「伝統×革新」で激動期を乗り越える東海木材相互市場【突撃レポート】

「伝統×革新」で激動期を乗り越える東海木材相互市場【突撃レポート】

日本を代表する木材企業として全国の関係者が一目置く(株)東海木材相互市場(愛知県名古屋市、鈴木和雄社長)*1。創業66年目に入った同社は、伝統と革新を調和させたビジネスモデルに磨きをかけ激動の時代を乗り越えようとしている。

地場産JAS材やCLTを適材適所で活かす大口市場事務所

東海木材相互市場が愛知県大口町に開設している大口市場の入口には、同社が企業ポリシーに掲げる「伝統×革新」を体現したような木造2階建ての事務所がある。2019年7月に竣工したこの事務所は、本社棟と浜問屋棟を渡り廊下でつないだ建物になっており、延床面積は約1,700m2に及ぶ。

本社棟の1階玄関部分は地場産ヒノキの丸太柱などを使った明るく開放的なホールになっており、2階会議室は8mを超えるヒノキの丸太梁を架け渡して大空間を構築。腰板にはスギの無節柾目材を配するなど、厳選された優良材を適材適所で使いこなしている。

一方、浜問屋棟は、シンプルな造りでコストパフォーマンスを追求している。1階のオフィスでは安価な小径木を組み合わせた合わせ梁を使用し、2階の食堂は平行弦トラスを採用した幅14mの無柱空間となっている。

同社は、大口市場事務所の建設にあたり、一般流通材と新しい木質材料の活用をテーマに掲げ、構造材には愛知県産ヒノキのムク(無垢)JAS材を約144m3、CLTを約71m3使用した。2階の床と屋根には厚さ36mmのCLTを現し(あらわし)で使っており、接合部には金物が露出しないアンカー工法を採用するなど、“木を魅せる(見せる)”ことに徹底的にこだわったモデル建築物となっている。

持ち込み無料、最新機械と匠の技を併せ持つ東海プレカット

大口市場事務所の部材加工を担ったのは、東海木材相互市場の子会社である(株)東海プレカット(愛知県飛島村、石井保治社長)。同社は、本社のある西部工場、大口工場(大口町)、飛騨匠工場(岐阜県高山市)の3拠点を持ち、年間の加工量は合計約5万3,000坪となっている。

同社は2つの大きな特色を持つ。1つは、モルダー加工機の無料開放や資材持ち込み料ゼロなどのサービスを行っていること。その理由を石井保治社長は、こう語る。「弊社の取引先は親会社である東海木材相互市場の顧客になる。したがって、弊社自体は資材を持たない、持ち込みによる賃挽きスタイルが合っている」。

非住宅部材にも対応できる大断面特殊加工機

もう1つの特色は、最新テクノロジーと匠の技を併せ持つ加工体制を整えていることだ。大口工場には長さ15m、幅300mm、高さ1,250mmまで処理できるドイツ製の大断面特殊加工機があり、西部工場にも昨年、国内メーカー製の大断面特殊加工機を導入した。その一方で、大工職人を雇用し、長ホゾや込み栓、台持ち継ぎ手加工などを行っており、「いかなる加工からも逃げません」をモットーにしている。

木材乾燥、サテライト土場、薪、ネット販売へと事業を拡大

東海木材相互市場の創業は、1955年。当初は役物(銘木)中心の市場取引を行っていたが、現在は事業領域が大きく広がっている。国内外の原木・製品や建材などをあまねく取り扱っているほか、プレカット加工や木材乾燥、サテライト(中間)土場の運営、薪の販売、ネット事業なども展開しており、関連会社を合わせた従業員数は約100名に達している。

その中で、本業といえる市場部門は、製品だけを取り扱う西部市場(浜問屋9社)と、原木と製品を売買する大口市場(同12社)の2拠点を中心に展開。年間の取扱量は、原木が約10万m3、国産製品が約6万5,000m3、外材製品が約2万m3となっている。

同社は、荷主から買方まで一気通貫型の市売計算システムを1970年代から運用してきた。これをベースに、原木や製品の売買では単品及びロットごとの管理を徹底。岐阜県郡上市のサテライト美並と愛知県設楽町のサテライト名倉でも、並材原木の長さ、径級、品質などをQRコードで単木管理し、取引業務を効率化している。

デジタル取引の拠点としてウェッブサイト「木楽にねっと」も運営しており、市日の案内や乾燥材、薪の注文販売などを行っているほか、買方・問屋専用の在庫検索システムを用意し、相場や在庫状況を随時確認できるようにしている。

コロナショックで売上減も経営方針は不変、人材育成に注力

東海木材相互市場のグループ全体の売上高は、例年ベースで約140億円。このうち約100億円が市場での売上げになる。ただし、昨年度はコロナショックにより、売上高が約2割減少した。

小森淳史・大口市場長によると、売上減の主要因は、「社寺仏閣用材や特殊材など(m3当たり)50万円以上の役物原木が売れなくなった」ことにある。“三密”回避のため檀家の集会などができなくなった。また、飲食店も営業ができず、カウンター用の特殊材などの注文が途絶えた。ピザ店向けの薪の売上げも落ち込んだという。

鈴木和雄・東海木材相互市場社長

ただし、コロナショックは、将来の課題を前倒しさせた側面もある。人口減で国内市場が縮小する中、従来のビジネスを続けているだけでは、いずれ行き詰る。この点で、同社が先進技術を取り入れながら事業領域を拡大してきたことは、コロナ後への布石になり得る。全国木材組合連合会の会長もつとめる鈴木和雄社長は、「デジタルを活用してコスト削減を進めると同時に、役物の目利きができるような職人を育てていきたい」と話す。次の時代に向けて伝統と革新を調和させる路線をさらに推進し、「人材の育成が最も重要になる」と見据えている。

(トップ画像=来客者を出迎える大口市場事務所の外観)

『林政ニュース』編集部

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