続・協和木材の戦略 「山からの哲学」で未来を拓く【遠藤日雄のルポ&対論】

続・協和木材の戦略 「山からの哲学」で未来を拓く【遠藤日雄のルポ&対論】

国産材業界の新たな進路を見出すため、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、トップリーダーである協和木材(株)(東京都江東区)の佐川広興・代表取締役と3回にわたって「対論」を重ねた。*1*2*3この約30年を俯瞰しながら進んだ2人のディスカッションを通じて、①大規模化した国内工場は国際競争力を獲得してきている、②ムク(無垢)製品から集成材、2×4(ツーバイフォー)材などへとアイテム(品目)を広げていけば海外市場も開拓できる、③中小工場は高級特殊材の需要に応えることで生き残っていける──などの方向性が明らかになった。今後に向けた展望を得た遠藤理事長は、とくに佐川社長が最後に口にした「若い人材も出てきている」という言葉が心に残った。国産材業界を次代につなぎ、発展させていくためには、フレッシュなリーダーの登場が欠かせない。ただ、人を育てることは難しい。いくら研修や教育を重ねても、内面から込み上げてくるような意欲を引き出すのは簡単ではないからだ。何か参考になるモデルケースはないものかと頭をひねった遠藤理事長は、ハタと思い当たった。以前、佐川社長が「娘がやってくれそうだ」と話していたことに。協和木材の関係者に聞くと、佐川社長の次女・和佳子氏(47歳)が一昨年(2022年)4月に同社の専務取締役に就任し、現場第一線で活躍しているという。遠藤理事長は早速、和佳子専務に「対論」を申し込んだ。

持続可能な林業を成立させて、国産材の利用拡大に取り組む

遠藤理事長

はじめに、なぜ協和木材に入って経営の中枢を担おうと考えたのか、動機と抱負を聞かせて欲しい。

佐川専務

私は大学を出てから設計事務所に勤務して、外から協和木材という企業を見てきた。積極的に事業を拡大してきており、社員の皆さんがとても意欲的に業務に取り組んでいるという印象を持っていた。とくに新庄工場(山形県新庄市)の立ち上げでは、国産材の利用拡大をレベルアップさせる強い決意を感じ、是非一緒にやりたいと考えた。

佐川和佳子・協和木材専務取締役
遠藤

協和木材に入ったのは、いつだったのか。

佐川

2020年に入社し、これまで主に営業や総務などの業務を担当してきた。まだまだ勉強中で、学ぶことばかりだが、全力で取り組んでいきたい。

遠藤

専務取締役は社長に次ぐ役職で、経営に関する意思決定を補佐する重要な役割を担う。最も心がけていることは何か。

佐川

製材業は、「山からの哲学」というものを持っていないと成り立たないと強く感じている。山から生み出された丸太を加工して、ニーズに合わせて売っていく中で、ただ市況に委ねているだけでは山元に資金が戻らない。市場経済を前提とした上で、持続可能な林業を成立させるためにはどうすればいいか、自分なりの哲学を持っていきたいと考えている。

スケールメリットを活かして山元還元増やし地域経済底上げ

遠藤

もう30年以上前にご尊父の佐川社長と初めて会ったとき、福島県を中心に森林所有者のもとを丹念に訪れて、「間伐をしませんか」と呼びかけている姿が記憶に残っている。そうしたスタンスは今も変わらないということか。

佐川

私の祖父が弊社を1953(昭和28)年に創業したときから、「一人親方」と言われる素材生産業者の方々を集めて「協栄会」を組織し、福利厚生面の充実などに取り組んできている。長い歴史の中で山に関わる方々との信頼関係を深めてきたことは弊社の財産であり、これからも維持・発展させていきたい。そのためにも、工場の効率化などをもっと進めて利益率を高め、山に戻せるお金を増やしていきたい。

遠藤

日本林業の国際競争力を高める上で、素材生産や造林のコストダウンを図ることも重要だが、カギを握っているのは加工・流通段階の合理化であり、とくに製材企業は大きな役割を担っている。協和木材のように積極的な設備投資を続けて生産規模を拡大しながら利益を上げていく経営スタイルは、これから一段と存在感を増していくだろう。

佐川

弊社のように地方に生産拠点を置いている企業は、スケールメリットを活かして競争力を高めていく事業戦略がマッチしている。人口減少などで人材の確保が難しくなっている現状をカバーするためにも工場の自動化や無人化を進めていかなければいけない。
高級特殊材などへの対応は専門の製材工場にお願いし、弊社としては、規模拡大路線を追求していきたい。

遠藤

佐川社長も話していたが、大型工場と中小工場がそれぞれの持ち味を活かして共存共栄していけば、地域経済全体が底上げされる。

佐川

私は東北で生まれ育ったので、東北の経済を守りたいという気持ちが強い。東北には豊かな森林があり、伐採・加工して循環利用すべき山がたくさんある。弊社は、大量生産を基軸に据えて循環利用のサイクルを広げていくことにしており、この方針を曲げずにやっていきたい。

国産2×4材メーカーがネットワークを組み海外市場開拓へ

遠藤

これから国産材の需要を拡大していくためには、非住宅分野や海外など新しいマーケットを開拓していかなければならない。協和木材は2×4材の海外輸出も計画しているようだが、どのようなプランを温めているのか。

佐川

国産の2×4材は、非常に可能性の高い製品だと考えている。国内の大手ハウスメーカーが関心を示しているし、米国の製材規格委員会(ALSC)が認可したことで海外輸出の条件も整ってきた。*4
ただ、コスト面で海外産の2×4材に劣っているとユーザーは選んでくれない。量産化によってコストを削減し、競争力を高めていく必要がある。
海外市場を開拓できるような供給体制は、弊社単独で構築できるものではない。国産2×4材を生産できる企業がもっと増えて、ネットワークを組んでいく必要があるだろう。そのためには、原料となる丸太の確保が欠かせない。弊社は、2×4材を想定して山元の採材を行うことも試みている。こうした取り組みが広がれば、山との新しいつながり方が生まれてくるかもしれない。

透明性とクリアな経営によって信用される国産材業界になる

遠藤

新たな需要を掴もうとすると、取引先なども変わってくる。どのように対応していく考えか。

佐川

最近になって日本を代表するようなゼネコンやデベロッパー、投資企業などからお声がけをいただく機会が増えてきた。産業界全体で脱炭素化を推進することが求められている中で、国産材を利用したいという企業が増えてきていると実感する。それだけに、弊社のような国産材製品を供給する企業は、経営管理体制を現代的な視点から見直して、整備・強化していかなければならない。

遠藤

そういえば4月には、JAS法(日本農林規格法)に違反して認証を取り消される企業が出た。*5

佐川

ユーザーから信用される企業になるためには、生産した製品に関する品質保証や情報開示などをきちんと行うだけでなく、透明性の高いクリアな経営を心がける必要がある。
従来からの慣習や慣行で不透明なところや、世の中一般から見て不明瞭な部分はないか、自分達の目でチェックして経営管理のあり方をバージョンアップしていくことが必要だ。それが働きやすい職場づくりにもつながるだろう。

「クリアな経営を心がけていきたい」と話す佐川専務
遠藤

佐川専務のような若い経営者が出てきたことは、国産材業界が新たなフェーズに入ってきたことを意味する。益々の活躍を期待したい。

(2024年4月26日取材)

(トップ画像=山(森林)とのつながりを深めることが益々重要になっている(画像提供:協和木材))

『林政ニュース』編集部

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