、この「戦略」を国産材輸出で実践していくためには、どのように取り組んでいけばいいのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、現場の第一線に立ち続けている遠野社長に具体的な処方箋を聞くことにした。

「マーケットイン」とは? 中国・台湾に大径材問題はない

遠藤理事長

海外市場の開拓は、「プロダクトアウト」ではなく「マーケットイン」でと言われても、実際のビジネスで行っていくことは簡単ではない。
遠野社長の言うとおり、“価値”というものは買う側が決めるもので、中国や台湾が原木を求めているのに、日本の価値観で製材・加工した製品を売り込もうとしても、無理がある。「マーケットイン」の成否は、いかに買う側のニーズを掴むかにかかっている。

遠野社長

日本の製材・加工は、基本的に在来工法住宅用の柱取りを念頭に置いて行われている。このため、径級が14cm、16cm程度のいわゆる柱適寸の原木の値段が高く、30cm、40cm、50cmと径級が大きくなるほど値段が下がる。
この話を中国や台湾ですると、とても驚かれる。径級の大きい原木ならば、多少の曲がりなどはあっても製材・加工で工夫すれば様々な利用の仕方があるからだ。

遠藤

日本では大径材の有効利用が課題になっているが、中国や台湾では考えられないということか。

遠野

国産材の原木、とくにスギは、価格的にも買いやすいと評価されている。ここに国産材輸出の1つのポイントがある。

物流費をどれだけ削れるかがカギ、輸出拠点の整備が不可欠

遠藤

スギ原木は、他の国の原木と比べても競争力があるのか。

遠野

アジアで最も購買力がある中国がスギ原木を盛んに買っている大きな理由は、物流費が安いからだ。日本から上海までなら3日あれば届けることができる。このような立地条件にあるところは他にない。
逆に言うと、スギ原木をインドに輸出しようとしても、距離が遠すぎて採算が合わない。

遠藤

物流コストは、国内外ともに上昇傾向が強まっている。

遠野

弊社が行っているようなビジネスでは、物流費をどれだけ削れるかがカギになる。上海のユーザーのように、隣国の有力な買い手とのパイプを太くするとともに、国内に効率的に輸出できる拠点を持っておく必要がある。

瀬崎林業の主な輸出入・営業拠点
遠藤

瀬崎林業は、九州各地の港が輸出拠点になっているという話だったが、どうやって整備してきたのか。原木置場の確保など、一朝一夕にはいかないだろう。

遠野

弊社は、1960年に日本で初めてニュージーランド産ラジアータパインの取り扱いを始めるなど、新機軸を打ち出しながら木材商社としてネットワークを広げてきた。九州各地の港の荷役会社や物流会社などとも長期にわたるつながりを持っており、これがベースとなって輸入から輸出への切り替えもスムーズに行うことができた。

製品輸出のターゲットは物価の高い国、2×4材などが有望

遠藤

国産原木の輸出事業を軌道に乗せてきた経験をもとに、これから製品輸出をどう伸ばしていけばいいのか、意見を聞きたい。

遠野

いわゆる製材品でみると、中国や台湾の相場はm3当たり200ドル前後で推移している。これに対して、国内での仕入れ価格は1万2,000円くらいになるので、なかなか利益が出ない。これでは、ビジネスとして成り立たせるのは難しい。
米国やヨーロッパなどの物価の高い先進国で使われる製品を輸出することを考えるべきだろう。

遠藤

米国向けにスギフェンス材を輸出する動きが広がっているが、単価が低いことが悩みのタネになっている。もっと値段の高い2×4(ツーバイフォー)材などに加工して輸出しようとする試みも始まっているがどうみているか。

遠野

2×4材や2×6(ツーバイシックス)材などにして輸出することには可能性がある。先進国のユーザーが高い値段でも買いたがるモノを見出して、安定的に供給できる体制をつくることが重要だ。そのためには、日本の林業の国際競争力をもっと高めていかなければならないだろう。

自らの目で見極めた上で買い付けし、山元への還元を増やす

遠藤

一般に商社というのは、AからBにモノを流してマージンをとっているだけというイメージが強いが、瀬崎林業の場合は、軸足を日本の林業に置きながら国境を超えたビジネスを行っているという印象がある。

遠野

弊社は、1908年に電柱や杭丸太の取り扱いで創業しており、国産材の卸問屋として事業基盤を築いてきた経緯がある。
現在も仕入れは自分達で行うことをモットーにしており、原木などは自らの目で見極めた上で買い付けている。

遠藤

どのような基準で買い付けているのか。

遠野

住宅用材になるようなA材やB材などはあまり購入しない。買い手がいないC材や大径材を買い付けて、輸出している。

遠藤

日本国内で使うものは日本に残しながら輸出事業をやっているということか。

遠野

国産の原木をできるだけ高い値段で売買して、山元への還元を増やすサイクルの確立を目標にしている。そのために、購入した原木は細かく選別するようにしている。5ドルでも値段に差がつくのであれば、高く売れるように工夫している。

遠藤

それには現場の“目利き力”が必要だ。なかなか他社では真似ができないだろう。

遠野

原木をきちんと仕分けして、最も必要としているユーザーに届ければ値段も高くなる。2021年からは九州産の原木を近畿・北陸・中国地方に輸出する事業も行っており、これらの地域の合板工場と製材工場向けに佐伯港、細島港、中津港、志布志港から原木を送り届けている。

約1,000万haの人工林を“武器”に世界に挑み、日本林業の復活へ

遠藤

これから「マーケットイン」で“外需”を掴んでいく上で、日本の約1,000万haに及ぶ人工林は“武器”になり得るか。

遠野

中国の関係者からは、「日本はわざと木を伐らないで、海外から原木や木材製品を輸入してきたのではないか、そうやって育ててきた木を今から高く売るつもりなのだろう」と言われる。それくらい海外から見ると日本の森林は魅力的な資源で、これを活かさない手はない。

遠藤

その点では、“内需”と“外需”の両方を視野に入れてマーケティングを行っている瀬崎林業のような企業の役割は非常に重要になってくる。

遠野

アジアにはベトナムなど、これから経済発展していく国や地域があるし、先進国の米国やヨーロッパも、品質がよくて価格的にも競争力のある木材製品を欲しがっている。
人口減少で住宅着工戸数も伸びない日本の中だけを対象にしてビジネスをやっていても将来展望は見えてこない。積極的に国外に出て行って、外貨を稼げるような競争力をつけていくことが欠かせない。そのことを通じて、約1,000万haの人工林の価値が高まり、日本林業が復活していくことにもなるだろう。

(2023年2月16日取材)

(トップ画像=瀬崎林業が管理する宮崎県日向市の細島港にある中国向け輸出用土場)

『林政ニュース』編集部

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