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スギ原木が30年ぶり2万円超えの中、“実需”の手応えは?
まず今の材価高騰を引き起こしている要因に、「仮需」が含まれているのかを聞きたい。
九州のスギ素材生産量の対全国シェアは約35%で、製材品出荷量もそのくらいだ。そのため東京・首都圏からの引き合いが多い。外材、とくに米加製品の輸入量が減って価格が高騰しているのは事実だ。ただし、わが国の住宅着工戸数は停滞・減少気味だ。国土交通省の「住宅着工統計」をみても、今年1~3月における木造住宅の新設着工戸数は10万8,000戸で前年比1.8%減だ。にもかかわらず、このような「宴」が続いている背景には、「仮需」の存在を考えざるをえない。
弊社はグループでプレカットと住宅産業も手がけており、南九州の需要が100%だ。モノ不足で住宅建築が滞っているということは全くない。周辺の原木市場でスギ柱取り原木価格が2万円を突破していることは知っているが実感が湧かない。
不安が不足感をあおる、増産できない最大要因は人手不足
どう解釈したらいいのだろうか。
かつてのオイルショックや昨年のコロナ禍初期のときに、トイレットペーパーやマスクが不足したのと同じような状況ではないか。パニック時における人間の不安心理が不足感をあおっているところがある。
知り合いのプレカット会社の工場長に聞いたところ、通常の取引をしていた製材工場からの製品納入が途絶えてしまった。これじゃいかんということで、これまで取引のなかった製材工場に電話を入れて、「なんとか製材品を納入してくれないか」と頼んでいるという。その「頼んでいる」という話だけが独り歩きして広がり、モノがないという情報に転化している面もありそうだ。
そのような現象もみられるが、投機的な仮需は少ないのではないか。各社とも製品を手に入れたいと精一杯であり、投機をする余裕はない。それほど需給は逼迫している。
九州の製材工場を回っていて不思議なことがある。これだけ需給が逼迫しているにもかかわらず、残業を増やして対応している工場が見当たらない。
もっと生産したいのは山々だ。だが、2つの理由で難しい。1つは、原木の争奪戦が激しくて原木が思いどおりに確保できない。もう1つは、人手不足だ。これが大きい。外国人労働者がコロナ禍のため本国へ帰ってしまった。また、最近は残業が嫌われる傾向にある。増産といっても10~20%増が精一杯というのが実状だ。
「宴」の後には暴落が待っている、怖いのは木造住宅離れ
では、本題に入ろう。「宴」の後がどうなるか。短期的、中期的、長期的な視点から意見を聞きたい。
これまでの第1次、第2次ウッドショックでは、木材価格暴騰の後に暴落が来て大損をした苦い経験がある。今回もいずれは暴騰の反動がきて暴落につながる危険性は十分にある。「宴」の後は、暴落か代替材への切り替えしかない。私の知り合いの外国のハウスメーカーはスティール住宅の注文で繁忙を極めている。
それがいちばん怖い。木造住宅離れが起きたら、これまでの国産材需要拡大の努力が水泡に帰す恐れがある。
今回の外材価格高騰によって、国産材にもワンランク上の価格体系が形成されるのではという期待があるが、その可能性はどうだろうか。
第1次ウッドショックのときもそうだった。国産材にはワンランク上の価格体系が形成されると期待された。だが当時は、バブル崩壊直後とはいえ超円高だった。米材が入らないならアフリカ、パプアニューギニアなど、それまでまったく馴染みのない国々から木材が輸入でき、結局、新たな価格体系は形成されなかった。
当時の日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と持てはやされて有頂天だった。しかし今、昔日の面影はない。
その認識は、「宴」の後の中期的な姿を展望する際に不可欠だ。少なくとも環太平洋の経済は、米・中両国が牽引している。残念だが日本は地盤沈下する一方だ。そうなると外材が入ってくる余地は少なくなる。否応なく国内の2,500万haに達する人工林を利用するしか木材産業の活路は見出せない。
国産材はチャンスを掴めるか、ゼネコンとファンドに注目
とすると、国産材が外材に代替できるチャンスが到来したことになる。このチャンスをどう掴むかだ。
言うは易く行うは難しだが、従来からの国産材業界の慣行をどう打破するかだ。さしあたりは住宅・木材関係者で情報共有を進め、サプライチェーンマネジメント(SCM)を形成することが求められる。それができれば、今回のようなパニックにも対応できる。
そのような兆しはみえる。例えば、不動産大手の三菱地所(株)とゼネコン大手の(株)竹中工務店などがMEC Industry(メックインダストリー)(株)を設立して、新たな国産材ビジネスのモデルをつくろうとしている*2。
それは全国でもトップレベルの取り組みだ。地域に根ざした別のビジネスモデルがあってもいい。
そのとおりだ。ただ「宴」の後の長期的なビジネスモデルを展望すると、中心的な担い手はゼネコンとファンドになりそうだ。
ファンド?
そのときの彼らの「錦の御旗」は、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資になるのだろう。
国産材を供給する我々がそのような状況にどう対応できるかが問われているわけか。
そうだ。5年後、10年後には、国産材を巡る業界地図は一変しているはずだ。心してかからなければならない。
(トップ画像=国産材を取り巻く状況が激変してきている)
*1(中編)外材価格高騰と品不足にどう対応していくか【遠藤日雄のルポ&対論】
(前編)外材価格高騰と品不足にどう対応していくか【遠藤日雄のルポ&対論】
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。