映像・音・香りで森林を再現するフォレストデジタル【ベンチャーの星】

北海道 北海道 森林の新たな利用

映像・音・香りで森林を再現するフォレストデジタル【ベンチャーの星】

「デジタル技術は、確かに私達の生活を便利にした。では、私達の心はどうだろうか? 何とかできないか?」という問いからスタートしたフォレストデジタル(株)(北海道浦幌町、辻木勇二・代表取締役CEO)。最新のデジタル技術を駆使して、都市部でも森林浴を楽しめるようにした新しいサービスが注目されている。

ヤフー出身者が創業、浦幌町の森林を訪れ多くの効用を知る

フォレストデジタルの創業は、2019年11月。ネットサービス企業の草分けであるヤフー(株)で勤務していた辻木CEOや北海道浦幌町の林業家がともに立ち上げた。

きっかけとなったのは、2017年にヤフーとロート製薬(株)の有志約20名で浦幌町を訪れたこと。ここで森林が人間の体や心に与える様々な効用を知り、「この言葉にならない感動を多くの人に届けたい」との思いが募り、起業につながった。

辻木勇二・フォレストデジタルCEO

同社が提供するデジタル森林浴空間「うららパーク」では、正面・左右後ろ・天井のマルチスクリーンに森林や麦畑、流氷などの自然映像が投影される。ディスプレイには富士フイルム(株)の協力を得て最新機器を使用。音響についても、オンキヨーホームエンターテイメント(株)とタッグを組み、映画館のような臨場感のあるサウンドを味わえるようにした。

これに加えてデジタル森林浴のウリになっているのが、上映場面に応じて森の香りが漂ってくることだ。約30種の樹種を蒸留する“木の香り”のプロフェッショナルである北海道立総合研究機構の林業試験場が協力し、心地よい香り空間を創り出している。

銀座の画廊で十勝の自然を再現、予約段階で満員、話題沸騰

フォレストデジタルは2月11日から14日まで、東京都中央区の銀座アートホールで「うららパーク銀座」を開催した。新型コロナウイルスの感染防止対策として、1回の上映(23分)の定員を5名までに制限したところ、予約段階で満員となった。辻木CEOは、「私達の予想を超える結果となり驚いた」と手応えを話している。

画廊のスペースを利用した「うららパーク銀座」の広さは、高さ2.3m、奥行き8.6m、横幅7m。十勝浦幌の森の映像とトドマツやキタコブシの香りで十勝の自然を再現し、浦幌町名物の韃靼(だったん)そばも配った。

上映した映像は、浦幌の森林からはじまり、地平線まで広がる麦畑や牧場の風景へと移り、最後は焚き火のシーンで終了する。

入場者からは、「ストレスから解放されてリラックスできた」との感想が多く聞かれたほか、「オフィスやサウナなどに設置してほしい」という要望や、「実際に行ってみたい」という声も目立った。

デジタルとリアルは共存共栄できる、ストレス低減など検証

辻木CEOは、「うららパーク銀座」における来場者の反応を踏まえ、「デジタル森林浴とリアルの森林浴は共存共栄できる」との思いを強くしている。コンクリートジャングルの中で生活している都市住民にとって、たとえ仮想空間であっても森林と触れ合える機会は貴重であり、森林や自然に足を踏み出すきっかけとなる。

2月10・11日には、森林総合研究所上席研究員の高山範理氏らと共同で、デジタル森林浴に関する実証実験も行い、ストレス低減効果などに関するエビデンスの取得にも動き出している。

「うららパーク銀座」は浦幌町がスポンサーとなって入場無料で実施した。辻木CEOは、「今回の銀座の開催で都市圏で働く方のニーズを確認できた。今後はオフィスや病院施設など様々な場所で、テクノロジーを活用した森の癒しを感じて頂きたい」と話している。

(2021年2月10日取材)

(トップ画像=「うららパーク銀座」の内部、デジタル森林浴は寝そべっても体験できる)

『林政ニュース』編集部

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