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「パートナー会」の会員が100社目前、生産拠点7か所に
遠藤理事長が塩地氏と初めて面識を持ったのは、今から10年ほど前のことだった。当時、塩地氏は総合建材商社の三菱商事建材(株)に在籍していた。遠藤理事長は、タマホームなど大手ハウスメーカーが国産材を本格的に利用し始めたことを踏まえ、住宅部材の流通に詳しい塩地氏の見解を聞くために同社を訪ねたのだった。
その後、塩地氏は2018年4月に同社を退職し、大型パネルの生産・販売を行うウッドステーションを起業した。

大型パネルがこの世に出てから3年がたった。施工実績は着実に上がっていると聞いているが、現時点での手応えはどうか。
おかげさまで「大型パネル生産パートナー会」の会員は93社になり、100社に近づいてきた。大型パネルの生産拠点も各地に7工場ができ、さらに増えていく予定だ。全国的に大型パネルを普及する体制が整ってきている。
大型パネルを使った工法は、従来からの木造軸組工法やプレハブ工法と比べて、どこがどう違うのか。
それぞれの工法の特徴を整理すると、表のようになる。大型パネルを使えば、通常は2~3日かかる外貼り断熱工事が1日足らずででき、現場の手間が大幅に軽減される。

高断熱・省エネ対応でサッシが重量化、しわ寄せは現場に
大型パネルが大工不足対策として開発されたことは理解しているが、事業化に踏み出した最大のきっかけは何だったのか。
一言で言えば、木造住宅の建築がヒューマンスケールを超えたということだ。
住宅部材としての木材には、軽くて加工しやすいという長所があり、これまでの技術開発によってかなり難易度の高い建物も建ててきた。
だが、最近の住宅には、高い断熱性能や省エネルギー性能が要求されている。これを実現するためには、例えば高性能サッシの採用が不可欠になる。アルミから樹脂フレームに切り替え、ガラスを二重、三重にすると、当然のことながら重量化する。今はこの負担増を現場の大工に丸投げしている。100㎏や200㎏もする高性能サッシを施工現場で取り扱うのは人間の仕事の範囲を超えているのだが、行政も研究機関も断熱や省エネのデータばかり追いかけて、現場を見ようとしない。そのツケが回ってきて、大工不足が益々深刻になっている。こうした現状を何とか変えたいという思いが募り、大型パネルの事業化に踏み切った。

クローズドな工法には限界、オープンにビジネスを広げる
施工現場で必要な部材をあらかじめ工場でつくるという点だけみれば、大型パネル工法もプレハブ工法も同じだ。では、両者を分かつものは何か。
プレハブ工法は非常に合理的で、日本では世界に先駆けて普及した。だが、その後の発展がなく、足踏み状態になっている。なぜかと言えば、ハウスメーカーがそれぞれプレハブ工法を開発し、自社限定のクローズドなものにしてしまったからだ。これでは外に広がらず、コストも下がらなくなる。
大型パネル工法はオープンなのか。
そうだ。月会費2万円を払って「大型パネル生産パートナー会」に入会すれば、誰でも技術やノウハウを利用できる。
そこまでオープンにするとは思い切った事業戦略だ。立ち上げ時には相当な苦労があったのではないか。

新しいビジネスを軌道に乗せるためには、相応の初期投資が必要になる。そこで、三菱商事建材、テクノエフアンドシー(株)、パナソニックアーキスケルトンデザイン(株)、YKKAP(株)の4社に出資していただいた。
株主構成にも公平でオープンであることを求めており、1社の持ち株比率は33%を上限にしている。
住宅市場が縮小していくにもかかわらずそのような企業が出資に応じたのは、大型パネル事業の可能性を評価したということだろう。
大型パネル事業を通じて得られる成果は、木造軸組工法の合理化だけにとどまらない。これから需要が増えていく非住宅市場にも十分応用できる。また、さきほどのサッシの重量化対策として、木製サッシにシフトすることなども考えられるだろう。
大型パネル事業の軸足はあくまでも木造軸組工法住宅に置くが、新しいアイディアや技術などは積極的に取り入れ、オープンな場で検討を進めることで、ビジネスチャンスを創り出していけると考えている。
変革のカギはDX、物流・商流が変わり国産材業界に影響
新しい技術でとくに目をつけているものはあるか。
DX(デジタルトランスフォーメーション)だ。これからの住宅市場では、情報の重要性が一層高まる。
例えば、施工現場に住宅部材や建材を納めるトラックが渋滞して困るという苦情がよく出る。石膏ボードと床材をバラバラに何の連動もさせずに運んでいてはこうなる。受け取る側から考えて情報を管理していけば、適時適量の納品ができ、現場の作業を止めなくてもよくなる。そうした仕組みづくりは、情報技術の進展で可能になっている。DXで効率的な物流に転換し、これに伴って商流も変わる。この変革は、国産材業界にも影響していく。
DXを進める上でのポイントは何か。
情報のオープン化だ。自社や自分の商売だけを考えて情報を囲い込んでいても変革は進まない。オープンにして誰でも取り組めるようにすることが肝要だ。
木造軸組工法住宅は地域性が強く、いわば方言がたくさんあってアナログの巣窟とも言える世界だ。それだけにデジタル化していくのは大変だが、大型パネル工法の普及に伴って、必要なデータが整備されてきている。
さきほど変革の波は国産材業界にも及んでいくという指摘があった。具体的に先進モデルとなっているところはあるか。
ある。業績も上がっている。
それはどこか。
大分県の佐伯広域森林組合だ。(後編につづく)
(2021年9月22日取材)
(トップ画像=大型パネルの生産工場)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。