(前編)フェアウッド市場を広げるワイス・ワイス&マルホン【協業で挑む】

(前編)フェアウッド市場を広げるワイス・ワイス&マルホン【協業で挑む】

昨年(2020年)5月に資本業務提携を行った(株)マルホン(静岡県浜松市)と(株)ワイス・ワイス(東京都新宿区)が「フェアウッド」の市場拡大に向けてシナジー(相乗効果)を発揮し始めている。SDGsやESG投資への対応が迫られる企業や自治体などは、トレーサビリティ(生産・加工・流通履歴)の確保された木質材料へのニーズを高めており、両社にとって追い風が吹いている。(文中敬称略)

「JIMOTO(ジモト)table」推進、スターバックスと協業

ワイス・ワイスとスターバックスコーヒージャパン(株)(東京都品川区、以下「スターバックス」と略)は、4年ほど前からスターバックスの店舗空間の中で国産材を活用する取り組みを協業し、ワイス・ワイスはこれまでに延べ約100店舗の国産材の調達をしてきた。

2019年からは「JIMOTO table」プロジェクトをスタートさせ、「地元の木材を使用し職人の手仕事で作られたテーブルをその地域の店舗に導入する」ことをコンセプトに据え展開している。

その代表的な物件となっているのが大阪市にある「LINKS UMEDA 2階店」。「コンクリートジャングルの真ん中に大阪の森をつくる」ことを掲げた同店舗では、4m以上のスギ丸太柱や7m超えのスギベンチ、河内長野産の約100年生スギ丸太を用いたテーブルなど、地元材をダイナミックに活用している。

同社に木質空間づくりを依頼しているのはスターバックスだけではない。パタゴニア日本支社や(株)ドリーム・アーツといったサステナビリティ(持続可能性)やトレーサビリティを重視する企業からもオファー(商談)が来ている。なぜか。同社が全国の林業・木材業・木工業者らと構築している“関係性”が注目されているからだ。

47都道府県に100社以上のパートナー企業、違法木材ゼロ

ワイス・ワイスは、47都道府県に100社以上のパートナー企業を持っている。13名いる社員の4分の1は、全国各地に足繁く通い、独自のネットワークを築いてきた。この事業スタイルには、同社を創業した佐藤岳利・最高執行責任者(57歳)の強い意思が反映されている。

佐藤岳利・ワイス・ワイス最高執行責任者

佐藤は、学生時代をアメリカで過ごし、帰国後、(株)乃村工藝社(東京都港区)に入社した。日本を代表する空間プロデュース会社に所属し、シンガポールを中心にシャネルやプラダ、グッチなどハイブランドのアパレル店舗づくりをプロジェクトマネージャーとして主導した。その一方で、時間のあるときはインドネシア奥地の貨幣経済とは無縁の原住民を訪ねるなど人生経験を積み、1996年に豊かな暮らしをテーマにした同社を乃村工藝社の後押しを受けて起業した。弱冠32歳の決断だった。

創業から10年間は順調に事業実績を重ねていたが、2005年に発生した姉歯事件(構造計算書偽造問題)で建築物・マンションの着工数が大きく落ち込み、同社も打撃を受けた。追い打ちをかけるようにリーマンショックが起き、経営環境は一段と悪化した。コスト削減のため、製造拠点を中国に移したが、そこで佐藤が見たのが、熱帯雨林から伐採された大径木が工場に飲み込まれていく光景だった。中国のホテルで、「うちの会社がやっていることは、本当に豊かな暮らしにつながっているのか?」と自問自答を繰り返した。そして、国際環境NGOのFoE Japanや地球・人間環境フォーラムなどが利用を呼びかけていたフェアウッドの存在を知る。

佐藤は、2009年に同社のポリシーとなるグリーンカンパニー宣言を出し、フェアウッドしか使わないことを公約の1つに位置づけた。マレーシアやインドネシアなどから産出される違法性のリスクが高い木材を北米材に切り替えていくこと、さらに国産材を積極的に使用する方針を示し、約30社の連携工場に協力を呼びかけた。「二つ返事で切り替えるところもあれば、最後まで応じてもらえない工場もあった」という。調整を重ねた末に、2012年にフェアウッド調達率100%を達成した。

「KURIKOMA(クリコマ)」に高い評価、国産材使用率が9割に上昇

オールフェアウッドに舵を切ったワイス・ワイスの代名詞といえるのが、2015年にソーシャルプロダクツ・アワードを受賞した「KURIKOMA」シリーズだ。家具デザイナーの榎本文夫がデザインし、東日本大震災で被災した宮城県の(株)くりこまくんえん(栗原市)が製作して、スギの3層板を用いた椅子を開発した。柔らかいスギ材が椅子というヘビーユーズに耐えられるかが課題だったが、3枚の板を交差して組み合わせることで、JIS規格の3倍の強度を実現した。

スギ材を使った「KURIKOMA」

「KURIKOMA」シリーズの発表後、同社は2013年に全商品の使用木材を全面的に国産材に切り替えると宣言。現在、同社の売上げの8割は商業施設や公共施設やオフィス用の特注家具となっており、使用木材の国産材率は約9割に高まってきている。

一方で、2014年からワイスフォーラムと名づけた勉強会を主催し、2016年からはNGOらと協力してフェアウッド研究部会を開催するなど、“知のネットワーク”づくりにも注力している。

だが、姉歯事件とリーマンショック、さらに東日本大震災を経て傷んだ財務状況は簡単に回復できるものではない。同社の事業趣旨を理解する資金協力者を探す中で、ムク(無垢)フローリングなどを販売するマルホン社長の加藤拓と出会い、出資を仰ぐことにした。

マルホンの100%子会社となって新たなスタートを切った佐藤は、「今後は地域の方との“関係性”がより大事になる。実際に現場に足を運び、膝を突き合わせて未来をともに話し合い、実行に移す。手間がかかり非効率的だと言われても突き抜けていきたい」と意欲をみせている。

(トップ画像=「LINKS UMEDA 2階店」にあるスターバックスの店舗)

『林政ニュース』編集部

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