首都近郊で「新しい林業」のモデルを目指す飯能市【進化する自治体】

首都近郊で「新しい林業」のモデルを目指す飯能市【進化する自治体】

都心から最も近い木材産地・西川林業地の中心をなす埼玉県飯能市(大久保勝市長)。江戸の大火に始まり、関東大震災や敗戦後など、首都が有事に見舞われた際に良質材を供給し、復旧・復興に重要な役割を果たしてきた。そして今、人口減少やコロナ禍などの難事が立ちはだかる中で、同市の森林を活用して未来を切り拓こうとする新たな挑戦が始まっている。

大林組と循環型森林利用の協定、中核にスマート林業協議会

飯能市は6月1日に、大手ゼネコンの(株)大林組(東京都港区、蓮輪賢治社長)との間で「循環型森林利用に関する基本協定」を締結した。両者が連携・協力して、循環型森林利用を実現する「飯能モデル」の構築を目指すことで合意し、循環型森林利用や木材需要拡大、木材コンビナートなどを連携・協力事項とした。

協定書を手にする大久保・飯能市長(左)と蓮輪・大林組社長

大林組は、持続可能な社会や地方創生による国土の均衡発展の実現に向けて、循環型森林利用モデルの確立に挑戦している。その実践の場として飯能市が選ばれたかたちだ。

大林組が飯能市との関わりを深めるきっかけとなったのは、2016年に市が行った「西川材バイオマス利用調査」について照会したこと。以後、都市近郊の林業地が抱える課題の解決に向けて、地元関係者を巻き込んだ意見交換などが重ねられ、昨年(2020年)5月29日に「西川地域スマート林業協議会」が発足した。同協議会の立ち上げには西川林業地を構成する日高市、毛呂山町、越生町も賛同し、産官学の27団体が結集。林野庁の補助事業にも採択され(事業期間は2020~2022年度)、ICTを活用した新しい林業の確立を目指し、継続的な技能者育成体制構築へ取り組んでいる。事務局をつとめる大林組の担当者は、「循環型森林利用を実現する山元の収益確保には、従来の流通強化に加え、6次産業化やカスケード利用、森林の多面的活用など森林資源の価値の最大化が必要だ。地域と連携して首都圏に近い西川地域らしいビジネスモデルを考えていきたい」と話している。

60年間の最適化プロジェクトで針葉樹林を針広混交林に転換

飯能市の面積は1万9,305ha。その約75%にあたる1万4,659haが森林に覆われており、人工林が82%(1万1,921ha)を占める。人工林の樹種構成は、スギが67%、ヒノキが30%、その他が3%。木材価格の低迷などで、奥地の森林を中心に整備が行き届かなくなってきている。そこで2018年3月に策定した「第6次飯能市森林整備計画」の中で、「森林機能の最適化プロジェクト」に重点的に取り組む方針を打ち出した。

同プロジェクトでは、市内の森林を「公益的機能発揮森林」と「木材生産機能発揮森林」に大別し、60年後の2080年に目標とする森林の姿を示して適切な取り扱いを進めることにしている。

「森林機能の最適化プロジェクト」の全体イメージ

具体的には、人工林の約50%にあたる6,000haの針葉樹林(育成単層林)を、年間300haを目標として、間伐を複数回実施していき、針広混交林(育成複層林)に転換していく。対象となるのは、林道から300m以上離れているか、傾斜が40度以上などの木材生産に適さない人工林。同プロジェクトの検討段階で、人工林の所有者に対して意向調査を行い、下準備は完了している。事業実施の財源には、国、県の補助制度を用いるほか、森林環境譲与税を充当する。同プロジェクトが完了する60年後には、針広混交林の割合が約4割となり、木材生産を含めた森林の各種機能がバランスよく発揮されるようになる見込みだ。

根底に「森林文化都市」宣言、伝統+最新の木造商工会議所

飯能市が進めている森林・林業施策の根底には、2005年に宣言した「森林文化都市」のコンセプトがある。同宣言では、歴史の中で築かれた人と森林の絆を深め、市内外の人々が森林の恵みを享受できるようなまちづくりを目指すとしている。

この宣言を体現するような新しい木造施設が昨年3月に竣工した。西川地域産のムク(無垢)材とCLTで建てられた飯能商工会議所だ。同会議所は、木造2階建ての東棟と平屋建ての西棟の2棟からなり、延床面積は755.10m2。(有)野沢正光建築工房が設計し、細田建設(株)が施工した。

構造材が「見える化」されている

構造材及び内装材などすべての部材で地場産のスギとヒノキを用いており、使用量は97.5m3。このうち48.37m3はSGEC認証材となっている。

同会議所の最大のウリは、デザイン性の高い“見える構造材”だ。西棟の梁には10mのムク角材と3層のCLTパネルを組み合わせた「CLT平行弦トラス」を使用。東棟には高さ10mに及ぶ組子格子耐力壁を用いている。優良材産地の伝統と最新の木質材料をミックスさせた同会議所を前に、大久保市長は、「西川らしい施設ができた」と話しており、森林・林業再生のシンボル施設として活用していくことにしている。

(トップ画像=飯能商工会議所の外観)

『林政ニュース』編集部

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