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米国活況の背後に潜在的ニーズ、リスク対策は強めたが……
米国の住宅建設を押し上げている要因として、コロナ禍の“巣ごもり”需要や住宅ローンの低金利などがあげられているが、実需はどのくらいあるのだろうか。
米国には住宅投資・住宅ローンへのニーズが潜在的に存在している。合法・非合法を問わず流入してくる大量の移民が絶えず新設住宅需要を生み出しているからだ。また、住宅を取得済みの米国人であっても、平均して10年以内により広く住み心地のいい家に買い替える傾向が強い。
米国の戸建て住宅は大きく、大部分がツーバイフォー工法だ。日本の木造軸組住宅と比べると1.3倍くらい木材を多く使用する。したがって、住宅着工数が急増すると、木材需給が逼迫することになる。
米国の住宅投資に「バブル」の懸念はないのか。
米国では、1980年代の経済危機の際にレーガン政権の荒療治によって多くの金融機関が倒産し、2008年には不良なローンの濫造によってリーマンショックが発生した。その後、アセット・ライアビリティ・マネジメント(資産と負債の総合管理)などのリスク対策がとられるようになってはいるが、未曽有の低金利下で実行されている今の住宅ファイナンスが金利上昇時にどのような問題を引き起こすのか、現時点では見通すことが難しい。
スギの柱適寸原木が2万円に迫り、ヒノキも高値圏に入る
ここで遠藤理事長は、「対論」を一旦切り上げ、国内屈指のスギ材産地である大分県日田市へ向かった。外材価格高騰の影響を山元の現場で確かめるためだ。日田市に入ったのは、4月27日。ちょうど日田市森林組合(大分県)の特別市が開催されており、4,500m3に及ぶスギ、ヒノキの原木(丸太)が出品されていた。
競りに先だって日田市森林組合の井上明夫組合長(大分県森林組合連合会会長、大分県議会議員)が挨拶に立ち、「輸入材の激減・価格高騰で日本国内の原木需給がタイトになっている。国産材が参入できる絶好のチャンスであり、皆様たくさん買って下さい」と呼びかけた。
競り子の威勢のいい声が林場に鳴り響き、約60名の買方が応札に入る。一見すると和気藹々(わきあいあい)だが、目の色が違っている。落札価格(m3当たり)と2番札の差はわずか10~50円。この日の高値は、スギ柱適寸(末口径14~16㎝、長さ4m)が1万7,810円、ヒノキ(同)が2万4,590円。買方から「異常だ」との声が聞かれた。
九州の原木市場では、スギ柱適寸が2万円、ヒノキ土台取りが2万7,000円になったという情報も遠藤理事長のもとに入ってきた。
いつもの市とは違い過熱気味だ。
外材、特に米材輸入の減少で、国産材に対する引き合いが激しい。弊社も150%の稼働率で多忙を極めている。
どういう注文が増えているのか。
今はそんなことを言っている余裕はない。とにかく原木を確保するので精一杯だ。それに製品価格もそれなりに上昇してきている。
これまでは外材価格が下がると国産材価格も下がる一方で、外材価格が上がっても国産材価格は滅多に上がることはなかったのだが。
価格交渉ができるような状況になってきたことは間違いない。北関東の大手製材会社の社長は、「国産材の製品価格が1万円アップ、というより値戻しして、そのうち3,000円を山元に還元すれば森林・林業も変わるのではないか」と言っていた。そのチャンスが来ているのかもしれない。
ところで、価格や量の安定化を目指して取り組んできた製材工場と素材生産業者との協定取引には影響は出ていないのか。
出ている。実質的に協定を反故(ほご)同然にするような動きもみられる。出荷者側の気持ちもわからないわけではない。原木市場に出せば価格は上がる一方だからだ。しかし、これまで築き上げてきた信頼関係はどうなってしまうのか。一度立ち止まって現状を見つめ直す必要がある。
米マツ小角の代わりにスギ製品、人工乾燥が追いつかない
ここで遠藤理事長は携帯電話を取り出し、他の地域の状況を探ることにした。まず、東北の大手スギ製材会社の社長に電話をかけた。同社は、スギ大径材から芯去りで原盤を挽き、そこから小角類を製材している。
国産材製品への引き合いは増えているか。
弊社はスギの胴縁、野縁、垂木などの小角類をつくっているが、米マツ小角の代替品としての注文が殺到している。人工乾燥が追いつかないような状況だ。
周りの製材工場も忙しいのか。
そうだ。東北の製材品の主たる販売先は、東京・首都圏だ。その得意先から米マツ製品がないのでスギ小角をという注文がひっきりなしに入ってくる。プレカット工場からも、なんとか製品を納入してくれないかという電話が朝から晩までかかってくる。「納入価格はそちらの言うままでいい」とまで言われる。
弊社にとっては嬉しい悲鳴だが、東北の製材メーカーの中では、芯持ちの小角を挽いている製材工場は少ない。芯去りが一般的だ。芯去り小角は人工乾燥をきちんとしないと捻れや曲がりが発生することがある。この問題は、一朝一夕には解決できないが、クリアしていかなければ、本当の意味で米マツ製品に取って代わることはできない。
プレカット工場も大わらわで大手は5割減産、過剰反応か
続いて、遠藤理事長は、関西では中堅規模のプレカット工場に電話を入れた。工場長とは旧知の仲だ。
プレカット工場では製材品や合板の仕入れに困っていると聞いている。
今年の1月以降、羽柄材不足が顕著になっていたが、4月に入ってから各種製品で品薄感が強まっている。大手プレカット工場は、生産調整のため5割減産に入ったとも聞いている。
弊社も含めて、どこのプレカット工場も対応に大わらわだ。しかし、冷静に考えると過剰反応になっていることも否定できない。
ということは、実需を伴わない仮需が発生しており、そこへの投機的な資金流入が国産材製品価格の値上がりに拍車をかけているということか。それが事実だとすれば、早急に対策を講じる必要がある。
*1(前編)外材価格高騰と品不足にどう対応していくか【遠藤日雄のルポ&対論】
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。