要点解説・2024年度林野関係補正予算 実質的に約100億円増で各種施策推進【緑風対談】

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要点解説・2024年度林野関係補正予算 実質的に約100億円増で各種施策推進【緑風対談】

林政推進の原動力となる今年度(2024年度)補正予算(案)が11月29日に閣議決定されました。その要点を「緑」と「風」がわかりやすく解説します。

林野一般公共72億円増、2,600億円目標を7年連続達成へ

今年度(2024年度)補正予算(案)が11月29日に閣議決定された。
10月27日の衆院選で大敗した石破政権が起死回生に向けてどのような補正予算を組むかが注目されたが、蓋を開けてみると前年度(2023年度)の補正予算と大きな違いはなく、物価高対策などが柱になっている。成熟社会の日本では、国のお金(予算)の使い道はあらかた決まっている。既得権益をぶっ壊すことは現実的に難しく、従来からの支出に縛られざるを得ないのだろう。

そうした中で、林野関係の補正予算には1,416億円がついた。前年度の補正追加額(約1,401億円)を約15億円上回っており、大幅ではないが1歩前進といったところだ。なお、前年度補正には国有林野事業の債務返済費(約89億円)が含まれていた。今年度補正にこれはないので、実質的には約100億円の増となる

林野予算の太宗を占める公共事業には約1,180億円が追加された。ここから山林施設災害復旧等事業を除いた一般公共事業(森林整備・治山事業)の予算額は約817億円で前年度補正(約745億円)より72億円増えた。
ただし、この約817億円のうち約305億円はTPP対策の一環として「林業・木材産業国際競争力強化総合対策」の経費に回されるので、一般公共の実質的な補正追加額は約512億円となり、全額が「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」として措置された。少々ややこしいが、例年と同じやりくりである。

いずれにしても、林野一般公共事業については、今年度補正で所要額が確保されたことにより、来年度(2025年度)当初予算と合わせて目標額の2,600億円を7年連続で上回ることは確実となった。こうなると、関係者の関心事は、今年度末で期限切れとなる「5か年加速化対策」の後継対策となる。予算確保のエンジン役である自民党の森林整備・治山事業促進議員連盟(山口俊一会長)は、11月19日に参議院議員会館で「緊急決起大会」を開き、ポスト「5か年加速化対策」を講じて、「森林整備・治山対策を切れ目なく計画的かつ着実に推進すること」が必要と決議した。これまでも同様の要望活動を行ってきているが、いよいよ具体的な“果実”を採りにいくときを迎えた。

木造公共建築物の建設を補正でも支援、花粉総合対策を継続

今年度林野補正の非公共事業には約236億円が計上され、前年度より約2億円増えた。微増ではあるが、これも1歩前進といえよう。
非公共事業の柱である「林業・木材産業国際競争力強化総合対策」には、前年度補正と同水準の約154億円が措置された。これに前述した公共事業から回ってくる約305億円が加わり、総額では約459億円になる。

同対策は、路網整備、高性能林業機械の導入から林業のデジタル化、担い手の確保・育成、木材加工施設等の整備、木材需要の創出と輸出促進、非住宅建築物の木造化などを幅広く支援できるメニューを揃えている。そこに今年度補正では、木造公共建築物への助成も追加した。これまでは当初予算で支援してきたが、TPP対策の一環として補正のメニューに加えたのは初めて。新設住宅の着工減を受けて非住宅分野での需要拡大が求められており、林野庁は8月1日付けで異例の長官通知を発出し、中央団体に取り組みの強化を求めた。その流れに沿って、今年度補正予算でも木造公共建築物の建設を後押しするもので、補助率は15%だが、モデル的な物件は2分の1に引き上げることにしている。

非公共事業のもう1つの柱である「花粉の少ない森林への転換促進緊急総合対策」には、約56億円が追加された。前年度補正では岸田首相(当時)が突然打ち出した花粉症対策強化の方針を受けて、急遽約60億円を措置した経緯がある。ひとまず、この路線は石破政権になっても継続されたわけで、事業メニューも、スギ人工林の伐採・植替え等の加速化やスギ材の需要拡大、花粉の少ない苗木の生産拡大など、これまでどおりとなっている。

松くい虫被害やナラ枯れの拡大に緊急対応、能登半島支援も

さて、今年度林野補正で「純粋な新規」(林野庁幹部)とされているのが「森林病害虫等被害拡大防止緊急対策」(予算額は6億6,300万円)だ。森林病害虫対策は、これまで当初予算で講じてきたが、東北地方を中心に松くい虫被害が再び増えていることや、ナラ枯れ被害が北海道にまで広がってきていることを踏まえて、前倒しで補正予算に必要経費を計上した。担当の研究指導課森林保護対策室は、「今、被害を食い止めないと拡大する恐れがある。機動的に対応したい」と警戒感を強めている。
関連して、「シカによる森林被害緊急対策」(同1億6,000万円)も今年度補正に措置している。

1月の地震と9月の大雨で大きな被害を受けた能登半島地域を支援するため、「被災木材加工流通施設緊急復旧対策」(同1億円)も今年度補正予算に盛り込んだ。
また、「燃油・資材の森林由来資源への転換等対策」(同17億円)も前年度補正と同様に措置し、物価高等への対応を図ることにしている。
以上が今年度林野補正予算のおおざっぱな要点となる。8月末の概算要求時に触れたように、今回の予算編成は、農政重視のトレンドの中で行われている。補正では林野予算を確保できたが、来年度当初を合わせた予算全体で割を食うことにならないか。今後の帰趨を注視していこう。

(2024年11月29日取材)

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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