(前編)グローバルな視野で国産材を活かす江間忠グループ【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編)グローバルな視野で国産材を活かす江間忠グループ【遠藤日雄のルポ&対論】

米国住宅市場の活況が引き金となって生じた木材価格の高騰と品不足は、日本だけでなく世界の林業・木材産業界に衝撃を与え、動揺が収まらない。今のやり方をこのまま続けていていいのか、根本的に見直さなければならないのか──関係者は重要な岐路に立たされている。この状況を打開し、今後の進路を見出すために、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、国内外で幅広い木材ビジネスを展開している江間忠グループの事業戦略を聞くことにした。今年で創業から98年目に入っている同グループは、米材の輸入・販売を中核に据えて業容を拡大し、近年は国内の森林を取得して国産材の利活用にも力を入れ始めている。時代の荒波を何度も乗り越えてきた“1世紀企業”の視界に映っている未来像とは、どのようなものなのか。

木材に関わる事業を幅広く展開、外材輸入先も多角化進む

遠藤理事長が訪ねたのは、東京都中央区晴海にある江間忠グループの本社ビル。出迎えたのは、創業者・江間忠蔵氏の直系でグループ全体を率いている江間壮一・(株)江間忠ホールディングス代表取締役社長だ。江間氏は、日本米材協議会の会長などの要職も兼務している。

江間壮一・江間忠ホールディングス社長
遠藤理事長

江間忠グループの起源は、東京の深川木場で江間忠蔵氏が設立した江間忠商店と聞いている。それが今では、木材・建材の流通事業にとどまらない様々な分野で「江間忠」の名前を聞くようになった。外から見ている限りでは、「米材の江間忠」という印象が強いのだが、まずグループ全体でどのような事業を行っているのか教えて欲しい。

江間社長

当グループの事業概要を俯瞰的に示すとのようになる。国内外で木材に関わる事業を幅広く行っているとともに、研究開発や文化振興などにも取り組んでおり、持ち株会社の江間忠ホールディングスが全体を統括するかたちをとっている。グループ全体の売上高は280~290億円になっている。

江間忠グループの事業概要
遠藤

その中で海外事業は外材の輸入・販売となるのだろうが、現状はどうなのか。

江間

1970年代までは丸太(原木)中心に輸入していたが、現在はほぼ製品輸入に切り替わった。昨年まで米国アラスカ州産の針葉樹丸太を取り扱っていたが、今年初めに現地の最大手企業であるシーアラスカ社が伐採事業から撤退すると発表した。これで、丸太の輸入先はカナダだけになった。

遠藤

木材製品の輸入先は北米が多いのか。

江間

以前は北米からの輸入量が多かったが、他の地域にも取引先を広げて多角化を図るようにしている。現在は、北米3分の1、ヨーロッパ3分の1、ロシアを中心としたその他が3分の1という割合だ。適材適所を基本にして、そのときに仕入れられるものを積極的に仕入れるようにしている。

10~20年の変化が一気に来た、世界の木材需給は逼迫する

遠藤

業界を揺さぶっている木材価格の高騰と品不足についてはどう受け止めているか。

江間

中長期的なスパンでみれば、世界の木材需給は逼迫していくと考えていたが、余りにも急激な変化が起きて、現場が追いついていけないのが現状だ。10年から20年はかかることが1年で急にやって来たと感じている。
とくにモノ不足が深刻で、材料が足りずに家が建てられなくなるという危機感が高まっている。当グループもプレカット事業を行っていて、一昨年くらいまでは値下げの要請が強かった。それが、ここまでガラッと値上げ基調に転じるとは、全く予想していなかったことだ。

遠藤

材価高騰の“震源”である米国の住宅市況についてはどう見通しているか。

江間

今の活況は徐々に落ち着いていくだろうが、基本的に住宅需要は根強いとみている。米国では近年、どちらかというと住宅需要が抑制気味で推移してきた。だが、約3億3,000万人もの人口があるのに年間の住宅着工戸数が100万~120万戸だったのは、日本の住宅マーケットと比べても少なすぎた。今は溜まっていた需要が顕在化したともいえるのではないか。

遠藤

米国とともに環太平洋経済圏を牽引する中国の木材需要も旺盛だ。

江間

コロナ禍の前から米国や中国などの木材需要は増えていくと予測されていた。さらに今後は、インドのように多くの人口を抱えている国が木材需要量を増やしてくるだろう。環太平洋経済圏にとどまらず、世界中で木材需給が逼迫する。そういう流れが着実に強まってきている。

遠藤

その中で日本はどうすればいいのか。

江間

国産材の供給量を増やして木材自給率を上げていくなど、森林資源を安定的に循環利用できるようにしていくべきだ。そうしないと世界の木材価格の変動に翻弄されるだけになってしまう。今、それが起きてしまっているともいえる。

社有林を約5,200haに拡大、国産材利用の流れをつくる

遠藤

そのような危機感から江間忠グループは国産材に関する事業を強化しているわけか。グループ全体の木材取扱量に占める国産材の割合はどのくらいになっているのか。

江間

まだ1割くらいだ。当グループの歩みを振り返ると米材の輸入で一時代を築いてきたことは間違いない。ただ、世界の木材需給は大きく変化しており、今までのように輸入事業を続けることは難しくなってきている。
その一方で、国内では、戦後造林された約1,000万haの人工林が利用期に入ってきている。そこで、2003年の創業80周年を契機に、国内森林の保全と国産材の利活用に取り組むことにした。
ただし、国産材の取扱量は、ここ4~5年で徐々に増えてきたところであり、本当に緒に就いた段階だ。

遠藤

国内森林の取得にも乗り出しているようだが。

江間

静岡・愛知・徳島・和歌山・宮崎の各県に、合計で約5,200haの社有林を保有している。いずれもスギ・ヒノキの人工林が中心で、静岡県浜松市の天竜地域にある社有林では、FSCの森林認証を取得している。

江間忠グループは国内に約5,200haの社有林を保有している
遠藤

社有林は、どのように管理しているのか。

江間

当初は林業経営を行うというよりは、これまで山にお世話になってきたことへの恩返しという意味で、少しでも手を入れて後世に美林を残せればと考えていた。
それが近年の状況変化を踏まえて、単に森林を持ち続けるだけではなく、積極的に活用していくことにし、当グループの流通システムに組み入れていくことにした。

遠藤

つまり、江間忠グループとして、川上から川下に至る国産材流通の仕組みをつくるということか。

江間

まさに今、そのことに取り組んでいるところだ。実際に着手してみると、解決しなければいけない課題が数多くあることがわかってきた。(後編につづく)

(トップ画像=米国とカナダにある現地法人を中心に外材輸入のネットワークを形成している)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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