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トライアルで40フィートコンテナ20個分! オーダーに応えてお墨付きを得る
向井工業は、1957(昭和32)年に創業し、製材部門を独立させるかたちで1990(平成2)年にムカイランバーを立ち上げた。向井社長のもとに「いくらでもつくってくれ」という話が舞い込んだのは、1年半前のこと。「トライアルで40フィートコンテナ10~20個分くらい送ってくれないか」というオーダーだった。
「その量の半端なさに驚きました」と向井社長は振り返る。板ならば1コンテナに1万2,000枚は入るから、20コンテナでは24万枚にもなる。「いったい何に使うんですか」と注文主に聞くと、「フェンス材だ」。それも米国向けだという。「値段も合うので、とりあえず製材できる量を決めて送り出したら、これならいけるとお墨付きをもらえた」──こうしてスギフェンス材の輸出が始まった。
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まず身の丈に合ったコロラド州から、全米には膨大な需要がある
米国では、ウエスタンレッドシダーの需給がタイトになり、日本のスギ丸太を一旦中国に輸出し、フェンス材に加工した後、米国へ持ち込むルートができている。これに対して、向井工業の場合は、ムカイランバーで製材したフェンス材を直接米国へ送り出しているのが特徴だ。
輸出したスギフェンス材は、コロラド州内のホームセンターで販売されている。同州は米国西部の内陸部にあり、平均標高が全米で一番高い山岳地帯に位置する。なぜそんな辺鄙な地を輸出先に選ぶのか。素人考えでは、西海岸にあって人口も多いカリフォルニア州のロサンゼルスあたりが好適に映るが、現実は違う。
ロサンゼルスくらいの大都市になるとフェンス材等の需要量が膨大であり、とても注文に応じきれない。身の丈に合った輸出先を探すと、コロラド州くらいの需要量がちょうどいい。逆に言えば、米国にはまだ巨大なスギフェンス材需要が存在している。しかも、フェンス材は5~6年で取り替えるので、需要が途切れることはない。最近は、ウエスタンレッドシダーのクリア材を、スギの上級材に切り替える検討も始まっているという。
寸法の違いを5m採材で解決、「目アラ・木口割れ・芯黒」でもOK
向井工業は、発足当初はスギ・ヒノキの製材でスタートし、ベイマツ→ロシアアカマツと原料転換した後、2010(平成22)年頃から国産材に回帰している。現在は、ムカイランバーを中心に、月間3,500~4,000m3、年間では4万~5万m3の原木を消費。樹種は大半がスギで、主な生産品目は、柱、土台、野縁などすべて4m材。ここに、フェンス材の生産が加わったのだが、向井社長が最も頭を悩ませたのは、寸法の違いだった。
米国はインチ・フィートの世界であり、フェンス用板材のサイズは、15㎜×140㎜×1.83mと19㎜×190㎜×1.83mの2種類。長さ1.83mは6フィートで、なんとか4m丸太の2分割で対応できた。
だが、フェンスの柱間をヨコに渡す(打ち付ける)レールの長さは2.44mで、2×4材と同じ。これを3mや4mの丸太から製材していたのでは、歩留まりが悪い。
そこで向井社長は、四国森林管理局愛媛森林管理署に「なんとか5mで採材してもらえないか」と掛け合った。5m材を2分割すれば2.5m、これなら歩留まりがよく、採算が合う。愛媛署は「コストさえ合えば問題なし」と提案に応じ、すぐ生産を開始。その後、「5mに採材すれば買ってくれる」との話が素材生産業者の間で広がり、安定的に調達できるようになった。しかも、向井工業とムカイランバーは、通常の原木市場・製材工場では欠点や値引きの対象となる「目アラ、木口割れ、芯黒」の5m材もウェルカムで買い取っている。「芯黒はレッドシダーの色に近いから、向こうでは好評なんですよ」(向井社長)というのが理由だ。
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ラフ仕上げにも柔軟に対応、「10倍輸出して欲しい」の要望を受け月間1万m3体制も
米国向けフェンス材には、寸法以外にも、日本の価値感とは異なる注文がつく。それは、ラフ仕上げでなければいけないことだ。現地での塗装をやりやすくするため、「ラフソーン」という表面仕上げが求められる。現在主流のギャングソーでは、挽き肌がきれいすぎるという皮肉な現象が起きる。ただ、向井社長は、そのラフ仕上げについて、「そんなに難しくないですよ、帯ノコで挽けば対応できますから」と、淡々とこなしている。
フェンス材の輸出にあたっては、乾燥も欠かせない。今は、挽いた後に1週間のAD(天然乾燥)処理を施し、含水率を30%程度にしてから、KD(人工乾燥)を1日行って20%程度にまで引き下げている。乾燥工程には、熱処理による殺虫の効果もある。
このようにしてフェンス材輸出を軌道に乗せてきた向井社長のもとには、「10倍輸出してもらっても大丈夫」との話が来ている。これに対応するには、製材能力の増強が欠かせない。ベイマツ用製材ラインは長尺用に設定されているので、この部分を短尺用に手直しすれば、月間1,000~1,500m3の増産は可能だ。また、原木については、「30㎝上材が欲しい」。現在は24㎝上材をメインに挽いているが、大径木の出材が増えていけば、「それも挽けるように設備を手直ししたい」と向井社長は話す。そうなれば、月間1万m3体制も視野に入ってくることになる。
(2018年4月2日取材)
(トップ画像=米国に輸出されるスギフェンス材)
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『林政ニュース』編集部
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