(中編)米国最新事情 日本の脅威になる産地は?【遠藤日雄のルポ&対論】

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(中編)米国最新事情 日本の脅威になる産地は?【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)米国南部に約2,000万haにわたって広がるサザンイエローパインの人工林は、成長が早く、世界屈指の市場競争力を持つとされる。その最新状況を掴むため、日本木材輸出振興協会の山田壽夫会長は、サザンイエローパインの人工林面積が最大のジョージア州を訪ねた。そこでは、40年生以下で収穫する短伐期林業が行われ、日本の約5倍の苗木本数に相当する規模の植林も実施されていた。では、この豊富な人工林から供給される木材は、どのようなユーザーに届けられているのか。また、日本のマーケットに及ぼす影響はどう考えられるのか。遠藤日雄・NPO法人活木(いきいき)森ネットワーク理事長が問う。

工場から75km圏内で丸太集荷、工場までのコストは1,400円以下

遠藤理事長

ジョージア州では、伐出コストも低く抑えられているということだが、現場の状況はどうなっているのか。

山田会長

現地の関係者の話では、ジョージア州の伐出労働者は約3,500人、トラック運転手は約3,000人であり、これだけの人員で効率的な作業を行っているということだった。
実際に伐出現場を視察したが、作業員は3人だけだった。ハーベスタやフェラーバンチャで伐採し、フォワーダやスキッダで集材し、大型トラックに積み込むという非常にシンプルで、日本と比べるとかなり荒っぽい作業が行われていた。

枝払い用に設置されているスリット付きゲート
遠藤

荒っぽいとは?

山田

伐採現場にスリット付きのゲートがあり、そこに丸太を突っ込んで一気に枝払いをしていた。折れたところや弱い部分はいらないという感じだった。また、造材などは行わず、丸太を長いまま大型トラックに乗せて、おおよそ75km圏内の製材工場などに運んでいた。

遠藤

75km圏内が採算ベースに乗る丸太の集荷範囲ということなのか。

山田

そのようだ。米国南部のトラックは一般道を最高時速100kmくらいで走るので、日本にあてはめると50km圏内くらいのイメージだろう。山から丸太を伐り出して工場に納めるまでの費用は、運賃を含めてm3当たり7ドルから10ドル、日本円だと1,000円から1,400円という話だった。

年間原木消費量160万m3、1本0.5秒で処理する最先端工場

遠藤

それだけ安く調達した丸太を、どのように加工しているのか。

山田

最先端の加工ラインを見たかったので、ジョージア・パシフィック社が3年前に新設した製材工場を視察した。同社は世界最大規模の林産企業で、カナダにも加工拠点を持っていたが、松くい虫(マウンテン・パイン・ビートル)の被害が激しいなど丸太の集荷が不安定になったので、ジョージア州に拠点を移したと言っていた。

遠藤

その最先端の製材工場は、どのくらいの生産規模なのか。

ジョージア・パシフィック社の製材工場の内部
山田

年間の原木消費量は約160万m3、製品出荷量は80万m3という超大型工場だ。チップキャンターで前加工してから製材し、2×4(ツーバイフォー)建築用のランバーをつくっていた。24時間稼働で、1日のうち1.5時間程度はメンテナンスにあてていた。

遠藤

日本の製材工場と比べると桁違いのスケールだが、生産ラインはどうなっているのか。

山田

投入されていた丸太は35~40年生のサザンイエローパインだった。サイズはランダム(乱尺)で、最長7~8mのものもあった。これをスキャナーにかけて、断面の木取りや長さを決めるだけでなく、欠点の判読、等級の判定から印字までを自動的に行い、コンピュータ室の担当者が1人でコントロールしていた。処理スピードは製品1本当たり0.5秒程度で、プレーナーのラインは1分間に500mも1,000mも走っているように見えた。

乱尺の丸太が次々と投入される

サザンイエローパインは強いが重く、長距離輸送に向かない

遠藤

そのような生産効率の高い工場でつくられた製品は、どこに出荷されているのか。

山田

基本的に米国東部を中心に、メキシコ、ヨーロッパ、南米に出荷していた。サザンイエローパインは膨大な供給量があるのと同時に、大西洋側に膨大な市場を持っており、需要は十分にあるようだ。

遠藤

サザンイエローパインの製品が太平洋側の米国西部に出荷されることはないのか。

山田

サザンイエローパインは強度のある材だが、重い。これが長距離輸送の際にはハンディになる。50t積みのトレーラーでも30t分しか積めないと言われており、船や貨車でも輸送しにくいのが実情だ。また、水分を多く含んでいて、乾燥が難しく曲がりが出やすいという欠点もある。
米国西部でもっぱら建築用材に使われているのはダグラスファー(ベイマツ)で、軽くて強いのが特長だ。カナダのSPFも同様の理由で使われており、サザンイエローパインの製品を米国西部まで運んでもなかなか競争力が出ていないというのが現状のようだ。

遠藤

となると、日本に入ってくる可能性も低いのか。

山田

日本でも、サザンイエローパインで遊園地のジェットコースターをつくったり、集成材のラミナに使用した事例はあるが、建築用材となると米国西部でも競争力がないのだから、Jグレードクラスの製品が日本に安定的に入ってくるような状況ではない。
サザンイエローパインの丸太は、土木用材として中国や韓国、台湾、インドなどに出荷されており、付加価値の高い製品輸出を現地は期待しているが、日本の脅威になる存在とは当面言えないだろう。
ただ、ジョージア州の関係者は、これからペレットの生産量が劇的に伸びると言っており、これが世界の需給動向にどのような影響を及ぼすかは注意深く見ていく必要がある。

米国西部に豊富なダグラスファーも木材利用対象は限られる

遠藤

サザンイエローパインは日本にとって脅威にならないとすると、気になるのは米国西部の現状だ。とくに、ワシントン州とオレゴン州は対日木材輸出量が多く、メインのダグラスファー製品は、日本の住宅の梁、桁などに標準的に用いられている。ただ、そのダグラスファーも、最近はサードグロスと呼ばれる30年生の丸太が主流になり、目が粗く品質が落ちてきていると言われる。今後の供給力などはどう見通されているのか。

山田

統計データからみたダグラスファーの林齢別面積は、のようになっている。100年生以上が24.1%と約4分の1を占め、60年生以上が半分近くあるなど、まだまだ高齢級のダグラスファーが米国西部にはある。
今回の視察では、ポートランド近郊のフッド山の周辺を車で6時間走ったり、オレゴン州のコーバリス市にあるオレゴン州立大学を訪問した際には、3時間ほどかけて山越えをした。行けども行けどもダグラスファーの森林が続き、豊富な資源があることを確認できた。ただし、この資源がそのまま木材として利用できるわけではない。
高齢級の天然林が多い国有林・州有林などは自然保護やレクリエーシン利用などが優先されており、産業的な伐採はできない。事実上、会社有林か私有林の人工林しか木材利用の対象にならない。

遠藤

その木材利用の対象となる人工林は、日本の林業・木材産業にとって脅威になってくるのか。(後編につづく)

(2023年8月2日取材)

(トップ画像=ジョージア州で行われている伐出作業)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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