(前編)国産材輸出のトップランナー・瀬崎林業の挑戦【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編)国産材輸出のトップランナー・瀬崎林業の挑戦【遠藤日雄のルポ&対論】

人口が減り続けている日本。厚生労働省が2月28日に公表した人口動態統計速報によると、昨年(2022年)の出生数は前年比5.1%減の79万9,728人にとどまり、1899年の統計開始以降初めて80万人を下回った。人口減少に伴って“内需”は縮小していくと予想されており、新たな経済発展を実現するためには、国外に出て行って“外需”を掴むことが不可欠となっている。このため政府は、海外市場の開拓に国を挙げて取り組む方針をとっており、農林水産物・食品については2030年までに輸出額を5兆円に拡大し、木材など林産物の輸出額も1,660億円に伸ばす目標を設定。昨年10月には改正輸出促進法を施行して日本木材輸出振興協会等を「品目団体」に認定するなど、政策的な支援を強化している。
こうした“追い風”もあって国産材の輸出額は増加傾向にあり、原木(丸太)や製材、合板を中国など東南アジア諸国や米国等へ出荷する取り組みが活発化している。今後は、輸出品目をより付加価値の高いものにシフトさせながら、輸出先国を多角化していくことが課題となっている。では、この課題を乗り越えていくためには、今、何をすべきなのか。その“答え”を求めて、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、国産材輸出の実績でトップを走っている瀬崎林業(株)(大阪府大阪市)の遠野嘉之・代表取締役社長に、最新の事業プランを聞くことにした。同社は、2010年にいち早く国産材の輸出を始め、海外とのパイプを太くしながら取扱量を増やしてきている。

2010年にいち早く輸出にチャレンジし主力事業に育て上げる

瀬崎林業は、1908(明治41)年に創業した老舗の木材商社だ。110年を超える社歴を有し、時代の変化に合わせて主力事業のあり方を見直しながら国内外の顧客ニーズに応え続けてきた。現在は、チリの大手サプライヤー・アラウコ社から直接仕入れているラジアータパインを用いた木材製品(主に梱包材)の販売と、中国・ベトナムで生産されているLVL・合板の輸入・販売、そして原木を中心とした国産材の輸出事業が3本柱となっている。

社長の遠野氏は、1976年生まれの47歳。建設会社で設計や現場監督などを経験した後、20111年4月に同社に入社し、国産材輸出事業を軌道に乗せるなどの実績をあげて、2020年9月に第5代社長に就任した。創業家(瀬崎家)以外から初の社長に抜擢された遠野氏は、29名の社員が在籍する同社の若きリーダーとして、国内外を飛び回っている。

遠藤理事長

国産材の輸出には、瀬崎林業のほかにも、阪和興業(株)、住友林業フォレストサービス(株)、伊藤忠建材(株)、王子木材緑化(株)なども取り組んでいる。大手商社が乗り出している中で、中堅といえる瀬崎林業が輸出量でトップを維持している理由などを聞いていきたい。国産材の輸出にはいつ頃から取り組んでいるのか。

遠野嘉之・瀬崎林業社長
遠野社長

弊社が国産材の輸出を初めて行ったのは2010年だった。同年の10月に鹿児島県の志布志港、続いて12月には秋田県の土崎港及び徳島県の徳島港から台湾の高雄に向けてスギ間伐材をコンテナで輸出した。その後、2013年4月からバルク船を使って国産材の原木を中国へ輸出し、2017年からは製材品の輸出も行っている。国産材の輸出に本格的に取り組むようになってから10年余が経ち、弊社の年商の約3割を占める主力事業に育ってきた。

2020年に年間輸出量が20万m3突破、主力の中国がコロナ禍から復調

遠藤

近年の国産材の輸出実績はどうなっているのか。

遠野

2013年からの輸出量は、表のように推移している。
これまでほぼ右肩上がりで増えてきており、2017年に10万m3台に乗り、2020年にはこれまでのピークである約20万m3に達した。

遠藤

どのような国に輸出しているのか。

遠野

主に中国、台湾などに輸出している。

遠藤

2021年の輸出実績も20万m3近くだったが、2022年は14万m3台にダウンしている。これはコロナ禍の影響とみていいか。

遠野

そのとおりだ。メインの輸出国である中国がゼロコロナ政策をとりロックダウンなどによって経済活動がストップしたため、輸出量が減少した。

遠藤

ということは、中国のゼロコロナ政策が緩和された今年(2023年)は、国産材輸出が復調してくるのか。

遠野

改めて、輸出推進のアクセルを踏む状況になってきている。中国の経済活動はかなり活発になってきており、原木の引き合いが強い。価格交渉でも単価を上げる傾向になっている。

遠藤

輸出している品目は、原木が主体なのか。また、樹種の割合はどうなっているのか。

遠野

大半が原木で、製品はまだ少ない。樹種の比率はスギが85%、ヒノキが15%になっている。

遠藤

国産の原木をどこから輸出しているのか。

遠野

九州にある7か所の港を輸出拠点にしている。取扱量が最も多いのは宮崎県の細島港で、全体の4割程度を占めている。次いで多いのは、鹿児島県の志布志港と大分県の中津港となっている。

遠藤

国産原木の集荷はどうやっているのか。

遠野

基本的に、港から100㎞程度の範囲内で調達するようにしている。輸送費でみると1,500円くらいまでが集荷圏の目安になる。
とくに、スギの代表的な産地である宮崎県については、2019年に日向営業所を設置し、社員を地元から採用して地域とのつながりを強めながら集荷力を高めている。日向営業所は、今年になって九州支店に昇格させたところだ。

製品よりも原木が好まれる、“価値”は買う側が決めること

遠藤

これから国産材輸出の規模を拡大していくためには、どのように取り組んだらいいと考えるか。近年の輸出額は着実に増えてきており、昨年は前年比11%増の527億円に伸びた。品目別では約4割を原木が占めており、輸出先は中国がトップとなっている。
政府は、原木輸出から付加価値の高い製品輸出にシフトすべきとの考え方を示しているが、輸出事業の最前線にいる遠野社長の見解を聞きたい。

遠野

率直に言って、今の国内製品の価格やスペックを前提にして、中国など東南アジア諸国に売り込みをかけても、商談をまとめるのはなかなか難しいだろう。
先方にしてみると、原木で輸入して、自分達の価値観で製材・加工する方が扱いやすいし、メリットも多い。
ビジネスの基本として、“価値”というものは、買う側が決めるということを改めて確認しておく必要がある。

遠藤

なるほど。売る側がいくらこの製品はいいですよとセールスしても、現地のマーケットニーズにマッチしなければ通用しないということか。

遠野

中国や台湾の関係者からは、原木は付加価値が高いとよく言われる。まず必要なところを製材・加工し、残ったところも別の用途に使えるからだ。これに対して、日本で製材・加工された製品からは、本来あったはずの“価値”がそぎ落とされている可能性がある。(後編につづく)

(2023年2月16日取材)

『林政ニュース』編集部

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