異業種が参入し木育の“ビジネス化”を目指す「kiond」【先進地を訪ねて】

異業種が参入し木育の“ビジネス化”を目指す「kiond」【先進地を訪ねて】

三重県多気町にある全世代型木育施設「kiond(キオンド)」が開業して1年が過ぎた。運営主体は、「家族」をテーマにアミューズメント事業などを展開している(株)カーゾック(三重県鈴鹿市)。「木にふれて、時間を忘れる特別な一瞬」をテーマに掲げ、民間の異業種のノウハウを活かしながら補助金に頼らない木育の“ビジネス化”を目指している。

プレミアムコースなどを用意し、「プロの講師には適切な報酬」

kiondのメイン事業は、30以上の体験プログラムからなる「ワークショップ」、「アクティビティ」と、常設の「キノパーク」及び「ライブラリーカフェ」だ。

アクティビティ事業には、紀伊半島等のプロの職人などが講師をつとめる「プレミアムコース」と、スタッフが案内などをする「レギュラーコース」があり、ほぼ毎日何らかのプログラムが行われている。

プレミアムコースの利用料は2,000円~8,000円(税込み)。チェーンソーアート体験や木工旋盤を使った熊野産ヒノキのうつわづくり、森のアスレチックなど様々なメニューを用意し、プロの指導者を招いて実施している。

kiondマネージャーの上長野ゆみ氏は、「講師陣には、木育業界でありがちなボランティア価格ではなく、適切な報酬を支払っている。そして、講師陣とともに自然体験・木育を事業として成立するまで価値を高めていきたい」と強調する。

レギュラーコースでは、カッティングボードや木のトイカメラ、バードコールなどのキットを使ったモノづくりのほか、森の中のウォークラリーなどが体験できる。利用料は2,000円~3,000円(同)と、プレミアムコースよりリーズナブルだ。

上長野氏は、「プログラム全体を通じて、国産材や国内林業のストーリーを伝えている。とくに、モノづくりのプログラムは使用シーンを明確にして大切に長く使ってもらえ、日本の木の文化を捉え直すようなモノにしている」と話す。

木製遊具の「モッキンガム」が人気、約30名で全体運営担う

常設のアクティビティスペース「キノパーク」では、尾鷲ヒノキなどの国産材遊具に親しみながら自由に体を動かせる。とくに、中央に設置されている木製ジャングルジム「モッキンガム」が人気だ。利用料は、子どもが30分・600円(以降、10分ごとに100円追加)、保護者は1人600円としている。

「モッキンガム」で遊ぶ子どもたち

珈琲と読書を楽しめるライブラリーカフェには、森林・木材、自然などに関する書籍が1,500冊以上あり、県外の観光客だけではなく地域住民の憩いの場にもなっている。物販コーナーでは、プレミアムコースの講師陣の作品なども販売。これら全体の運営を保育士や自然観察員などの資格を持つスタッフのほか、自然や木工が好きな約30名のスタッフが担っている。

滞在型複合施設全体で集客力を強化、「木育は黒字化できる」

kiondは、日本最大級の商業リゾート施設「VISON(ヴィソン)」の一角にある。VISONは、ロート製薬(株)などの大手企業4社が立ち上げたヴィソン多気(株)が運営しており、東京ドーム24個分の敷地にkiondのほか、ホテルや飲食店など75店舗が集まる。

VISONは、昨年(2021年)7月20日にグランドオープンした。当初はコロナ禍の影響で集客に苦戦したが、今年(2022年)のゴールデンウィークには1日当たり約3万5,000人が来場し、夏休みの間も同水準の来場者数を記録した。広報担当者は、「VISON内には子ども向けの施設が少ないのでkiondの存在は助かる。今後も応援していきたい」と話す。

エールを受けた上長野氏は、「まだkiondだけでは黒字化できていないが、SDGsやESG投資などの追い風もあり、木育事業はいずれビジネスラインに乗る。今後は企業研修なども受け入れて、持続的な経営を行っていきたい」と意欲をみせている。

(2022年8月11日取材)

(トップ画像=kiondでは様々なワークショップが行われている)

『林政ニュース』編集部

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