目次
一般消費者向けの小売り路線を推進、誰でも気軽に入れる店に
勝又木材の店舗は、吉祥寺駅から歩いて5~6分の五日市街道沿いにある。通りに面した倉庫の中には、一枚板から端材まで様々な木が並んでいる。一角には木工機械が設置されており、顧客の注文に応じてその場で加工できるようにもなっている。

すごい品数だ。樹種はどのくらいあるのか。
正確に数えたことはないが、数十種類くらいだろう。枚数にするとすごく多くなる。
どうやってこれだけの木材を集めたのか。
一枚板などの小売りを始めたのは、10年ほど前からだ。私自身、いろいろな木に興味があり、少しずつ買っているうちに在庫が増えていった。併せて、木工のできる社員を採用して、今のような形態になった。
吉祥寺という“都会”でムクの一枚板を求めるのはどういう人なのか。客層を教えて欲しい。
一般消費者が一番多い。年齢層の偏りはなく、様々な方が来店する。近所の方から「冷蔵庫の脇に隙間があるからラックをつくって」というような注文を受けることもある。20代、30代の若い人も木には興味があるようで、結構やって来る。

一般消費者相手の小売りでは、大きな金額にはならないのではないか。
確かに、高いものは出ない。何百円、何千円という商売になる。これに対して、店舗関係になると何十万円もするカウンターが売れていく。ただ、弊社のポリシーとして、できるだけ敷居を低くするようにしている。通り沿いには「100円コーナー」を設けて、誰でも気軽に入ってもらえるようにしている。
自然らしさやオリジナリティが魅力に、仕入れは木材市場
ここに来る人は、ムク板のどこに魅力を感じているのか。
木の天然さを好む人が多い。我々材木屋は、節のない面を活かして仕上げようとするが、逆に節のある面を残したいと言われることも少なくない。自然らしさがあって、ちょっと変わった一品ものが求められる傾向がある。
人気のある樹種は何か。
一番ポピュラーなのはスギで、いろいろなサイズが出る。私の好みでもあるが、屋久杉など高樹齢のスギは人気があるので、できるだけ揃えるようにしている。スギ以外でも、弊社にない樹種は極力買うようにしているので、どうしても在庫が多くなってしまう(笑)。
一枚板などの仕入れ先はどこなのか。
近場の市場で買っているものが大半だ。東京新宿木材市場(株)府中センター(東京都府中市)や、東京中央木材市場(株)(千葉県浦安市)、丸宇木材市売(株)北浜市場(埼玉県さいたま市)などをよく利用している。岐阜県銘木協同組合(岐阜県岐阜市)の記念市に行くこともあるが、旅費も時間もかかるし、運ぶ手間も大変なので、毎回は参加していない。プロ向けの調達ルートとは別に、周辺の住宅地などで伐られた庭木を分けてもらったりすることもある。

マーケットの変化に応じて自然素材を活かした商売に転換
勝又社長の名刺には「明治創業」とある。これまでの沿革を教えて欲しい。
明治の頃に私の曽祖父が静岡で製材所を創業したのが起源だ。曽祖父には5人の男の子がいて、製材品を東京で売ろうということで、それぞれ店を出させた。5男が私の祖父にあたり、昭和の初頭に西荻窪(東京都杉並区)で開業して、吉祥寺に移ってきた。
その後、私の父が建売住宅の建築・販売を始め、現在は兄が社長をつとめる(株)カツマタが注文住宅をつくっている。
材木業者が住宅分野に進出したわけか。そこに1枚板のビジネスが加わったのはどういう経緯だったのか。
ご存じのように町場の建売住宅は2000年頃をピークに売れ行きが下がっていき、住宅部材の流通もプレカットの台頭などで様変わりしていった。その中で注文住宅へシフトしていったカツマタは、ムクの木と自然素材を使った家づくりをメインにするようになった。
一方、私が経営している勝又木材は、土台1本、間柱1本から売るという材木屋商売を続けているだけでは、なかなか先行きが開けない。悩んでいたときに、一枚板に興味を持ち、扱いを広げるようになった。もっとも、当初から一枚板の展示・販売が商売になると考えていたわけではない。10年間やってきて、ようやく柱の1つに育ってきqというのが実状だ。
待ち”のビジネスではなく、消費者へ積極的に働きかける
勝又木材のビジネスの柱は2つあり、1つは町場の材木屋、もう1つはムクの一枚板ということか。今後の展開方向については、どう考えているのか。
一枚板などのインターネット販売を第3の柱に育てていきたい。今もネット販売はやっているが、やはり実物を見て、触ってもらわないと売りづらいのが現状だ。とくに、ムク材は1本1本ごとに質感や香りなどが異なるので、写真だけでは違いが伝わりにくいところがある。
ただ、インターネットを介して全国の消費者と直接つながれることの意味は大きい。これからネットで売れる商品の開発などに取り組んでいきたい。
具体的な売れ筋商品の候補はあるのか。
ここ吉祥寺には一枚板を販売している店が多く、テーブルの天板などは、問い合わせはあっても正式注文につながらないケースもある。競合品の少ないカウンター用をメインにしていこうかと考えている。
この倉庫に展示されている板や端材はすべて定価表示になっており、わかりやすい。目玉が飛び出るような価格でもない。これなら一般消費者も安心して買い物ができるだろう。こういう“場”が、国産材業界には少なかった。
この春にテーブル用天板の在庫処分セールをやったら、思いの外、売れ行きがよかった。木はいいものだと並べて待っているだけでなく、もっと積極的に消費者に働きかけをしていく必要があると強く感じた。インターネットなども活用しながら、一般消費者への訴求力を高めていきたい。
(2018年4月9日取材)
(トップ画像=通りに面して設置されている「100円コーナー」)

遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。