画期にある日本林業を進化させるために最も必要なことは何か。家電や住宅設備などを幅広く手がけるメガカンパニー・パナソニックホールディングス(株)(旧松下電器産業(株))のグループ企業で研修やコンサルティング事業を行っているパナソニックエレクトリックワークス創研(株)(大阪府門真市、野崎真吾・代表取締役社長)の上席コンサルタント・中ノ森哲朗氏からストレートな提言が届いた。

センダンの商業的利用へ、13県に拡大し「芽かき」手法も普及

これからの日本林業が取り組むべき課題は、伐採期を迎えているスギ・ヒノキの高付加価値化と早生広葉樹の実用化だ。とくに、住宅着工戸数が下落傾向に入った中では、早生広葉樹を活用して新しい市場(マーケット)を開拓していくことが急務といえる。

日本の家具や建材の表層部に使われている材料は、ウォールナットやメープル、ホワイトオークなどの欧米材が主流で、国産の広葉樹はほとんど利用されていない。逆に言うと、この分野の材料転換が進めば、国産材の新規需要が生まれることになる。

とくに有望なのは、早生広葉樹のセンダンだ。福岡県の大川家具工業会が2017年にセンダンを使った「SENDAN家具」を発売したのはエポックメーキングな出来事だった。

その後もセンダンを家具用材などに利用する試みが続いており、昨年(2023年)10月に九州大学で開催された日本木材加工技術協会の年次総会では、センダンの商業的利用に向けた様々な先進事例が発表された。また、現地視察を通じて、植林したセンダンも天然生のセンダンと遜色のない品質を持っていることなどが確認された*1。

センダンの実用化に取り組んでいる地域は13県までに広がってきており、通直な木を育てる「芽かき」*2の手法も各県へ普及し始めている。

地域に合った樹種を選んで育てる、人材育成はボーダーレスで

このようにポテンシャルの高いセンダンだが、大手建材メーカーからは、「量がなければ商品開発できない」との指摘が出ている。やはり課題は安定供給体制の構築であり、センダンの植林地をもっと増やしていかなければならない。林野庁は耕作放棄地で早生樹を植える際の手続きを簡略化し、大手オフィス家具メーカーの中にはセンダンを使った商品開発と併せて植林支援を行うところも出てきた。この流れをもっと太くしていく必要がある。

日本には、センダンのほかにも、赤味を帯びたチャンチンやナラと対抗できるコナラ、白身を帯びたユリノキ、チャンチンモドキ、寒い地方で育つハンノキなど、有望な早生広葉樹がある。地域に合った樹種を植林して約20年で利活用する仕組みができれば、新たな広葉樹ビジネスを確立できる。そのためにも、林業の現場を支える人材の確保と育成が急務だ。

私は、昭和期から平成期にかけて、インドネシアやマレーシアの木材業者と頻繁に取引をし、伐採地も何度も訪れた。現場で作業しているのは若い人が多く、大径木の伐採も難なくこなしていた。今こそ、海外の林業大学などを出たフレッシュな人材を積極的に受け入れるべきだ。インドネシアやマレーシアだけでなく、ベトナムなどにも優秀な人材は豊富にいる。世界はボーダーレスの時代に入っている。国の垣根を取り払わなければ、日本林業創生への道筋は見えてこない。

弊社は、6年前から森林組合や林業事業体の人材育成や経営基盤強化、販路拡大などをサポートしている。パナソニックグループの創業者である松下幸之助が唱えた「物をつくる前に人をつくる」の精神のもと、日本林業に携わる多様な人々を増やすことを考え、行動していきたい。

中ノ森哲朗氏(福岡県大木町の自宅で育てているセンダンとともに)
センダンの花が満開している様子
センダンの花

(トップ画像=植林して育てたセンダン、品質は高い)

中ノ森哲朗(なかのもり・てつろう)

パナソニックエレクトリックワークス創研(株)上席コンサルタント。パナソニック社(旧松下電工(株))時代に住宅建材事業部門で木材関連の商品開発や海外からの木材商材調達を担当し海外の木材を大量に活用してきた。退職後パナソニックエレクトリックワークス創研(株)にて上席コンサルタントとして、主に林業の創生活動を推進。林業関係の森林組合等への活性化支援や国産早生広葉樹の普及、利活用等で日本の木材活用と林業の活性化活動を推進中。

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