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規模拡大路線貫徹し国際競争力獲得、懸念は中小工場の今後
これまでの約30年にわたる協和木材の歩みを振り返ると、国産材製材メーカーの規模拡大路線は1つの到達点に達したと言うことができる。スギ集成材がホワイトウッド(WW)集成材のシェアを奪い、国産2×4材を北米や東南アジアに輸出できるようになったのは、国際競争力がついてきた証(あかし)だ。
とにかく輸入材との競争に負けたくない、何としても勝ちたいという一念でやってきた。そのためには、製材コストを欧米並みに引き下げないと太刀打ちできない。国内工場の規模拡大は不可欠だ。弊社だけでなく、全国各地で大型工場が稼働するようになって業界全体の競争力が底上げされたことは、この約30年の成果と言っていいだろう。
その中で懸念されるのは、中小零細規模の工場が生き残れるかという問題だ。後継者不足などで廃業する工場も散見される。協和木材が(株)門脇木材(秋田県仙北市)を完全子会社化したようなケースが増えてくるのではないか*1。
M&A(企業の合併・買収)を仲介する企業からのアプローチとは別に、直接、経営を肩代わりしてくれないかという相談を受けることもある。過度期を迎えていることは確かだ。
もうKD(人工乾燥)材を生産できない工場は、マーケットで通用しない。KD材をコンスタントに供給するには、木屑焚きボイラーを土曜・日曜を含めて24時間稼働させる必要がある。ボイラーの監視だけで4人は配置しなければならず、従業員が20人以下の工場では対応が難しいだろう。
工場の立地も重要になる。街中にある工場でボイラーを燃やし続けるわけにはいかないし、加工ラインも24時間動かすとなると、郊外の工業団地などに移転しなければ、騒音問題などをクリアできない。
あらゆる樹種を扱って高級特殊材の需要を掴めば生き残れる
そうなると、中小零細規模の工場が存続するのは難しいと言わざるを得ない。
いや、弊社のような量産路線とは別の道で生き残っていく可能性は十分にある。具体的に言えば、高級特殊材を専門に挽く工場の存在意義は決して失われない。
国内の人工林が成長して、大径材の売り先がない、安く買い叩かれるという嘆き節が聞かれるが、大径材には「並材」と「良材」の2種類がある。大径並材は柱取りの中目丸太と同列に扱われるが、大径良材には全く別の需要がある。
もう昔のような役物製材は成り立たないのではないか。
旧来型の役物需要は減少したが、高値でもいいから高級特殊材を挽いて欲しいというユーザーは確実にいる。長さ6mくらいの大径材でも挽けるようにして、スギやヒノキだけでなく広葉樹まで含めてあらゆる樹種を扱える工場ならば生き残っていけるだろう。
弊社のような量産型の工場が仕入れる原木の中に二方無地が採れるヒノキが混ざっていても、率直に言って活かしようがない。餅は餅屋であり、m3当たり5万円を超えるような原木を丁寧に挽いて20~30万円の製品を供給する業態は今後も必要だ。とくに今は、海外から広葉樹の良材を手に入れることが難しくなっている。長さ2m・径24cmくらいのヤマザクラやナラが重宝されている現状をよく見ておく必要がある。
非住宅分野では郊外ロードサイド店舗の木造・木質化が有望
これから戸建てを中心に住宅需要はさらに落ち込んでいくと予想される。大手ゼネコンやハウスメーカーなどは、木造ビルなど非住宅分野に活路を求めているが、どう見ているか。
都心部に木造の高層ビルを建設するプロジェクトは、需要創出に向けたシンボリックな意味合いが強い。そこから得られた知見を実際のビジネスにどう落とし込んでいくかが課題になる。
木造の高層ビルが全国各地で建てられるようになるだろうか。
何よりもコスト競争力が問われる。最低でもRC(鉄筋コンクリート)造並みの価格で建設できなければ、商業ベースの需要を掴むことはできない。
日本のように防火や耐震基準が厳しい国で木造の高層ビルを建設するには、高度な加工を施した木質材料や独自の工法が必要になる。それをいくらで提供できるかがポイントだ。量産化によってコストダウンしていく道筋をはっきりと描き出していかなければならない。
では、非住宅分野の木造・木質化でメインターゲットとすべきなのはどこか。
郊外のロードサイドに多い平屋のコンビニエンスストアやドラッグストア、コーヒーショップなどの店舗は可能性が大きい。2×4工法などによって低コストで耐火建築物が建てられる。
また、弊社を含めた木材企業や森林組合、設計事務所などで協会をつくり、外壁(カーテンウォール)を木質化するWOOD・ALC(準耐火材)の普及を進めている*2。まだ施工事例が多いとは言えないが、一般的なALC(軽量気泡コンクリートパネル)よりも断熱性や調質性、環境調和性などが優れているので、引き続き利用拡大に取り組んでいきたい。
魅力的な職場をつくり人材確保、「未来は切り拓いていける」
最後に、人口減少時代への対応策について聞きたい。
あらゆる分野で担い手をどう確保し、育てていくかが最大の課題になる。例えば、建築関係では、現場での建て方を誰がやるのか。物件や工法の変化に即して、省力化や効率化を徹底していく必要がある。木材の加工・流通で主導権を握っているプレカット工場が現場の建て方までカバーする時代になっていくかもしれない。
製材工場などの人材確保はどう考えるか。
冷暖房なしの職場環境で働いてくれる人を集めることは益々難しくなる。これまでは、収入がよければ多少きつい仕事でも仕方ないと考える人がいたが、もういなくなった。外国人材を受け入れるにしても、言葉は悪いが「金で釣る」ことはできない。収入プラス魅力的な職場環境をいかに整えていくかがカギになる。
森林づくりの担い手を育てることも喫緊の課題だ。
その点が最も気がかりだ。とくに、造林の担い手育成を急がなければならない。弊社は、2021年に関連企業とともに「協同組合ウエル造林」*3を設立して次代の森林づくりに取り組んでいる。同様の動きが全国各地で広がることを期待している。
最後の最後に結論を聞きたい。日本林業に未来はあるか。
この約30年で大型製材工場の生産性は国際水準に達することができた。素材生産の生産性も向上してきている。造林についても、エリートツリーやICTなどの先進技術を活用すれば「新しい林業」に転換できる。これからの国産材業界を牽引するような若い人材も出てきている。未来は必ず切り拓いていけると確信している。
(2024年3月28日、協和木材東京本社で取材)
(トップ画像=スギ集成材の一大生産拠点となっている協和木材新庄工場(画像提供:協和木材))
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。