造林資材を進化させて低コスト林業に挑むハイトカルチャ【突撃レポート】

造林資材を進化させて低コスト林業に挑むハイトカルチャ【突撃レポート】

造林コストの削減が喫緊の課題となっている中で、資材メーカーのハイトカルチャ(株)(大阪府大阪市、西忍・取締役社長)が存在感を高めている。ツリーシェルターとセラミック苗を2本柱にして現場の作業負担を軽減するとともに、造林技術全般のレベルアップにも取り組んでいる。

ツリーシェルターで食害を防ぎながら植栽木のストレス軽減

ハイトカルチャの看板商品であるツリーシェルターの原型は、1979年にイギリスで誕生した。プラスチック製の円筒カバーで植栽木を覆うことによってシカなどの食害を防ぐことができる。その日本バージョンを赤井龍男・元京都大学助教授(故人)と同社が1993年に共同開発し、三重県の尾鷲営林署管内に初めて設置した。

日本での実用化事業に当初から携わってきた同社の木下明・開発本部長は、「ツリーシェルターを獣害対策として導入するケースは多いが、機能はそれだけではない。植栽木を様々なストレスから守り、初期成長を促進させる働きがある」と説明する。

同社によると、植栽木が受けるストレスには、太陽光害(強光、紫外線)、風害(寒風、潮風)、飛砂、獣害(シカ、ウサギ、ネズミ)、下草繁茂、ヒト(誤伐)害など様々なものがある。ツリーシェルターは半透明で、過度な水分の損失を防ぎながら太陽光と強風を遮ることができる。通気口は細かく、シカをはじめウサギ、ネズミなどをシャットアウトする。高さもあるので下草が繁茂しても被圧されず、目立つ形状には誤伐を防ぐ効果もある。

高耐久と低コストの2タイプを条件に合わせ500万本販売

ハイトカルチャが販売しているツリーシェルターには、①ヘキサチューブと②ハイトシェルターの2つのタイプがある。どちらも直径は10cmから15cm、長さは70cmから180cmで、2本の支柱を使って設置し、5年以上劣化しない。これまでに累計で500万本を販売してきた。

ツリーシェルターのヘキサチューブとハイトシェルター

①ヘキサチューブは、高耐久性と持ち運びやすさの両立を目指して六角形状にしている。価格は1セット1,200円からで、主に治山事業や国土交通省関係の土木事業などで採用されてきた。②ハイトシェルターは、ツリーシェルターの低コスト版として、2011年に住友林業(株)及び住友林業フォレストサービス(株)と連携して開発した。価格は1セット598円からと①ヘキサチューブのほぼ半額。森林組合を中心に年間50万本ペースで導入されている。

使用方法を守らず“誤解”広がる、トータルでコストを削減

造林関係の新しい技術や資材が現場に定着するまでには、長い時間と労力を要する。ハイトカルチャの奥村雅人・ツリーシェルター事業部長も、「高い資材にも関わらず枯死する苗木があると一部で評判が悪かったこともある」と振り返る。そして、「だが調べてみると“誤解”が多かった」と語気を強めた。

ハイトカルチャの木下明・開発本部長(左)と奥村雅人・ツリーシェルター事業部長

奥村部長によると、代表的な“誤解”は、①製品仕様に即して使用していない、②適地適木や植栽スケジュールを考慮せずに植えている、③適切な植栽方法がとられていない――の3つ。①のケースでは、専用の支柱を使用せずに市販の園芸用支柱を用いて細い針金で固定した結果、強風時に支柱や固定箇所が破損して倒伏した。②では、冷気が滞留しやすい林地を皆伐したため、冷害・凍害を受け、枯れ下がりした。苗木の出荷から植栽まで約1か月かかり、保管時の水分不足で苗木が衰弱したこともあった。③では、コンテナ苗の不織布から根が出ずに土壌の栄養分を十分に摂れなくなったり、植栽時に押し付けすぎて枯死したこともあったという。

これらのケースがろくな検証もされずに、「ツリーシェルター内が蒸れて枯死したと結論づけられることがあまりに多かった。そんなことは一切ない」と奥村部長は強調し、こう続けた。「ツリーシェルターの初期コストは確かに高い。しかし、正しく使えば下刈りは不要で、植栽木の成長も促進されるなど、トータルコストを大きく削減できる。施業システム全体を踏まえて判断してほしい」。

軽量で持ち運びが楽なセラミック苗、誰でも簡単に植栽可能

ハイトカルチャの前身は、1987年に創業した仁志緑化(株)で、ポット苗などを生産し、1996年に現社名に変更した。現在の社員数は15名。年間売上高は約4億円から5億円で、その6割がツリーシェルター関連となっている。

同社がツリーシェルターに続く主力商品に位置づけているのがセラミック製ポットだ。セラミックとは、土を練り固めた焼き物のこと。セラミック製ポットには、土を使用せず、植物が必要量だけ吸水するので根腐れが起きず、管理が容易になるというメリットがある。

セラミック製ポットを使って育てたセラミック苗は、1本当たりの重さが90gと軽く、運搬が容易で、直径約3cm・深さ約9cmの穴を掘って挿すだけで簡単に植栽できる。

セラミック苗

同社は大阪府では唯一の特定母樹登録業者で、エリートツリーのセラミック苗も生産している。「広葉樹を含めて幅広い樹種の苗木を生産できるのがセラミック苗の特長」と奥村部長は話し、「ツリーシェルターとセラミック苗の組み合わせで低コスト林業を推進していきたい」と意欲を口にした。

(2021年6月11日取材)

(トップ画像=ツリーシェルターを使った植栽地)

『林政ニュース』編集部

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