(後編)2024年度林野庁予算要求の重点事項 少花粉苗木を増産、既存事業も拡充目指す【緑風対談】

全国 予算・事業

(後編)2024年度林野庁予算要求の重点事項 少花粉苗木を増産、既存事業も拡充目指す【緑風対談】

林道手前の農道も一体整備、治山事業は“使い勝手”高める

前編に引き続き、林野庁の来年度(2024(令和6)年度)予算概算要求から重点事項を解説する。すでに述べたように、林野予算全体で「花粉症対策」を抜本強化する内容となっており、とくに新規・拡充事項には「花粉」の2文字が枕詞(まくらことば)のようについている。少々食傷気味ではあるが、既存施策にも目配りをしながら要点を拾っていこう。

林野予算の主力である公共事業でも、「スギ植替重点促進区域」を新設して花粉発生源対策をテコ入れするのは既報のとおりだが、従来から実施している林道整備事業にも新規要求がある。それは、林道の手前にある幅員の狭い農道等を一体的に改良できるようにすること。奥地の林道を大型トラックが通れるように整備しても、入口部分にある農道等が狭いとアクセスは改善されない。そこで、林道を開設・改良する際の補助メニューに「農道等の改良」を追加する。かねてから現場からの要望が強かった事項だ。
また、林道付帯施設整備の補助メニューも拡充し、通信“圏外”を解消する情報機器の導入を支援できるようにする。

治山事業では、災害の多様化に対応して“使い勝手”を高めるための見直しを要求事項に盛り込んだ。流木対策に特化した個別事業を廃止して機動的に実施できるようにするほか、災害復旧事業に引き続いて実施する事業の期間設定に関する要件を改善することなどを予定している。
このほか、生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)対策を強化するため、流域治水との連携拡大につながる2級水系の要件設定や木材利用を必須とする要件追加なども要求している。

植替支援の素材生産業者へ14万円、樹種転換にも24万円交付

非公共の既存施策を再編した「花粉削減・グリーン成長総合対策」では、条件不利地域で伐採・植え替えを行う森林所有者等に協力金を交付する仕組みの新設が目玉要求だ。このことは、前編でも触れたが、事業スキームはのように描かれている。このの中で、森林所有者に交付される支援金はha当たり最大57万円となっているが、これは前号で解説した45万円に、搬出や積み替えなどの横持ち経費を加えたもの。また、植え替えを働きかける素材生産業者等にも植替活動金を14万円交付するなど、なかなか手厚い内容になっている。ただし、これから財務省の査定があるので、このスキームが丸ごと認められる保証はない。

スギ人工林の伐採・植え替えを支援する協力金の事業スキーム

この協力金以外にも、現在実施中の森林・山村多面的機能発揮対策を拡充して、スギ人工林の樹種転換を後押しする支援メニューを新設することにしている。ha当たりの交付単価は最大24万円としているが、さて査定結果はどうなるか。

花粉の少ない苗木の供給力アップへ、増産施設に細胞増殖も

花粉対策を強化するためには、花粉の少ない苗木の供給量を増やしていかなければならない。そこで、森林総合研究所の林木育種センターが原種増産施設を整備するための費用として5億円を要求した。同施設ができると、特定母樹等の穂から原種苗木を効率的に生産できるようになるという。
また、新たに細胞増殖技術を用いて、スギの未熟種子から苗木を大量生産する技術開発にも取り組むことにしている。

既存事業を拡充して、採種園等の造成・改良や技術者の育成、増産苗木の広域流通支援、コンテナ苗生産施設の整備なども進める予定だ。ちなみに、林野庁は、花粉の少ない苗木のシェアを2033年度までに9割に引き上げる目標を設定している。

花粉対策では、“出口”にあたるスギ材の需要を拡大することも必須事項だ。このため、JAS構造材等を利用する建築事業者への支援や、国民に利用拡大を呼びかける経費も要求している。
さらに、花粉飛散予測の精度を高めていくため、航空レーザ計測・解析によって得られるデータを活用することも計画している。

「デジタル戦略拠点」に6か所追加、即戦力に月10万円支給

最後に、現在進行中の重点施策に関わる要求をみておこう。
第1弾として北海道、静岡県、鳥取県の3か所を指定した「デジタル林業戦略拠点」については、来年度に6か所を追加指定する方針だ。6か所のうち3か所は、花粉対策にも先駆的に取り組む拠点として位置づけるという。

伐採から再造林・保育の収支がプラスになる「新しい林業」の経営モデル構築事業では、これまでにトップランナーとなる12件の取り組みを選定してきた。最終年度となる来年度は、6件の追加選定を見込んでいる。

新規ものでは、林業の生産性向上と労働力確保に向けて、2つの要求が出ている。
1つは、木材加工業者が伐出チームなどを編成して素材生産事業に乗り出す場合に、高性能林業機械の導入費などを助成できるようにすること。今は、林業事業体しか支援していないが、対象者の幅を広げて新規参入を促す狙いがある。
もう1つは、林業大学校等に在籍している就業希望者に対して、月額10万円の給付金を支給できるようにすること。すでに年間最大150万円の給付金制度が用意されているが、よりきめ細かく支援できるようにして即戦力を確保・育成するのが目的。併せて、研修費への支援として、月額23万円を助成できるようにする予定だ。
以上、雑ぱくになったが、このへんで2024年度林野庁予算要求の解説を終える。

(2023年8月30・31日取材)

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体お主は何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

この記事は有料記事(2371文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。