ユニーク経営のトマトがセンダンのツキ板生産、業界が認知
「センダンは業界内で“使える”と認められた。もう次のステージに入っている」──こう話すのは、(有)トマトの池末和海社長。池末社長は、大川化粧合板工業協同組合の理事長で、全天連(全国天然木化粧合単板工業協同組合連合会)の副会長もつとめる。自他共に認めるツキ板業界のトップリーダーの1人だ。
同社は、国内外から年間200m3の原木を買い付け、様々なツキ板に加工している。センダンを取り扱い始めたのは15年ほど前。以降、この“新しい木”を使いこなすために試行錯誤を積み重ね、今ではセンダン原木を安定的に消費するようになった。
昨年11月9・10日に静岡市で開催された「第36回全国優良ツキ板展示大会」では、同社が出品したセンダンのツキ板が林野庁長官賞を受賞した。センダンのツキ板は、壁面用などを中心に用途が広がっているという。

同社は、1997年に池末社長が設立した。「トマト」という意表をつくような社名だけでなく、社用車のナンバープレートをすべて「1010」に統一するなど、ユニークな企業経営で知られる。突破力のある池末社長は、センダンを使いこなすために、独自のノウハウを培ってきた。センダンを効率よくツキ板にするには、最低でも2m10cmの長さが欲しい。だが、センダンの天然木は曲がった木が多く、当初は直材を調達することに苦労した。しかしそれも“目利き力”を高めることで克服した。「センダンは、柾目もいいが、板目の木目もいい。今は節ありのツキ板も自然らしさが評価される時代で、市場が広がっている」と池末社長は手応えを感じている。
ウエキ産業は月20m3の原木を消費、「流通と相場をつくる」
大川市内には、トマトと双璧をなすセンダンの加工業者がいる。国産の内装建材を供給している(株)ウエキ産業(植木啓能社長)だ。とくに、センダンのムク集成板を得意としている。
同社は、もともと南洋材の大径材を加工していた。だが、海外からの原木調達が難しくなってきたため、12年ほど前に100%国産針葉樹にシフトした。現在は、スギ・ヒノキ合わせて年間約2,400m3の原木を加工している。
同社の植木正明会長がセンダンと出会ったのは7年前。早生広葉樹を活用するプロジェクトに参画する中で、「センダンのマーケットを広げるためには、もっと攻めないといけない」と思い立ち、2017年に協同組合福岡・大川家具工業会に加入して地域材開発部会の立ち上げに尽力。丸仙工業の田中智範社長らにセンダンの利用を勧めてきた。

同社は、月間約20m3のセンダン原木を消費している。山元での直接調達はせず、(株)九州大川木材市場(大川市)や肥後木材(株)(熊本市人吉市)などの原木市場で購入している。その理由を植木会長は、「原木の流通づくりが必要だから」と話す。周囲の同業者にもセンダンの原木価格などがわかるようにして相場感を形成し、安定的に調達できるルートを整えようとしているのだ。
今のところ市場に出品されるセンダンはすべて天然木で、スギ・ヒノキや街路樹などと一緒に伐採されたものが大半を占める。このため、量と質を揃えるのが難しい。同社は、山主や森林組合、素材生産業者らに、「センダンを伐採したら市場に出して、うちにも連絡して欲しい」と呼びかけている。連絡を受けたら直ちに市場に買い付けに行き、どんな材でもすべて購入する。当然、チップ材にしかならないような曲がりや割れの激しいものも含まれる。植木会長は、「正直に言って歩留まりは悪い。しかし、あと10年もすれば人工林のセンダンが伐期を迎え、直材が流通するようになる。そうすれば一気に問題が解決する」と先を見据えている。

ヨーロッパの高級家具用材・ミンディに取って代わる存在に
植木会長がセンダンの市場価値を疑わないのは、30年以上前にインドネシア産のミンディを加工・販売した経験があるからだ。ミンディ(Mindi)はセンダンの英名で、ヨーロッパの高級家具などの原材料として古くから使われてきた。大川の家具職人の間には、今でもミンディを求める声が根強くあり、このニーズにセンダンが応えられると見込んでいる。

「人工林から出材されるセンダンが安定的に使えるようになれば、植林からの一連のストーリーを持った環境にやさしい家具としてブランド化できる。海外にも輸出できるだろう」と植木会長は期待をかける。
そのためには、センダン人工林の育成手法を確立し、進化させていくことが欠かせない。早生広葉樹を育てた経験が少ない日本の林業界にとってはハードルの高いテーマといえるが、植木会長は事も無げに言った。「大丈夫でしょう。熊本にミスター・センダンがいるから」。(【伸びる!センダン③】につづく)
((2021年11月29日~12月1日取材))
(トップ画像=林野庁長官賞を受賞したセンダンのツキ板)
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『林政ニュース』編集部
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