【第4回】「持続可能」の証明、成る!─速水亨のFSC「森林認証」取得日記─

【第4回】「持続可能」の証明、成る!─速水亨のFSC「森林認証」取得日記─

平成11年9月24日 日本オリジナルの認証基準が必要

今日は最終的な審査が行われた。審査は、①持続的経営(5細目)②生態的保護(5細目)③経済的社会的責任(4細目)──の3項目14細目に沿って行われる。まずは各細目の配点について、ロバートを中心とする4人の審査員が慎重に検討を行う。とはいっても、日本人の審査員がロバートの試験を受けているような感じで、私は先生方の苦労する顔を横目で見ながら、ゆっくり休息。
 
もともと外国の森林向けにつくられた基準で審査を行い、採点するのは、それなりの難しさがあるようだ。日本の地形や風土、施業慣行などを踏まえたオリジナルの基準が必要だ。これは、WWFジャパンの前澤氏がかねてから主張していることだが……。

採点は明日行われることになった。全項目で80ポイント以上獲得することが、認証の絶対条件となる。

9月25日 「認証推薦」決まる、経営努力に高い評価 

朝から一日かかって審査員による採点が行われ、夕方、結果発表を迎えた。緊張が一気に高まる。私はこれまで、世界各国の森林を見て歩き、環境に配慮した施業について充分検討しながら、先進地に負けない経営を実践してきたつもりだ。速水林業が認証を取れずして、日本の他の林業経営は絶対に取れないと言えるだけの自信もある。そうした思いが頭を駆けめぐる中、講評が始まった。
 
結果は、三項目とも80点以上を獲得し、SCSの「認証推薦」を受けられることになった。ただし、「生態系保全林の確保」が、オプション(条件)として付け加えられた。一年以内に生態系保護区を設定して、誰にでもわかるように地図上に示すこと、そして、経営面積の概ね5%=約50haが条件だ。

講評では、「ヒノキ人工林の中に五十種の広葉樹が繁茂しており、他の人工林地帯には見られない多様性が確保されている」と、人工林施業での環境への配慮が認められ、私の経営努力を高く評価してもらえた。コスト削減に関しても、「あらゆる努力を行っている」とのコメントをもらい、ここ数年、厳しい経営状況の中で、環境に配慮しながら頑張ってきた甲斐があった。また、「被雇用者・請負者の管理運営」に関する評点が、平均98点(細目の中には100点満点もあった)と、際だって高得点だったことは、経営者として何よりも嬉しかった。環境配慮型林業を目指す私の意思をよく理解して、自分たちで工夫し、実行してくれる従業員たちには、日頃から本当に感謝している。私の最高の誇り─「世界中で最も優れた森林作業員」である。

9月26日 ラベリングの夢、住宅メーカーなど早くも反応

この機会に、流通・加工分野の審査も受けることにした。製材品などにもFSCのマークが入ったラベルを貼って流通させるのが狙いだ。速水林業の山から出た丸太や製品、木工品のすべてにラベルを貼るのは、以前からの夢だった。環境対応を重視するこれからのマーケットでは、このラベルがモノを言うことになる。現に海外では、FSCの認証を受けた木材以外は購入しないと約束することによって、森林の保護を図ろうとする企業グループや消費者の運動が活発化しているのだ。
 
CoC(Chain -of -custody)と呼ばれる、昨日までの審査とは別体系の審査が行われた。チェックポイントは、FSC認証材の中に、非認証材が混入して流通することのないよう、管理体制がきちんと構築されているかどうか。取引関係の深い製材工場や木工所に準備してもらっていたので、問題なくクリアーした。
 
今回の取り組みをとりあげてくれた新聞記事をみて、大手住宅メーカーや2×4メーカー、設計関係者などから問い合わせがくるようになった。住宅関係者の反応は速い。FSC認証材で家を建てたい──こんなニーズに応えて、総尾鷲ヒノキづくりの家を考えてみるのも面白いだろう。

9月27日 習慣的施業、木材生産中心から脱皮

すべての審査が無事に終了し、ロバートはじめ、みなさん帰路についた。正式な結果は、後日、SCSから通知される。

初めての経験だったので苦労も多かったが、今後の経営に役立つことは間違いない。例えば、今まで400人工かかってやっていた育林作業は、手順を見直したことによって3分の1程度に合理化できた。徹底したコスト意識は、日本の習慣的施業を見直す、いいきっかけになるだろう。生産中心の林業経営もしかり。これからは、“生産物以外のもの”への配慮が重要になってくる。私の場合は、ヒノキ以外の木や下草、そこに住む生物たちだ。従来の集約林業の中で単に排除してきた“生産物以外のもの”に、目を向けなければならない。そのためには、誰がやっても同じようにできる、標準的な管理経営システムが必要になるだろう。

10月13日 オーストリアの山の中で

林業機械の展示会を見学するため、オーストリアにやって来た。4人の従業員が自費でついて来た。昨年までは毎年一人か二人を海外研修に出していたが、今年はあまりにも材価が安く、そんな余裕はない。私も安い航空チケットを手に入れて、1泊2食付き3,800円のロッジに泊まっている。でも、自腹をきって海外に勉強しにくる従業員を、素敵だと思いませんか?

オーストリアの山の中、みんなで、「どうだ、ウイーンの森と言ったって、速水林業の森にはかなわないな」「そうですよ、だって速水林業の山は綺麗だもの。タバコの吸い殻1本落ちていないですからね」と、言葉を交わす。

19世紀後半から20世紀初頭にかけて活躍し、「森林美学」を唱えたドイツの林学者アルフレート・メーラーの著書『恒続林思想』の中にある言葉、「最も美しい森林とは、最も収穫が高い森林である」──これですよ。

(トップ画像=100年生ヒノキ林の中に多様な広葉樹と下層低木)

『林政ニュース』編集部

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