(前編)佐川広興・国産材製材協会会長と展望する“次の市場(マーケット)”【遠藤日雄のルポ&対論】

時代が大きく変わり始めている。コロナ禍が世界全体に広がり、社会・経済のあり方を根底から問い直すことが避けられなくなった。国産材業界も例外ではない。いわゆるウッドショックやロシア・ウクライナショックに直面する中で、国産材製品を市場に安定供給する役割が何よりも求められている。では、このニーズにどう応えていけばいいのか。その答えを求めて、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、国産材製材協会(以下「国製協」と略)の会長である佐川広興氏との「対論」に臨んだ。佐川氏は、国内屈指の林産企業・協和木材(株)(東京都江東区)の社長であり、大手製材メーカーらで構成する全国組織・国製協の会長を2011年からつとめている。長年にわたって国産材ビジネスの最前線に立ち続け、業界の実情に精通している佐川氏は、今後をどのように展望しているのか。

指標となるのはホワイトウッド集成管柱、SPF材も注視

遠藤理事長が佐川氏と直接相対して意見を交わすのは、2012年1月以来。10年前に「対論」をしたときは、東日本大震災からの復興が始まったばかりであり、福島県塙町に基幹工場を置く協和木材は、放射能汚染に関わる風評被害などとも戦いながら、品質の確かな国産ムク(無垢)製品を基軸に据えた事業を展開していた。その後、同社はスギ集成材の生産にも本格参入し、2016年には山形県新庄市に最新鋭工場を新設。さらに、2×4(ツーバイフォー)材の生産にも力を入れており、国産材製品のアイテム(品目)を広げながら供給力を高める戦略をとっている。

遠藤理事長

昨年(2021年)の3月頃から米材製品、続いて欧州材製品の輸入が減って価格が上がり、これに引っ張られるかたちで国産の原木(丸太)・製品価格も上昇した。合板も不足感が強まって価格が高騰し、ロシアの林産物禁輸でカラマツ単板の調達も不安視されている。状況が目まぐるしく変わり、業界関係者も振り回されているが、佐川会長は何に着目して現状を分析しているのか。

佐川会長

国産材業界にとって最も気になるのは、ホワイトウッド集成管柱の価格だ。また、2×4住宅に使われる北米産SPF材の価格動向も注視している。
そもそも今回のウッドショックは、北米産SPF材の価格高騰から始まった。その後、乱高下して、今は2回目のピークをちょっと過ぎたという段階になっており、どのレベルで落ち着くかが国産材製品の競争力にもかかわってくる。

佐川広興・国産材製材協会会長(協和木材社長)

2倍以上の価格上昇を踏まえ、品質・コストで競争力を磨く

遠藤

木材は国際商品であり、外材製品の価格動向は常にウォッチしておく必要がある。その中で、ホワイトウッド集成管柱を指標とするのは、住宅部材のプライスリーダーとなっているからだろう。
そのホワイトウッド集成管柱の価格は、昨年3月にm3当たり約6万円だったものが、今年(2022年)4月時点では約15万4,000円と約2.5倍に上昇している。また、国産スギ集成管柱の価格も、昨年3月の約6万円から今年4月には約11万5,000円に2倍近くアップした(トップ画像参照)。これをどうみているか。

遠藤日雄・NPO法人活木活木森ネットワーク理事長
佐川

住宅部材の価格は市況に左右されるので見通しづらいが、集成管柱の値段が10万円を割ることは、今の状況ではちょっと考えられない。かりに10万円を切ったとしても、8万円程度のレベルで落ち着くのではないか。この価格水準の中で、スギ集成管柱がホワイトウッド集成管柱と伍していけるかが課題だ。

遠藤

協和木材の新庄工場は、品質面でもコスト面でもホワイトウッド集成管柱に負けない国産スギ集成管柱を生産できることで知られている。現時点での手応えはどうか。

佐川

ホワイトウッド集成管柱に十分太刀打ちできるようになってきた。今は共存しているといえるが、さらに価格差が開けば、スギ集成管柱の方へ需要がシフトしてくるだろう。
その一方で、集成材とムク(無垢)材との間で、価格や市場競争力に差が出てきていることを懸念している。国製協の会長としても国産ムク製品の需要拡大に取り組んでいるが、なかなか状況は厳しい。

大手ハウスメーカー・プレカット工場がムク材から離れる

遠藤

以前は国産材製品のプライスリーダーはムクのKD(人工乾燥)材だった。しかし今は、集成材の後塵を拝するかたちになっている。

佐川

何とかムク材の復権、とくに中大断面のムク材が使われるようにしていきたい。原木を挽き割ってそのまま使うムク材には、他の材料にはない良さがある。板材を接着剤で固めた集成材とは別の需要を掴めるはずなのだが、実態としては集成材のシェアが高まって、ムク材の出番が減ってきている。

遠藤

柱や梁などの住宅部材としては、集成材が定着してきているわけか。

佐川

とくに、大手ハウスメーカーがムク材を使うことはほとんどなくなってきている。住宅部材を供給するプレカット工場が品質や性能の担保された材料を求めているからだ。昼夜無人の機械を動かすプレカット工場の効率的な加工体制を前提にすると、ばらつきが大きいムク材はとても使えない。ハウスメーカーも、ムク材を使ってクレームが起きることを恐れる。これが大きな問題だ。

遠藤

住宅部材の使われ方には地域差があり、例えば九州ではまだムク材が主体だ。九州内で完結する需要構造になっていることもあるだろうが、それでも集成材へのシフトが進むとみるか。

佐川

タイムラグはあっても、同じような状況が全国で起こるだろう。とくに関東近県では、今まで地場の工務店が受注していた住宅が大手ハウスメーカーの分譲住宅に変わってきている。地域で年間100~200棟規模を建てているビルダーでも仕事がとりづらいようだ。新しい耐震基準やゼロ・エネルギーなど住宅に要求される水準がどんどん高くなっていて、地場の工務店では手におえない仕事になりつつある。

関東近県では大手ハウスメーカーの分譲住宅が増え、ムク材の出番が減っている

エンジニアード・ウッドの中で競争、スチールにシフトする動きも

遠藤

三菱地所(株)や(株)竹中工務店などが出資しているMEC Industry(株)の鹿児島工場では、平屋で1,000万円程度の家を供給すると発表している。ゼネコンなどの大企業が林業・木材産業に参入し、集成材やLVL、合板など、いわゆるエンジニアード・ウッドだけで十分家が建つようなになってきた。

佐川

エンジニアード・ウッドの中でも競争があり、さらに他の材料との競争もある。集成材にしても、今の需要が今後も保証されているわけではない。とくに、LVLとスチール(鉄製品)はこれからシェアを伸ばしていく可能性がある。間柱にLVLを採用したり、根太や大引、野縁をスチールに切り替える動きが出ている。

遠藤

スチールは使い勝手がいいのか。

佐川

大引、根太に関して言うと、高さがボルトで調整できるため不陸調整がやりやすい。野縁についても、耐震強度の関係からスチールを使うハウスメーカーが増えつつある。木材製品の価格が高止まりしていると、非木質系材料に需要がシフトする恐れがある。(後編につづく)

(2022年5月26日取材)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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