(後編)「大型パネル」は林業の救世主になり得るか?【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)「大型パネル」を使った合理的な住宅工法の普及に伴って、建築業界や木材加工・流通業界だけでなく、川上の林業界にも従来にはなかった変化が生じ始めている。塩地博文・ウッドステーション(株)社長は、その最先端にいる事業体として、佐伯広域森林組合(大分県佐伯市、戸髙壽生・代表理事組合長)の名をあげた。では、同組合は今、どのような取り組みを行っているのか。その実情を知るため、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、塩地社長と行っているオンライン「対論」の場に、同組合参事の今山哲也氏を招いた。

3年間の実績を大きく上回る受注増、「ウッドチャンス」到来

佐伯広域森林組合は、苗木の生産から造林・育林・伐出、原木(丸太)の市売に加え、製材加工も手がけるトップランナーの森林組合として知られる。2009年には年間のスギ原木消費量が約12万m3に及ぶ大型製材工場を立ち上げ、「佐伯型循環林業」の確立を目指している。その一環として、大型パネルの受託加工事業への参入を2017年度に決定。地元工務店などからパネル加工と上棟工事を一体的に受注する体制を整備してきている。

この新規事業の責任者として陣頭指揮をとっているのが今山参事だ。遠藤理事長は、早速、今山参事に問いかけた。

遠藤理事長

単独の森林組合が大型パネル事業に本格参入するというのは全国的にも珍しく、極めてチャレンジングな試みといえる。これまでの実績はどうなっているのか。

今山哲也・佐伯広域森林組合参事
今山参事

大型パネル事業には、2018年度から本格的に取り組んでおり、昨年度(2020年度)までの3年間の上棟数は17棟という実績だった。
それが今年度(2021年度)は大きく増え、半期で12棟に達している。

遠藤

それなら通期で過去3年分の実績を上回るのは確実だ。なぜ受注が急増しているのか。

今山

いわゆるウッドショック、すなわち木材製品の不足と価格高騰の影響で、大型パネルに目を向ける工務店などが増えているからだ。

遠藤

ということは、ウッドショックならぬウッドチャンスが到来しているわけか。

塩地社長

そうだ。佐伯広域森林組合は、3年間の助走期間を経て、一気にブレイクしている。

現場が困っている問題をワンストップで解決し「ブレイク」

遠藤

佐伯広域森林組合がブレイクした理由を聞きたい。

塩地

木材製品の不足は、とくに地方の中小工務店にとって深刻だ。地元のプレカット工場などから調達しようとしても思うように手に入らず、とくに梁桁類は注文先すら見つからないような状況だ。
その点、大型パネルならば、サッシもついているし、断熱施工もすぐ行える。現場が困っている問題をワンストップで解決できる。それを森林組合がやっていることに意義がある。

大型パネルの製造工程(佐伯広域森林組合のパンフレットから)
遠藤

確かに、一般的な森林組合にとっては畑違いの分野だ。

今山

当組合の職員にとっても、大型パネル事業を手がけることには戸惑いもあったし、慣れるまで時間もかかった。ただ、今やっている事業を続けているだけでは、いずれ行き詰ってしまうという危機感が強かった。

遠藤

佐伯広域森林組合は、年間原木消費量が10万m3を超える大型製材工場を稼働させている。それでも将来展望が見通せないというのか。

今山

大型製材工場で柱や間柱などを量産することによって生産コストは下がっている。その面では価格競争力がついているが、売り先は大都市圏など遠くに求めざるを得ず、輸送コストや営業費などがかかり増しになる。その負担が徐々に重くなっていた。

塩地

今の発言には、日本林業が抱えている問題が凝縮されているといえるだろう。

コモディティ製品の量産化が孕む問題、“地元”を見るべき

遠藤

日本林業が抱えている問題とは?

塩地

佐伯広域森林組合の大型工場は、柱や間柱などのコモディティ製品を量産することを目的にしている。これは一見すると効率的だが、同じようなタイプの工場が増えると競合が激しくなる。実際に九州内には年間原木消費量が30万m3にも50万m3にもなる工場ができており、彼らと同じ土俵で戦っても勝負にならない。
森林組合の本分は、自分達の山と向き合うことだろう。もう一度この原点に立ち返って、山の価値を高める方策を考えるべきだ

佐伯広域森林組合の大型製材工場(宇目工場)
遠藤

その答えの1つが大型パネルということか。

塩地

山から出てくる木材をどうやって有効活用していくかがポイントだ。目的は柱や間柱の生産ではない。家づくりに必要な材料をどう揃えて供給していくかにある。
コモディティ製品の生産に特化すると、売り先はどうしても遠方の大消費地になり、サプライチェーンが長くなって、無駄な費用が発生する。それをカバーしようと輸送費を軽減するための補助金を出すケースもみられるが本末転倒だろう。もっと地元に目を向けた方がいい。

遠藤

地元に商機があると。

塩地

例えば、大分県内の年間住宅着工戸数は約4,000棟もある。かりに1棟20m3くらいの木材を使うとすると、10万m3くらいの需要がある。これから公共建築物だけでなく、民間の建築物も木造・木質化が進んでいく。その需要に応えていくことが重要だ。

原木価格をm3当たり2万円に高め、補助金なしで再造林へ

遠藤

さきほど塩地社長から山の価値を高めるべきという指摘があった。最近のスギ原木価格はどのくらいになっているのか。

今山

以前はm3当たり8,000円を切っていたが、昨年7月頃からどんどん上がって今年の6月には1万6,000円の値がついた。現在は少し下がったが、それでも1万4,000円くらいを維持している。

遠藤

その価格が一時的なものではなく、安定して維持されれば主伐・再造林が進み、次代につなぐ山づくりが可能になるだろう。私は1万5,000円あたりが損益分岐点になるとみているが、塩地社長の考えはどうか。

塩地

基本的に1万7,000円以上、できれば2万円は欲しい。そもそも補助金がなければ再造林ができないと考えている前提から見直していかなければいけない。そのためには、国産材の付加価値を高められる戦略を練り上げていく必要がある。
間柱単品だと末端価格で4万円くらいにしかならないが、梁も桁もサッシも断熱材も足して売れば9万円にも10万円にもなる。佐伯広域森林組合は、実際にそれをやっている。

遠藤

なるほど。森林は公益的機能を果たしているという理由で補助金がつぎ込まれている側面もあるが、もっとビジネスベースで自立すべきということか。

塩地

大型パネルは、そのための1つの“武器”になると考えている。だから積極的に技術移転を進めている。その中でも佐伯広域森林組合は今後の成長が期待される事業体であり、全国的なモデルになるポテンシャルを持っている。

(2021年9月22日取材)

(トップ画像=工場で組み立てられる大型パネル)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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