2023年度林野関係補正予算を読み解く 首相肝入りの「花粉」は支えになったのか【緑風対談】

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2023年度林野関係補正予算を読み解く 首相肝入りの「花粉」は支えになったのか【緑風対談】

2023年度補正予算が決まった…補正とはいいながら本予算(当初予算)に匹敵する意味合いを持ち、とくに金目(金額)を増やすには補正でゲットするしかない。では、今回の林野関係補正予算の首尾はどうだったのか。嚙み砕いて解説しよう。

表向きは239億円増だが、実質は150億円増にとどまる

林野予算確保への第一関門である今年度(2023度)補正予算(案)が11月10日に閣議決定された*1。早速、ポイントを読み解いていこう。
今回の補正予算は物価高対策などを講じるために編成され、政府全体では13兆円強という規模になっている。問題は林野関係の予算額だ。岸田首相が林業現場まで足を運んでスギ花粉削減の緊急性をアピールし、関係閣僚会議は早々と「初期集中対応パッケージ」をまとめた*2。これだけ力が入っているのだから、財源となる林野補正予算は大幅増が期待できるとみる向きもあったのだが、さて結果はどうだったのか。

林野関係の補正追加額は約1,401億円で、比較対象となる前年度(2022年度)補正予算の約1,162億円を約239億円上回った。やはり、「花粉」の御旗が予算増につながったようだ。

そうなのだが、約1,401億円という補正追加額を鵜呑みにしてはいけない。というのは、2023年度林野関係補正予算の総括表*3では合計額が約1,312億円となっているからだ。この差額は、どこからきているのか。答えは、総括表の枠外に記された「注3」にある。そこには、「上掲の他、国有林野債務返済(決算調整分)8,895百万円を計上」とある。つまり、通常ベースの補正予算(約1,312億円)に国有林の借金返済額(約89億円)を加えると、公式発表の約1,401億円になるわけ。逆に言うと、今年度林野補正の実質額は約1,312億円であり、前年度補正予算比では約150億円増にとどまる。増額なのは間違いないが、大幅とはいえない。

担当官によると、国有林の借金返済額を補正予算に前倒しで計上したのは初めてのこと。マニアックな話になるので深入りは避けるが、国有林は毎年度借金を返さなければならないという“重荷”を背負っている。返済金の原資となるのは、立木・素材販売などの林産物収入だ。今回は、2022年度の林産物収入が想定(予算)を上回ったため、借金の元本を少しでも減らすべく返済額を補正予算に前倒しで盛り込んだという。国有林が借金を多く返すと、林野予算全体が膨らんで見えてしまうという何とも特異な構図になっているのだ。

一般公共は50億円増、「5か年加速化対策」の“次”が必要

それでは、今年度補正予算の中身をみていこう。林野予算の大半を占める公共事業の計上額は、前年度より約142億円増の約1,077億円。ここから災害復旧等事業を省いた一般公共事業(森林整備・治山事業)の予算額は約745億円で前年度補正(約695億円)より50億円増えた。ただ、この約745億円を、まるまる一般公共で使えるわけではない。

そのとおり。森林整備事業に計上された約477億円のうち約305億円は、例年と同じくTPP対策の一環として後述する「林業・木材産業国際競争力強化総合対策」に充てられる。したがって、一般公共の実質的な補正追加額は約440億円になる。この約440億円は、「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」として措置された。これまた例年と同じパターンだ。

参考までに、「5か年加速化対策」の前年度の措置額は約420億円だった。したがって、今年度は約20億円増えたわけ。だが、一昨年度(2021年度)は約492億円が措置されていたので、伸び悩んでいるともいえる。
「5か年加速化対策」の予算は前倒しで執行してきており、ハッキリ言って息切れ気味だ。そろそろポスト「5か年加速化対策」の検討を本格化して、次なる財源を安定的に確保する道筋を描き出す必要があるだろう。

花粉削減対策を前倒し、ツケが当初予算に回らないように…

今年度林野補正の非公共事業には約234億円が計上された。前年度は約227億円だったので、7億円の微増である。
この限られた財源をベースに新規施策として打ち出したのが「花粉の少ない森林への転換促進緊急総合対策」(予算額は60億円)。冒頭で触れた岸田首相の“号令”に応えて、来年度(2024年)予算要求に盛り込んでいた「花粉削減・グリーン成長総合対策」(要求額は222億円)の主要事業を先取りして実施することにした。
同対策の目玉である「スギ人工林伐採重点区域」の設定については、まもなく林野庁が「スギ花粉発生源対策推進方針」を改定して区域指定の目安を示す予定。このほか、スギ材の需要拡大を目的とした木材加工工場や保管施設の整備、苗木の増産、高性能林業機械の導入、航空レーザを活用した花粉飛散量予測なども同対策で前倒し着手する。

非公共補正で金額が大きいのは、「林業・木材産業国際競争力強化総合対策」の約153億円。非公共予算に前述した公共事業から回す約305億円が加わり、総額では約458億円になる。
この対策は、前年度は「国内森林資源活用・木材産業国際競争力強化対策」のネーミングで予算化されていた。担当官は、「事業内容はほとんど変わらない」と率直に言う。路網整備から非住宅建築物の木造化まで幅広く支援できるメニューを揃えており、林業のデジタル化や担い手の確保・育成対策もこの対策の傘の下に収めた。

このほか、「燃油・資材の森林由来資源への転換等対策」(予算額は20億円)では、きのこ生産者の電気代負担を軽減する助成策を盛り込んだ。
以上が今年度林野補正予算の大まかな要点となる。キーワードとして浮かんでくるのは、「前倒し」や「先取り」だ。補正で予算を“先食い”したツケが来年度当初予算に回らないように、年末まで緊張感を切らさずに予算折衝に臨むことが必要になる。

(2023年11月9~11日取材)

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体お主は何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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