国際市場にスギで参入するベトナムのMIKI社【遠藤日雄のルポ&対論】

国際市場にスギで参入するベトナムのMIKI社【遠藤日雄のルポ&対論】

世界の人口は2080年代に約104億人(現在の約1.3倍)のピークを迎えると予測されている。これに伴い世界全体で木材需要量が増加することは必至である。一方、日本では少子高齢化の進展に伴って住宅を中心とした木材需要、つまり内需が減少していくことが確実視されている。ただし、日本には1,000万ha余に達する充実したスギやヒノキなどの人工林が賦存している。これを循環利用して持続可能な森林経営を行っていくためには、新たな木材需要を獲得しなければならない。その選択肢の1つとして、国産材の海外輸出(外需)が成長領域として期待されている。当面の輸出先としては環太平洋諸国が有望視されており、スギ丸太などの最大輸出先は中国となっている。だが、約14億人の人口を抱える大国・中国であっても、やがては衰退していく。盛者必衰は、古今東西に共通する理であり、中国以外の輸出先国を開拓していかなければならない。
こう考えた遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、中国の隣国・ベトナムへと飛んだ。遠藤理事長がベトナムを訪ねるのは、これで3回目。過去2回は旧北ベトナムのハノイを中心に現地の状況を調べたが、今回は旧南ベトナムのサイゴン(現ホーチミン市)周辺を回った。前者は社会主義の色彩が濃い地域だが、後者はかつて資本主義の国だっただけに“商売”の雰囲気が色濃く漂っている。国産材輸出の可能性調査にはもってこいのエリアだ。
遠藤理事長は、ホーチミン市近郊のドンナイ省にあるMiki Forest Products Company(以下「MIKI社」と略)のMichael Yan社長を訪ねた。

カンボジアに続きベトナムにも工場を新設し米国市場を開拓

MIKI社は、2019年に設立された。本社は米国のカリフォルニア州にある。同社の木材ビジネスの中心は、ニュージーランド(以下「NZ」と略)のラジアータパインを使ったフリーボード、モールディング材、デッキ材と、日本のスギを用いたフリーボードやピケットフェンスなどの取引仲介と小売り(主として米国テキサス州ダラス周辺が対象)である。

Michael Yan社長は中国国籍で、現在は米国在住。同社の東南アジア進出の足がかりとして、ベトナムの隣国・カンボジアに製材加工施設を建設した実績を持つ。

MIKI社のMichael Yan社長
遠藤理事長

なぜカンボジアに製材加工施設をつくったのか。

Michael Yan社長

ホーチミン港まで90㎞という“地の利”があるからだ。カンボジアで米国向けの製品をつくり、ホーチミン港から米国へ輸出している。

遠藤

どのような品目をつくっているのか。

Michael

南米のチリとNZのラジアータパインでフリーボードを製造しているほか、内装用として日本産のスギで同じくフリーボードをつくっている。ラジアータパイン製品は月40コンテナ、スギ製品は20コンテナを米国へ輸出している。

遠藤

ホーチミン市はベトナム南部に位置しNZにも近い。確かに、地の利がある。スギは、直接日本から輸入しているのか。

Michael

阪和興業(株)や住友林業(株)を介して日本から輸入している。中国木材(株)(本社・広島県呉市)からも製材品を購入している。

遠藤

MIKI社はベトナムにも製材工場を建設中という話を聞いた。

Michael

そのとおり。ここがそうだ。港の一角をレンタルし、その横に製材工場を建設する計画を進めている。工場名はTiger Wood Co. LTDを登録中で、来年(2025年)2月(ベトナムの旧正月休み明け)には商業運転できる予定だ。

ホーチミン市近郊の製材工場建設予定地
遠藤

どんな樹種を挽くのか。

Michael

ラジアータパインとスギが半々だ。併せて月間6,000m3を消費する。年間では7万2,000m3の大型工場になる。ラジアータパインはそのままカンボジアの工場へ送り、製材品に加工する。日本のスギはフェンス材にして米国へ輸出する。端材はカンボジアの工場でスギ集成材に加工するつもりだ。

スギフェンス材の生産拠点は中国からベトナムヘシフトする

遠藤

Michael社長は長い間、米国テキサス州ダラスでビジネスをしていたと聞いている。私は、2019年に日本のスギフェンス材の輸出可能性調査のためにダラスを訪れた。米国産ウエスタンレッドシダーの代替材として、日本のスギに期待が寄せられていた。ただ残念なことに、日本のスギは一旦中国に輸出され、そこでフェンス材に加工されてから米国に持ち込まれていた。米国で使われているスギフェンス材の大部分はMade in China(中国製)だ。このMade in Chinaのスギフェンス材に対して、ベトナム産のスギフェンス材は米国で競争力を発揮できるだろうか。

Michael

十分できるだろう。

遠藤

その根拠は何か。

Michael

国際競争力とは、端的に言って最低賃金の争いだ。現在、中国上海周辺の製材工場の従業員の月給は日本円で10~15万円、これに対してベトナムはまだ5~10万円だ。フェンス材の単価は安い。次期米国大統領のトランプ氏が高い関税をかけてくることも考えられる。それだけにいかに安価でスギフェンス材を米国へ輸出できるかがカギだ。
これからスギフェンス材の生産拠点は、中国からベトナムヘシフトしてくるだろう。弊社にとっては、またとないチャンスが来ていると考えている。

スギ・ヒノキを製材と家具で活用し、世界の需要を獲得する

遠藤

ベトナムの木材業界は、海外志向が強いのか。

Michael

もちろん、ベトナムの内需にも応えていかなければならない。ただし、中国の人口は約14億人であるのに対し、ベトナムの人口は1億人弱だ。企業の成長を考えると、海外に目を向けざるをえない。

遠藤

日本からはスギなどの丸太が年間に約160万m3、海外に輸出されている。その7割強は九州から出荷されている。九州は、中国にも近いしベトナムにも近い。これからベトナムへの国産材輸出を増やしていく上で、課題は何か。

Michael

ありきたりの言葉で恐縮だが、ぜひ安定的な供給(輸出)をお願いしたい。弊社は、中国でも2つの製材工場を動かしている。1つは下請け工場でスギのピケットフェンスをつくっており、もう1つは100%出資の工場でスギのフリーボードを製材している。

遠藤

中国でも2つの工場を運営しているとは驚いた。すでに国境を超えたネットワークができているということか。

Michael

日本の木を活かせるのは、製材品だけではない。弊社では製造していないが、ベトナムは家具製造が得意で、日本からスギやヒノキを輸入している。日本とベトナムの協力がもっと進めば、国際市場で大きなシェアをとれるだろう。

遠藤

国産材の海外輸出にあたっては、認証取得などクリアしなければならない問題がいくつかあるが、ベトナムが中国に次いで有力な輸出先であることを再認識した。

ベトナムの家具工場の看板には「HINOKI(ヒノキ)」「SUGI(スギ)」の文字が見える

(2024年11月27日取材)

(トップ画像=家具用材を製材しているホーチミン市近郊の工場、人件費は安い)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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