(後編)米国最新事情 “人工林で競争する時代”の中で【遠藤日雄のルポ&対論】

米国 海外 木材・木製品製造業

(後編)米国最新事情 “人工林で競争する時代”の中で【遠藤日雄のルポ&対論】

中編からつづく)日本木材輸出振興協会の山田壽夫会長が訪れた米国南部には広大なサザンイエローパインの人工林が広がり、米国西部では国有林・州有林を中心に高齢級のダグラスファー(ベイマツ)が生育していた。やはり、米国は世界でも指折りの森林大国といえる。ただし、これらの潤沢な森林資源が丸ごと木材市場へ供給されてくるわけではない。サザンイエローパインの重さは長距離輸送でハンディとなり、ダグラスファーも産業的に伐採利用できるのは会社有林か私有林の人工林に限られる。一方、日本には、戦後造成してきた約1,000万haの人工林があり、国内だけでなく海外の市場も開拓して需要を拡大することが重要課題となっている。このような構図の中で、日本の林業・木材産業関係者は、これからどのような進路をとるべきなのか。山田会長と遠藤日雄・NPO法人活木(いきいき)森ネットワーク理事長との「対論」は、この問題に焦点が絞られていく。

米国西部のメインの供給源は会社有林、主流はサードグロス

遠藤理事長

米国西部に豊富なダグラスファーも、現実的には会社有林か私有林の人工林しか木材利用の対象にならないということだが、それらの供給力はどのくらいなのか。

山田会長

米国の太平洋沿岸北西部地区に生育しているダグラスファーの人工林のうち、面積として大きいのは会社有林で188万haくらいある。私有林の人工林は31万haくらいで、ハンティングや魚釣りなどレクリエーション利用を目的に所有されているところが多い。したがって、メインの供給源は会社有林になる。

遠藤

その会社有林からは、どのような丸太が伐出されているのか。もうオールドグロスやセカンドグロスと呼ばれる高齢級の良質な丸太は入手が難しくなったと言われているが。

山田

そのとおりだ。長年にわたってダグラスファーの丸太を輸入し製材してきている中国木材(株)(広島県呉市)の資料によると、年間輸入量のピークは2018年頃の230万m3で、近年の輸入量は200万m3前後で推移している。同社の関係者に聞くと、セカンドグロス以上の大きな丸太は本当に少なくなり、30年生前後のサードグロスの丸太が主流になっているという。
この中国木材の事例からも、高齢級の天然林を伐採・利用する時代はすでに終わり、人工林を持続的に利用する段階にシフトしていることがわかる。米国に限らず、世界的に“人工林で競争する時代”に入っている。

米国の広葉樹林が秘める圧倒的供給力は他国の追随を許さず

遠藤

そのような時代認識を前提にして、日本のスギやヒノキが持つ国際的な競争力について考えたいが、その前に今回の米国視察では、広葉樹林の状況も調べたと聞いている。その成果についても教えて欲しい。米国の広葉樹林というと、東部のアパラチア山脈周辺が有名だが。

山田

アパラチア山脈には豊かな広葉樹林があると思っていたが、今回は米国北東部に位置するインディアナ州の平地林を訪ねた。ミシガン湖の南側の私有地に素晴らしい広葉樹林が広がっており、天然林全体の面積(以下同じ)は181万haに及ぶということだった。
それでも、現地の関係者は、「広葉樹の育成に1番適した州はここではない」と言う。そこで、どこが適地なのかと尋ねると、ペンシルベニア州(634万ha)の蓄積が最も多いという話だ。また、ニューヨーク州(601万ha)にも広葉樹林があって成長も良く、ほかにも、オハイオ州(300万ha)、ミシガン州(700万ha)、ケンタッキー州(500万ha)、ウエストバージニジア州(450万ha)、テネシー州(500万ha)にも広葉樹林があるということだった。

遠藤

すごい資源量だが、木材として利用することはできるのか。

米国北東部には大面積の広葉樹林が広がっている
山田

インディアナ州は、基本的にウェットランド(湿地帯)で、農地として利用するためには排水施設などを整備しなければならずコストがかかる。このため農地にできない土地が多く残っており、そこに広葉樹林が生育しているので、施業などはやりやすい。
インディアナ州では、農地の隣にある24haと97haほどの広葉樹林を視察した。主な樹種は、ウォールナット、ホワイトオーク、チェリー、ポプラ、アッシュ、ハードメープル、ヒッコリーなどで、ha当たり1本から3本の択伐を行い、10年から20年の回帰年で管理・経営していた。

遠藤

インディアナ州で伐出された広葉樹材は、日本を含めた海外にも輸出されているのか。

山田

広葉樹林の管理・経営から素材生産、製材加工までを手がけているパイク・ランバー社で聞き取りを行ったところ、輸出先は、日本のほか、インドネシア、中国、ベトナム、メキシコ、イギリス、アイルランドなどだった。日本向けの製品は、まずトラックでシカゴまで運び、貨車で西海岸のロサンゼルスまで輸送した後、タコマ港から船で日本に届けており、所要日数は30日間ほどという話だった。
同社によると、インディアナ州における広葉樹林の成長量は伐採量の2.5倍あり、蓄積量も増加している。また、同社独自の技術開発として、通直な広葉樹材を得るためにパイン(マツ)などの針葉樹と混植する試験林などもつくっており、今後もハイレベルの市場競争力を維持していくとみられる。

パイク・ランバー社では様々な広葉樹材を加工している

スギ・ヒノキ製品を米国の標準に、世界と伍せる実力がある

遠藤

なるほど。米国は、今後も世界に冠たる広葉樹材の産地として君臨し続けそうだ。だが、人工林材の供給力には限りが出てきているように映る。日本の人工林が持つポテンシャルと比較しながら将来を展望するとどうなるか。

山田

環太平洋地域でみた人工林材の主要産地は、米国西部のほかにニュージーランドがある。同国のラジア―タパインの人工林面積は170万haほどだ。それに対して、日本のスギの人工林面積は440万haある。また、ヒノキは260万ha、カラマツは95万ha、トドマツは72万haの人工林があり、資源的な競争力は十分にある。

遠藤

その資源をどう活かすかが問われている。日本国内の住宅市場は縮小しており、海外市場の開拓が喫緊の課題といえる。その先駆けとしてスギフェンス材の米国への輸出量が増えているが、現状をどうみているか。

山田

日本のスギ丸太が中国や韓国に輸出され、フェンス材などに加工されて米国に出荷されるケースが目立っている。今回の米国視察でオレゴン州のバンポート・インターナショナル社を訪ねたが、中国や韓国は注文をよく聞いてくれるのに対し、日本はなかなか商談が進まないと嘆いていた。例えば、フェンス材の上端の角を取って出荷してくれる日本企業は1社しかないと言っていた。ただし、韓国や中国の製品は品質管理に問題があることも指摘していた。

遠藤

率直に言って、スギフェンス材は、利益率の高い製品ではない。もっと付加価値の高い製品輸出を狙うべきではないか。

山田

その点については、3年ほど前から検討を進めており、日本のスギ・ヒノキを2×4(ツーバイフォー)製品に加工して、米国に輸出することを目指している。オレゴン州立大学と連携して、一昨年からヒノキの強度試験を行っており、そのデータをもとに米国の規格に準拠して一般的に流通・販売できるようにする計画だ。ヒノキについてはメドがついてきたので、今年からスギの強度試験にも着手しようとしている。

遠藤

米国でスギ・ヒノキの2×4製品がスタンダードになれば、他の国への輸出拡大にもつながっていくだろう。

山田

日本国内にも国際水準の生産性を有する大型製材工場などが増えてきた。エリートツリーなどの育種技術も進展しており、素材生産や造林・育林分野の低コスト化などを一段と進めれば、“人工林で競争する時代”の中でも十分に世界と伍していける。今回の米国視察を通じて、この点を再確認することができた。

(2023年8月2日取材)

(トップ画像=米国のオレゴン州立大学で、日本から持ち込んだヒノキの強度試験が行われている)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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