20万m3体制に向け地方創生“第2章”に入る日南町【突撃レポート】

20万m3体制に向け地方創生“第2章”に入る日南町【突撃レポート】

鳥取県の日南町で7年前にスタートした林業振興の取り組みが成果を見せ始めている。高齢化と過疎化がいち早く進行し、「30年後の日本の姿」とも形容されてきた同町は、“地方消滅”の危機から脱するべく、町面積の9割を占める森林のフル活用に取り組んできた。その実績をベースに、“地方創生”の第2ステージへ歩み出そうとしている。(文中敬称略)

原木取扱量が10万m3突破、林業労働者も100人体制に

日南町の基幹産業である林業の“元気度”を示すバロメーターは、平成19年4月にオープンした「日野川の森林 木材団地」における原木の取扱量だ。約1億4,000万円を投じて整備した同団地は、153m2の敷地内に(株)米子木材市場生山支店と山陰丸和林業(株)生山事業所、そしてLVLメーカーの(株)オロチが“同居”する一大木材基地となっている。開設当初の年間原木取扱量は約4万6,000m3だったが、オロチが稼働を始めた平成20年に6万m3台に乗せ、昨年、遂に10万m3を突破した。

これに伴い、山で働く人も増えている。町内の林業労働者数は、平成17年の70人から現在は100人体制になっており、平均年齢も若返った。平成19年に発足した「日南町木材生産事業協同組合」(24の林業事業者で組織、第313号参照)が、平成22年度から今年度までに42台の高性能林業機械を導入するなど、作業環境の改善も進んでいる。

森英樹・オロチ社長(第2工場の前で)

平成17年に林野庁から日南町森林組合に転職し、翌18年からオロチの社長をつとめている森英樹(58歳、第278・288号参照)は、「現場まで変えるのは時間がかかるが、想定より早い7年目で取扱量10万m3の目標を達成することができた」と手応えを話す。

2期連続で黒字のオロチ、“地元を活かす”第2工場が完成

森が率いるオロチの業績も安定してきた。スギ・ヒノキLVLの量産工場という新しい分野にチャレンジしたため、加工ラインの見直しや販路の開拓などで何度も壁に直面し、「本当に貴重な経験をさせてもらった」(森)というが、現在は53人の従業員を擁し、24時間体制で工場を動かし続けている。販路も、商社ルートに加えて、大手ハウスメーカーや地域の中堅ビルダーなどへと拡大し、2期連続で黒字決算を達成するまでになった。

ヒノキLVLとHSトラス工法で建てられたオロチ第2工場

昨年末には、鳥取県緑の産業再生プロジェクト事業に採択された第2工場が完成し、もう一段の増産体制を整えた。同工場は、自社生産のLVL(樹種はヒノキ)を躯体とし、(株)グランドワークス(富山県滑川市)が開発したHSトラス工法によって建てられた木造平屋建ての建築物。延床面積は556.5m2で、幅21m×奥行26.5m×高さ7mの無柱空間を確保しており、山形トラスによって積雪2mの荷重にも耐えられるようになっている。

第2工場の建設で、とくに森がこだわったのが、地元の材を使い、地元のプレカット工場で加工し、地元の工務店で建てること。各地で大規模木造建築物がつくられているが、設計・施工はすべてゼネコンが仕切り、地元の業者は下請けにとどまるケースが少なくない。

そこで、第2工場では、使用するLVLを定尺の一般流通材とし、大型加工施設がなくてもプレカットできるようにした。また、柱や山形トラスは、大型トラックを使わずに搬送できるサイズにおさめた。森は、この“身の丈にあったシステム”をオープンにして、他の地域にも採用を呼びかけていくことにしている。

新設されたオロチの第2工場には、4m用のプレス機が設置されており、4月から本格稼働する予定だ。すでに第1工場に3mタイプのプレス機2台と連続プレス1台(最大9m)があるが、このところ4m材や3.65m材の注文が増えてきていることを受けて新調した。

オロチのLVL生産量は製品ベースで月間1,500m3となっているが、第2工場が動き出すと1,800~2,000m3に増加する見通し。森は、「造作材6割、構造材4割という生産比率を逆転させて地元材の使用量を増やしていきたい」と意欲をみせる。

4m対応のプレス機

慢性的な人手不足が悩み、皆伐・再造林へのシフト進める

オロチに象徴されるように、日南町の取り組みは、離陸期を終えて発展期に入った。だが、次なる課題も浮上している。とくに悩ましいのは、人手不足だ。オロチに限らず、町内の全職種を通じて、「ずっと求人しているのだが、集まらない」(森)状況が続いている。

オロチでは、昨年度初めて、ベトナムからの研修生を3名受け入れた。だが、今の制度では1年間しか日本にいることができず、4月以降は人が入れ替わる。「せっかく来日したのだから、もっとじっくり技術を身につけてほしいのだが」と森は思案顔をみせる。

山の増産体制を強化することも重要課題だ。日南町のシンクタンクであるNPO法人フォレストアカデミージャパンは昨年、「10年後(平成35年)の丸太生産を年間20万m3に倍増すべき」という提言をまとめた。町内の森林資源に照らせばこのくらいの供給ポテンシャルはあるし、今、伐採を進めなければ森林の若返りが図れないという危機感が背景にある。森は、「現状でも15万m3くらいまではいける」とみるが、「その先は、小規模分散の事業地をまとめ、皆伐・再造林へのシフトを加速する必要がある」と言う。地方創生“第2章”の扉を開いた日南町は、日本林業全体に通じるテーマに挑み始めている。

(2015年3月25日取材)

(トップ画像=日南町は中国山地の中央部に位置する)

『林政ニュース』編集部

1994年の創刊から早30年! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしていきます。

この記事は有料記事(2284文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。