【第1回】国際競争に打ち勝つために─速水亨のFSC「森林認証」取得日記─

【第1回】国際競争に打ち勝つために─速水亨のFSC「森林認証」取得日記─

欧米の林業・木材企業が、次々と取得に乗り出している「FSC森林認証」。北欧では、森林組合などが取得したとの事例も報告されている。また、英国では、FSCラベルが貼られた木製品を優先購入する消費者運動が活発化し、世界中に広がる動きをみせている。
こうした国際情勢を睨んで、昨年、日本で初めて認証審査に挑戦した三重県の林業家、速水亨氏に、認証取得までの歩みをご寄稿いただいた。

平成9年夏──「森林認証」との出会い

世界の林業・木材企業が、環境管理に取り組み、ISOやFSCの規格・基準認証を競って取得している。平成9年1月に、日本林業経営者協会の理事としてISOの会合(TC207ヘルシンキ)に出席した私は、森林分野の環境規格に対する外国企業や政府関係者の積極的な姿勢を目の当たりにした。これは、林業経営者にとって、避けて通れない問題だと確信した。

これからのキーワードは、間違いなく「環境」。「環境」と謳った商品は、それだけでもマーケットで優位にたっている。林業のように環境へのインパクトが大きい産業にとって、環境対応の遅れは致命的になる。

日本の林業は、「保続」という形で国土の緑化に貢献してきた。

だが、国際的な森林環境に対する要求は、もっと積極的な配慮を要求している。まず配慮が行き届いた施業を実行した後に、それを誰にでも理解できるように明確にしなければ、賢明な消費者には通用しない。そのために、国際的な規格や基準によって、認証を受けることが必要になってくる。国産材は、「木材乾燥」ニーズへの対応が遅れたために住宅マーケットに取り残され、外材にシェアを奪われた。環境認証で同じ轍を踏まないように、私は認証取得を真剣に考えるようになった。

夏のある一日、爽やかな風が吹く檜の林を歩きながら、これからこの素晴らしい林を世界の林業の環境基準で評価したら、どんな結果が出るのだろうと考えながら、すでに心は認証のステップを登り始めていた。

平成10年10月25日 FSCの認証制度を選択

10月21日にWWFジャパン((財)世界自然保護基金日本委員会)と三重県の共催で、FSCに関する説明会が津市で開催された。私も開催に助力し、当日は、従業員とともに参加した。週末に日程が空いたWWFジャパン自然保護室の前澤英士氏と、認証機関SCSのロバート・ルーブル氏が私の森林を訪れ、檜の山を散策し、議論を交わした。彼らが帰った後、いっしょに立ち会った現場の従業員とも話し合い、来年、認証に挑戦しようと決心した。

環境関係の認証制度にはいろいろあるが、さまざまな国際規格を創出し、国際スタンダード化しているISOの14000シリーズ(環境マネジメントシステム)と、WWF((財)世界自然保護基金)が推奨しているFSC(森林管理協議会)の森林認証制度が代表的だ。

ISOの規格は、さまざまなモノの品質や性能の基準を定めているが、14000シリーズは、環境管理の改善計画(マネジメントシステム)が対象。Plan(計画)─Do(実行)─Check(点検)─Action(見直し)の流れがポイントになる。「(改善)システムの評価」を行うことによって、環境管理を徹底させる仕組みだ。これから「環境」に取り組み、改善を図っていく企業などは、ISOの方が向いているのかもしれないが、経営組織や環境方針の細かいチェックが必要となるため、認証を受ける際の事務量は膨大になるおそれがある。

一方、FSC認証制度は、森林の持続的管理を専門に扱う制度で、これまでの管理状況、現在の状況、将来の計画を重視する「時の評価」と言えるだろう。現場での審査が中心になると予想され、現在の森林経営の環境的配慮、あるいは持続性が評価される。

速水林業の場合は、今までも環境に配慮しながら経営に取り組んできた自信があるし、一方、経営組織は単純で、事務量の増加によって職員を増やすことは避けたいので、現場中心のFSCを選択することにした。また、自然保護派の人たちに、速水林業の施業・経営を認めてもらいたいというのも、認証取得の目的の一つだ。その点、FSCが環境NGOを巻き込んだ組織であることは、魅力的でもある。

平成10年11月21日 カリフォルニアの認証機関に依頼

相談にのってもらっていた前澤氏(WWFジャパン)と打ち合わせをした。国内初の取り組みということで、積極的な協力を得られることになった。 

実際の認証作業は、FSCから認可を受けた認証機関が行うことになる。日本では、まだFSC認証機関が誕生していないので、カリフォルニアに本社を置く認証機関SCSに依頼することになった。

SCSは、森林のほかにも、環境関係で幾つかの認証関連業務を行っている民間会社。その認証のシステムは極めて合理的で、また厳しいとも聞いていたので、信頼性が高いと判断した。

SCSのロバート氏には面識もある。

彼と議論したことは、認証を離れても、日常の林業経営の中で参考になることが本当に多い。林業に対する彼の真摯な態度は印象的で、是非、彼に私の森林を評価をしてもらいたいと思った。

しかし、まだ準備する書類も皆目わからないし、もっとも大事な、日本で認証を受けるための体制は全く整っていない。この面では、WWFジャパンの活動を待つほかに手だてはないようだ。結局、SCSへの正式なオーダーは一旦見送り、ロバート氏に、「来年、認証を取得するように努力する。そのために準備を始める」と連絡した。前澤氏には具体的な準備をお願いした。つづく

(トップ画像:認証審査で檜林を案内する速水氏(中央))

『林政ニュース』編集部

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