(前編)コンテナ苗100万本へ、岐阜樹木育苗センター【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編)コンテナ苗100万本へ、岐阜樹木育苗センター【遠藤日雄のルポ&対論】

半自動式播種機、発芽室等を完備した環境制御型生産施設

遠藤理事長が下呂市乗政の山間地にある岐阜樹木育苗センターを訪ねると、岐阜県の臼井規浩・森林整備課長と同センターの川添峰夫・シニアマネージャーが待っていた。同センターは、行政(岐阜県)と民間企業(住友林業)が“二人三脚”で運営しており、この2人がその中心的な役割を担っている。現場で陣頭指揮をとっている川添氏は、林野庁で林業機械化センター所長や天竜森林管理署長などをつとめ、定年退職後に乞われて住友林業に入社し、同センターのオペレーション全般を任されている。

挨拶を交わした3人は、直ちに育苗棟に足を踏み入れた。

遠藤理事長

整然としていて、まるで工場のようだ。いわゆる苗畑のイメージはない。

川添シニアマネージャー

ここは環境制御型の苗木生産施設で、最新の機器や設備を導入して、できる限り労働負荷を低減して実生のコンテナ苗を大量生産できるようにしている。

遠藤

実生ということは、種を播いて発芽させなければならない。それだけでも手間がかかるだろう。

半自動式播種機について説明する川添峰夫・岐阜樹木育苗センターシニアマネージャー
川添

播種については半自動式の専用機を使い、播種後は覆土をかけて発芽室に移している。発芽室の内部は、温度や湿度などが樹種特性に応じてコントロールできるようになっており、スギの場合ならば、2週間くらいで最大8万個体くらいが発芽する。

遠藤

そんなに発芽率が高いのか。スギのほかにはどんな樹種を扱っているのか。

川添

最近はカラマツのニーズが増えており、ほかに早生樹のコウヨウザンや、必要に応じて有用広葉樹も手がけている。樹種によって発芽速度が異なるので、発芽室内が最適な条件になるようにしている。

腰をかがめる作業など一切なし、土日はスマホで無人管理

遠藤

発芽した苗をコンテナで育てていくわけか。

川添

その工程も基本的に機械化している。コンテナ苗の運搬にはムービングベンチを利用しており、1人で一度に1500本を移動できる。腰をかがめて、手で持ち上げるような作業は一切ない。
育苗に必要な潅水や施肥、消毒液などは施設上部のスプリンクラーのような装置から散布される。潅水の量や時間などもボタン1つですべて自動制御できるようになっている。

遠藤

この育苗棟では何人が働いているのか。

川添

地元で採用した3人の女性に従事してもらっている。3人とも苗木づくりは初めてだったが、すぐに作業の要領を理解してくれた。棟内の温度や湿度はエアコンで管理されているので、冬の寒さや夏の暑さなどに悩まされず年間を通じて働くことができる。

遠藤

これだけの施設をコンパクトな人員で管理するのは大変ではないのか。

川添

各所にカメラや測定器が設置されていて、施設内の状況や温度、湿度、日射量、土壌水分などのデータがクラウドを通じて私のスマートフォンにダイレクトに入ってくる。だから、土・日曜日は無人で管理できる。

施設内の状況がスマホで常時把握できる
遠藤

そこまで進化しているのか。

川添

このセンターは、環境制御型の施設栽培が進んでいる農業分野の技術を取り入れて設計している。また、センター開設前に、オーストリアのコンテナ苗生産施設を視察する機会があったが、そこは年間500万本の生産を実現していた。そうした世界水準の苗木工場も施設設計の参考にしている。

民間企業と自治体がタイアップし第2期から第3期工事へ

ここで遠藤理事長は、岐阜県の臼井森林整備課長に問いかけた。

遠藤

これだけの施設を民間企業と自治体がタイアップして運営するというのは聞いたことがない。具体的にどのような連携体制になっているのか。

臼井規浩・岐阜県森林整備課長
臼井規浩・岐阜県森林整備課長

この地は、1953年に県の苗圃園として整備され、1970年から下呂林木育種事業地として管理・運営されてきた。全体の面積は9.26haある。だが施設等が老朽化していて、再整備が必要になっていた。そこで2014年度にプロポーザル方式で事業実施者を募集し、エントリーした住友林業が選ばれ、2015年3月に両者間で協定を締結した。これを踏まえ、2015~2016年度に県が約1億1,000万円をかけて土地造成と給水施設を整備し、2016年度に住友林業が約8,200万円を投じて4棟の育苗棟などを建設し、スギを主体としたコンテナ苗の生産がスタートした。

遠藤

直近の生産実績はどれくらいになっているのか。

臼井

昨年3月期に当初目標の20万本を達成したところだ。

遠藤

当初目標? さらに増産する計画があるのか。

臼井

本県と住友林業の協定期間は30年間と定めており、2023年度には年産100万本体制を目指すと申し合わせている。20万本は第1期工事の完了を踏まえた生産能力であり、昨年11月には第2期工事として育苗棟を3棟増設し、生産能力を20万本上乗せした。2020年度からは第3期工事に着手し、生産能力をさらに40万本プラスするとともに、生産効率の向上も図ることで100万本体制に近づけていくことにしている。

県内だけでなく県外にも安定供給、最適な輸送手段を選択

遠藤

100万本ものコンテナ苗ができると、全部売り捌けるのかと心配になるが。

臼井

このセンターを立ち上げた背景には、全国的に品質の保証されたコンテナ苗の需要が高まっているという現実がある。だから、ここで生産されたコンテナ苗は、まずは本県内で消費され、余剰分については全国に向けて供給されていくことを想定している。

遠藤

現在の販売状況はどうなっているのか。

川添

昨年秋に岐阜県内に10万本強のスギコンテナ苗を出荷した。出荷する際は、プラケースや段ボールなどで梱包し、近傍の場合は自社トラック、遠方の場合は宅急便やJR貨物便などの輸送手段を使い分けている。

岐阜樹木育苗センターの全景
遠藤

総じて順調なスタートを切ったといえそうだが、100万本体制達成に向けて、どのような課題があるのか。

臼井

これまでも冬場の強烈な寒波による給水管の破裂や、台風及び記録的豪雨による停電などのトラブルに見舞われ、その都度対策を講じてきた。これから本格的な増産体制に入るためには、苗木生産特有の問題を解決していかなければならない。(後編につづく)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

この記事は有料記事(2981文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。