(前編)米国最新事情 世界屈指の供給力を持つSYP(サザンイエローパイン)【遠藤日雄のルポ&対論】

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(前編)米国最新事情 世界屈指の供給力を持つSYP(サザンイエローパイン)【遠藤日雄のルポ&対論】

ウッドショックの震源地となった米国は、良くも悪くも日本にとって目の離せない存在であり、常に最新動向を把握しておく必要がある。とくに最近は、木材製品の輸入先としてだけでなく、輸出先としても米国がクローズアップされている。そこで、遠藤日雄・NPO法人活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、日本木材輸出振興協会(東京都文京区)の山田壽夫会長に「対論」を申し込んだ。同協会は、昨年(2022年)10月に改正輸出促進法に基づく「品目団体」に認定され、オールジャパンを代表する窓口として海外市場の開拓に取り組んでいる。とくに、米国を主要ターゲット国の1つに位置づけてアプローチを強化しており、山田会長は5月下旬から約半月間にわたって訪米し、林業・木材産業の盛んな西部と南部で現地調査を行うとともに、関係者らと意見交換を行ってきた。そこから見えてきた米国の“実像”とはどのようなものなのか。遠藤理事長が迫る。

最も注目されている米国南部、短伐期で高収益な林業を推進

米国とカナダを合わせた「北米」の面積は日本の約25倍と広大であり、豊富な森林資源をベースにダイナミックな林業・木材産業が展開されている。ただし、その内実は大きく変化してきている。

北米における森林資源の賦存量は、3つに大別される。すなわち、3分の1はカナダ(主としてBC(ブリテッシュ・コロンビア)州)にあり、2×4(ツーバイフォー)住宅部材になるSPF(Spruce、Pine、Fir)が主要樹種となっている。次に、米国西部のワシントン及びオレゴンの2州に3分の1が賦存しており、メインの樹種はダグラスファー(Douglas fir、ベイマツ)だ。そして、残りの3分の1は米国南部にあり、成長の早いサザンイエローパイン(Southern Yellow Pine、SYP)の人工林が広がっている(トップ画像参照)。

この中で、今、北米の木材企業などから最も熱い視線を浴びているのが米国南部だ。その魅力は潤沢に賦存するサザンイエローパインが短伐期で収穫でき、収益性の高い林業経営ができることにある。このため、カナダBC州や米国西部の木材企業が米国南部に進出し、既存の製材工場等を買収したり、新規に工場を開設するケースが目立ってきている。北米の“伐境”、つまり林業経営の最前線は、確実に南部に移行しつつある。

この点を踏まえて、遠藤理事長は山田会長に問いかけた。

遠藤理事長

米国南部の実態は、日本ではほとんど知られていない。まず、現地に足を踏み入れた率直な印象から聞きたい。

山田会長

今回の米国視察は、西部と南部の実情を知ることが目的だった。南部については、サザンイエローパインの人工林面積が最も大きいジョージア州を訪ねた。州都のアトランタから車で州内を回ったが、時速60マイル(約100㎞)で走っても走っても森林が広がっており、膨大な資源があることを実感した。

約2,000万haの人工林が広がり、40年生以下で伐採・利用

遠藤

サザンイエローパインに代表される人工林は、米国南部にどのくらいあるのか。

山田

米国南部には、約2,000万haの人工林が存在している。その中心であるサザンイエローパインは、ロブロリーパイン(Loblolly Pine)、ショートリーフパイン(Shortleaf Pine)、ロングリーフパイン(Longleaf Pine)、スラッシュパイン(Slash Pine)など11種類のマツ属を総称する商業用語で、製材品や合板、紙・パルプ、ペレットなどの原料となっている。
サザンイエローパインの最大の特長は成長が早いことだ。その多くはかつて綿花畑だったところに植栽されており、伐出の生産性なども非常に高くなっている。

遠藤

成長の早いサザンイエローパインは、何年くらいで伐採・利用されているのか。

山田

参考データとして、米国東部におけるサザンイエローパインの林齢別面積をみるとのようになっている。
サザンイエローパインは、100年ほど前から植林が行われているとされているが、現状をみると100年生以上はほぼ0%で、60年生以上も10%程度しかない。大半は40年生以下だ。このからは、40年生以下の短伐期で収穫していることが読み取れる。

遠藤

そのような短伐期林業で、再造林などはできているのか。

山田

その問題に関しては、ジョージア大学や森林事務所などでヒアリングを行った。関係者の話をまとめると、ジョージア州の人工林は、常に成長量より伐採量が下回るように管理されており、その面積は2014年から増加傾向にあるという。蓄積量も増えていて、1972年から2019年までの増加率は森林全体で70%、人工林に限ると583%に達しているということだった。
なお、収穫時には、径16インチ(40cm)から18インチ(46cm)の植林木を伐採することを目安にしているとの話だった。

ジョージア州では日本の5倍を植え付け、利益率10%で回している

遠藤

世界の森林・林業国は、必ずと言っていいほど成長量以下の伐採量にとどめていると主張し、循環利用をアピールする。そこで問われるのは、どうやって再造林などを行っているかだ。

山田壽夫・一般社団法人日本木材輸出振興協会会長
山田

ジョージア州では、1年間に約3億3,100万本の苗木を植えているということだった。日本では年間に約6,500万本を植えているから5倍程度の規模になる。
約3億3,100万本の内訳は、裸苗が約2億300万本、コンテナ苗が約1億2,800万本ということだった。コンテナ苗の割合がかなり高い。

遠藤

植栽密度はどれくらいなのか。具体的な植栽方法なども知りたい。

山田

だいたいha当たり1,500本の割合で植えており、毎年の植林面積は約22万haに及ぶということだった。
植え付けには専用の機械を使用しており、5台で1日100エーカー、つまり40haを植林するという。1台が1日8時間稼働として、1時間当たり1haの植え付けをこなす計算になる。現場に行って確認したが、一定のラインに沿って進みながら横に4mくらいの幅で効率的に植え付けていた。

遠藤

それだけハイペースならば、植林コストも削減できるだろう。

山田

人工林を造成するための初期投資は非常に低く抑えられており、10%以上の利益率で回せるということだった。ただ、現地ならではの工夫も凝らされており興味深かった。

遠藤

ジョージア州ならではの工夫とは?

山田

山火事対策のためだろうが、伐採後再造林の前に、8フィート(2.4m)から10フィート(3m)の防火線(帯)をつくって火入れ地拵えをしていた。
一番驚いたのは、除草剤を播いたり、火入れをして、下草などを排除していたことだ。なぜ、そのようなことをするのか何度も尋ねて、結果的にわかったのは水を確保するためだった。ジョージア州のこの地域の年間降水量は1,200㎜くらいで、日本の岡山県や広島県などと同程度だが、1年中均等に雨が降るわけようだ。成長量が旺盛な時期に、植林木が他の植生との水競争に負けないようにするため、除草剤を播き、火入れもしているということだった。

遠藤

そのような手間をかけても、ジョージア州のサザンイエローパインは、世界でも指折りの市場競争力をもっているのか。

植林地で行われた火入れの跡
山田

伐出コストも低いし、製材工場などには極めて効率的な加工ラインが整備されていた。(中編につづく)

(2023年8月2日取材)

『林政ニュース』編集部

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