(前編)2024年度林野庁予算要求の重点事項 「花粉症対策」を前面に出して全体を再編【緑風対談】

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(前編)2024年度林野庁予算要求の重点事項 「花粉症対策」を前面に出して全体を再編【緑風対談】

16・4%増で要求も厳しい査定が待つ、予算増のカギは補正

林野庁の来年度(2024(令和6)年度)予算概算要求が財務省に提出された。要求総額は3,557億1,200万円、対前年度当初予算比では16.4%増とした。例年と同じく、概算要求基準の枠を目一杯使った要求額となっている*1

そうなのだが、年末に向けての予算査定で要求額が縮小していくシナリオは例年どおりだ。したがって、この段階で数字の多寡を云々しても意味はない。
参考までに、前年度林野予算の場合は、17.8%増で要求し、最終的には2.7%増まで削り込まれて決着した。

そうなると今回も予算増のカギを握るのは、別枠扱いで事項要求した国土強靱化5か年加速化対策やTPP対策などになる。岸田政権が検討を始めた今年度(2023(令和5)年度)補正予算にこれらの対策が盛り込まれれば、前倒しで必要額を確保できる。
昨年の予算編成でも、これらの対策に関する経費は補正予算で措置された。このため、林野庁の担当セクションは、「補正」の声がかかったら直ちに受け皿づくりに動ける態勢をとりながら、通常業務にあたっている。

非公共事業を「花粉削減・グリーン成長総合対策」に一本化

それでは 来年度林野予算要求の重点ポイントをみていこう。統一テーマとして掲げたのは、「新たな花粉症対策の展開と森林・林業・木材産業によるグリーン成長」。前年度までの取り組み課題に、岸田政権が突如として打ち出した「花粉症対策」が最重要課題として覆いかぶさり、林野予算全体を再構成したかたちになっている。

その中で何よりも目を引くのは、非公共事業の既存施策などを統合・再編して「花粉削減・グリーン成長総合対策」を新たに立ち上げ、222億円を要求したことだ。
同対策はのとおり極めて幅広い施策領域をカバーしている。現在実施している「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策等」(予算額は103億円)も川上から川下に至る事業メニューを揃えているが、それに花粉発生源対策や担い手育成対策、山村振興対策などもプラスして、大きな傘の下に収めた。林野庁の非公共事業は、事実上、同対策に一本化されたと言っていい。

同対策では、広範に及ぶ補助事業や支援措置などの使い勝手を高めるため、総合的な交付金を創設することも予定している。今でも前出した「グリーン成長総合対策等」の中の「林業・木材産業循環成長対策」などで交付金の仕組みがとられているが、新たに「花粉削減・グリーン成長総合支援交付金」をつくり、同対策の要求額222億円のうち207億円をこの交付金に充てる方針だ。これも思い切った見直しと言えるだろう。

条件不利地域で伐採・植え替えをする森林所有者等に協力金

次に、同対策の中で目玉となる新規要求を取り上げよう。まず着目すべきは、スギ人工林の伐採・植え替えを促進するため、森林所有者等に協力金を出す制度を新設することだ。
現在も伐採・植え替えを行う所有者や事業者を対象にコンテナ苗などの導入支援を行う事業が行われている。これを組み替えて、手入れがしにくい条件不利地域にあるスギ人工林を対象に、伐採・植え替えを後押しするための協力金を用意する。交付額はha当たり45万円程度を想定しているが、予算査定を担当する財務省がスンナリ認めるかは不透明だ。

林野庁が来年度予算で講じようとしている花粉症対策は、スギ材の需要を拡大して、伐採・植え替えにドライブをかけようというのが大きなストーリーとなっている。
新設する協力金は、このストーリーに乗りづらいところに支援の道をつけようというもので、果たして仕上がりはどうなるか、今後の帰趨を注視していく必要がある。

本筋であるスギ材の需要拡大に関しても新規要求が出ている。それは、スギのJAS構造材等を使用する建築事業者に対する助成金の創設。すでに補正予算で先鞭をつけている支援措置を当初予算でも正式に位置づけることにしている。

公共でも「重点促進区域」を指定し花粉の少ない森林を造成

ところで、林野庁の来年度予算要求では、花粉症対策を強化するため、公共事業の森林整備事業でも新たな仕組みをつくることにしている。都道府県が「スギ植替重点促進区域」(仮称)を設定して、花粉の少ない森林の造成を進めるというものだ。「重点促進区域」に指定された場合の補助率は10分の3、査定係数を200まで引き上げる優遇措置を講じることにしている。

花粉削減のためとはいえ、公共事業で伐採促進策を講じることには異論も出るだろう。このため、「重点促進区域」では、伐採から造林までの一貫作業を行うことを必須条件とし、林業適地では少花粉スギ苗木、それ以外は広葉樹の苗木を植栽するなど、多様で花粉の少ない森林づくりを進める方針だ。また、伐採上限面積を設定し、山地災害が発生しやすい箇所は対象外とするなどの歯止め措置も設けることにしている。

公共事業まで動員するとなると、林野予算は「花粉一色」になったように映るが、もちろん他の施策や事業を蔑(ないがし(ろにしているわけではない。後編では、この点にも切り込もう。

(2023年8月30・31日取材)

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体お主は何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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