(後編)“山”をどうやって動かすか―「森林シューセキ!事例報告会」のポイント

全国 森林経営・管理

(後編)“山”をどうやって動かすか―「森林シューセキ!事例報告会」のポイント

前編からつづく)日本の“山”を動かしていくためには、市町村が森林経営管理制度を活用して所有者から“山”を預かっていく必要がある。具体的には所有者に森林経営の意向を聞き、「集積計画」に落とし込んでいく作業が欠かせない。ただ、所有者が不明だったり、境界がはっきりしないなどの“壁”があり、なかなか前進しづらいのが実情だ。では、先進地では、この“壁”をどうやって乗り越えているのか──。

「相続人等申告書」で全員合意を効率取得――やましごと工房

(一社)やましごと工房(徳島県美馬市、工藤剛生理事長)は、徳島県の美馬市及びつるぎ町と連携して実施している集積計画の効率的な策定方法について発表した。やましごと工房は、両市町から森林調査業務や森林経営管理業務などを受託しており、行政と二人三脚の体制で森林経営管理制度の推進などに取り組んでいる。

両市町は、集積計画の策定で全国トップクラスの実績を誇る。2021年度までの累計では、美馬市が789.73haで全国1位、つるぎ町が601.36haで全国3位。境界明確化の実施面積も、美馬市は676.24ha、つるぎ町は568.09haと多くなっている。

集積計画の策定にあたっては、所有者全員から同意を得る必要があるが、共有林で所有者が多数に及ぶ場合や、相続人同士の折り合いが悪いケースなどでは、同意をとるのが難しい。

そこで、両市町とやましごと工房では、対象森林の現況所有者にトップ画像のような「相続人等申告書」を送付し、権限者全員の申告を要請。申告した権限者以外からの異議申し立てがあった場合は、申告者の責任で処理する旨の誓約をとるようにした。これにより、所有者全員を把握し合意形成を進めるスピードが上がった。また、空中写真や公図等を使って作成した境界推定図を活用し、所有者からの同意取得業務を効率化している。

やましごと工房の工藤剛生理事長は、「森林経営管理制度を活用すれば、アイディア次第で森林を市町村の中小企業支援や観光資源創出などに活用できる。そのためにも集積計画の策定に積極的に取り組んでいきたい」と話した。

意向調査時に森林位置情報も、竹林を広葉樹林に転換―金沢市

石川県の金沢市は、森林広葉樹林化モデル事業について発表した。同市の森林面積は2万601ha、その約70%が広葉樹林で、約26%が針葉樹林、約4%が竹林となっている。

同市では、整備方針のない森林を解消するために、市内すべての森林を17区域に分け、15年間かけて意向調査を実施することにしている。とくに荒廃した竹林については、同市の森づくりプランを踏まえ、広葉樹林化する方針をとっている。

ただ、同市の地籍調査と境界明確化事業の実施面積を合わせても市内の森林の約15%をカバーする段階にとどまっている。そこで同市は、所有者に意向調査票を送付する際に、対象森林位置図も送付し、書面ベースで森林位置情報の同意を得るようにしている。

森林位置情報については、地籍工程管理士などの専門家が監修し、これまでに2万5,563ha分を作成した。担当者は、「今後もブラッシュアップを繰り返しながら精度を高めていきたい」としており、今年度(2022年度)の成果については、「3.56haの荒廃した竹林を整備し、広葉樹林転換の1歩を踏み出せた。今後は航空レーザ計測を実施し、整備の優先度がより高い竹林を特定していく」との方向性を示した。

(2023年2月21日取材)

(トップ画像=相続人等申告書の例)

『林政ニュース』編集部

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