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「2年赤字の3年黒字」、年間約9万m3の量産工場に成長
兵木センターが稼働してから丸5年が経過した。5年前に来たときは、製材ラインも試験運転中でがらんとしていたが、今では原木(丸太)と天然乾燥材が溢れんばかりで圧迫感さえ感じるほどだ。工場の稼働状況はどうなのか。

年間の原木消費量は約9万m3になっている。
「2年赤字の3年黒字」と総括できる。今年度(平成27年度)は事業計画(年間売上高)の110%を達成できる見込みだ。これをステップにこれから第2ステージに入る。今、その準備をしているところだ。
協同組合方式の製材工場は、全国どこでも苦戦している。3年目で黒字に転換できた理由はなにか。
その話は歩きながらしよう。
組合員の原木生産量は15~16万m3、径43㎝まで製材可能
八木理事長は、工場内を案内しながら、遠藤理事長に語りかけた。
ご存知のように、兵木センターは我々素材生産業者が中心になってつくった組織だ。組合員が生産した原木(丸太)をできるだけ高く売って、山元に利益を還元することにしている。
組合員の原木生産量はどれくらいなのか。
年間で15~16万m3になる。組合員が持ち込んでくる原木は28ポケットある原木自動選別機に投入し、製材用・合板用・木材チップ用に仕分けをして、それぞれの需要先に販売している。このうち、兵木センターの工場で約9万m3を製材しており、樹種別ではスギとヒノキが半々になっている。

兵木センターの心臓部といえる製材ラインはどうなっているのか。
ツインバンドソー2機、ツイン丸鋸1機、ツインバンドソー1機の順に、連続して設置している。ツインバンドソーに投入した原木をワンウェイ方式で製材するシステムだ。最大末口径43㎝までの原木を製材でき、日産700m3の加工能力がある。ただし、人工乾燥機が足りないので、まだフル生産には至っていない。
KD製品の注文多く1か月待ち、乾燥能力のアップが課題
どのような製品を挽いているのか。
主力は、柱、間柱、筋交いだ。マンション用のスギ間柱もつくっている。これらの製品は、天然乾燥した後、人工乾燥機に入れている。高温乾燥機が15基、中温乾燥機が2基ある。出荷する製品の95%以上がKD(人工乾燥)処理されている。工務店の中にはグリーン(未乾燥)材を挽いてくれないかという注文もあるが、基本的に対応していない。
グリーン材は利幅は小さいだろうが、乾燥の手間は省けるのだから、注文があるのなら増やしていけばいいのではないか。
KD製品の注文をこなすだけでも1か月待ちという現状なので、グリーン材を増やす余地はない。また、兵木センターでは、人工乾燥の熱源を木屑焚きボイラーで発生させた蒸気で賄っているが、ボイラーに投入するモルダー屑(カンナ屑)にはKD材の加工過程で出てくるものが適している。含水率が低く燃焼効率がよいからだ。グリーン材のモルダー屑は含水率が高いのでボイラーに向かない。これもグリーン材を増やしたくない理由の1つだ。いずれにしても、兵木センターの課題は、乾燥処理能力の向上に尽きる。
プレカット向けと大工・工務店向けにきめ細かく対応する
続いて2人は、製品の仕上げ工程から製品倉庫へと足を進めた。
製品の仕上げ工程では、まず含水率測定器で含水率を計っている。その後、丸鋸で長さをカットし、分速120mのモルダーにかけている。
製品の並べ方や積み方がちょっと変わっているが。
兵木センターの製品の多くはプレカット工場向けであり、大口ロットでの直送にしている。一方、地元の大工・工務店などへの配送は小口になる。だから、プレカット工場向けと大工・工務店向けの製品を倉庫の在庫段階で分けている。こうすればトレーラーへの積載効率がよくなり、利益率にも反映してくる。ユーザーが何を求めているかをきめ細かくキャッチして、業務に反映することを心がけている。
なるほど。なんでもないことのように思えるが、製材工場の経営を安定化させるには重要だ。
いままでの国産材製材のあり方について、「本当にそれでいいのか? もっと別の方法があるのではないか?」と5年間繰り返し自問自答してきた。その答えの1つがこの製品倉庫だ。こうした取り組みの積み重ねが3年目での黒字転換につながったのだと思う。

天然乾燥拡大プラス素麺箱生産も、地元のモミを有効活用
工場内の視察を終えた2人は事務所に戻り、八木理事長が言う「第2ステージ」構想についての「対論」に入った。
兵木センターが発展していくためには、「3年黒字」を契機に「黒字経営体質」を維持・強化していくことが必要だ。「第2ステージ」に向けてどのような“秘策”を考えているのか。
企業秘密もあるので全部は話せないが、加工施設を整備拡充していきたい。すでに1,100坪の屋根を備えた施設を確保した。
課題である天然乾燥をさらに充実させたいということか。
そのとおりだが、新しいビジネスをプラスすることも考えている。例えば、素麺箱だ。
素麺箱?
宍粟市からたつの市に至る揖保川沿いは素麺の産地だ。その高級素麺入れには国産モミの箱を使うが、モミは梅雨時になると青カビが発生するので嫌がられる。そこで屋根のついた加工施設で十分に天然乾燥をしてプレーナーがけをして素麺箱をつくる。すでに年間8万箱を出荷しており、好評なので増産したい。
いいところに目をつけたものだ。
宍粟や山崎周辺にはモミが多い。これまでは仏事(棺桶、卒塔婆など)に使われてきたが、乾燥を十分に施せばテーブルとしても使える。このほか「第2ステージ」では、大工・工務店やビルダーと連携した新たな企画も考えている。(後編につづく)
(2016年3月10日取材)
(トップ画像=1日(2シフト制)に2,000本の原木を挽く連続製材システム)

遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。