(前編)発足5年の兵庫木材センターが第2ステージへ【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編)発足5年の兵庫木材センターが第2ステージへ【遠藤日雄のルポ&対論】

ここ数年、地方自治体が公募によって企業などの事業主体を選定し、木材加工工場を新設する動きが目立つようになってきた。かつて高度経済成長期には、安価な労働力を求めて縫製工場や電子部品工場などが山村に進出したが、不況になったらあっさりと撤退し、地方を疲弊させる一因となってしまった。公募誘致型の工場には、このような一過性のビジネスに陥ることなく、地に足のついた持続的な経営を行うことが求められている。そのモデルとして注目されているのが、協同組合兵庫木材センター(八木数也理事長、宍粟市、以下「兵木センター」と略)だ。地元の素材生産業者が結集して製材工場を立ち上げるという独特のスタイルで事業を始めた兵木センターは、発足5年が経過してどのような状況になっているのか。製材工場が稼働する直前の平成22年12月に兵木センターを訪問した遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が、再び宍粟市に入った。

「2年赤字の3年黒字」、年間約9万m3の量産工場に成長

遠藤理事長

兵木センターが稼働してから丸5年が経過した。5年前に来たときは、製材ラインも試験運転中でがらんとしていたが、今では原木(丸太)と天然乾燥材が溢れんばかりで圧迫感さえ感じるほどだ。工場の稼働状況はどうなのか。

八木数也・兵庫木材センター理事長
八木理事長

年間の原木消費量は約9万m3になっている。

八木

「2年赤字の3年黒字」と総括できる。今年度(平成27年度)は事業計画(年間売上高)の110%を達成できる見込みだ。これをステップにこれから第2ステージに入る。今、その準備をしているところだ。

遠藤

協同組合方式の製材工場は、全国どこでも苦戦している。3年目で黒字に転換できた理由はなにか。

八木

その話は歩きながらしよう。

組合員の原木生産量は15~16万m3、径43㎝まで製材可能

八木理事長は、工場内を案内しながら、遠藤理事長に語りかけた。

八木

ご存知のように、兵木センターは我々素材生産業者が中心になってつくった組織だ。組合員が生産した原木(丸太)をできるだけ高く売って、山元に利益を還元することにしている。

遠藤

組合員の原木生産量はどれくらいなのか。

八木

年間で15~16万m3になる。組合員が持ち込んでくる原木は28ポケットある原木自動選別機に投入し、製材用・合板用・木材チップ用に仕分けをして、それぞれの需要先に販売している。このうち、兵木センターの工場で約9万m3を製材しており、樹種別ではスギとヒノキが半々になっている。

組合員が持ち込んできた原木と選別機
遠藤

兵木センターの心臓部といえる製材ラインはどうなっているのか。

八木

ツインバンドソー2機、ツイン丸鋸1機、ツインバンドソー1機の順に、連続して設置している。ツインバンドソーに投入した原木をワンウェイ方式で製材するシステムだ。最大末口径43㎝までの原木を製材でき、日産700m3の加工能力がある。ただし、人工乾燥機が足りないので、まだフル生産には至っていない。

KD製品の注文多く1か月待ち、乾燥能力のアップが課題

遠藤

どのような製品を挽いているのか。

八木

主力は、柱、間柱、筋交いだ。マンション用のスギ間柱もつくっている。これらの製品は、天然乾燥した後、人工乾燥機に入れている。高温乾燥機が15基、中温乾燥機が2基ある。出荷する製品の95%以上がKD(人工乾燥)処理されている。工務店の中にはグリーン(未乾燥)材を挽いてくれないかという注文もあるが、基本的に対応していない。

遠藤

グリーン材は利幅は小さいだろうが、乾燥の手間は省けるのだから、注文があるのなら増やしていけばいいのではないか。

八木

KD製品の注文をこなすだけでも1か月待ちという現状なので、グリーン材を増やす余地はない。また、兵木センターでは、人工乾燥の熱源を木屑焚きボイラーで発生させた蒸気で賄っているが、ボイラーに投入するモルダー屑(カンナ屑)にはKD材の加工過程で出てくるものが適している。含水率が低く燃焼効率がよいからだ。グリーン材のモルダー屑は含水率が高いのでボイラーに向かない。これもグリーン材を増やしたくない理由の1つだ。いずれにしても、兵木センターの課題は、乾燥処理能力の向上に尽きる。

プレカット向けと大工・工務店向けにきめ細かく対応する

続いて2人は、製品の仕上げ工程から製品倉庫へと足を進めた。

八木

製品の仕上げ工程では、まず含水率測定器で含水率を計っている。その後、丸鋸で長さをカットし、分速120mのモルダーにかけている。

遠藤

製品の並べ方や積み方がちょっと変わっているが。

八木

兵木センターの製品の多くはプレカット工場向けであり、大口ロットでの直送にしている。一方、地元の大工・工務店などへの配送は小口になる。だから、プレカット工場向けと大工・工務店向けの製品を倉庫の在庫段階で分けている。こうすればトレーラーへの積載効率がよくなり、利益率にも反映してくる。ユーザーが何を求めているかをきめ細かくキャッチして、業務に反映することを心がけている。

遠藤

なるほど。なんでもないことのように思えるが、製材工場の経営を安定化させるには重要だ。

八木

いままでの国産材製材のあり方について、「本当にそれでいいのか? もっと別の方法があるのではないか?」と5年間繰り返し自問自答してきた。その答えの1つがこの製品倉庫だ。こうした取り組みの積み重ねが3年目での黒字転換につながったのだと思う。

製材品を出荷するトラック

天然乾燥拡大プラス素麺箱生産も、地元のモミを有効活用

工場内の視察を終えた2人は事務所に戻り、八木理事長が言う「第2ステージ」構想についての「対論」に入った。

遠藤

兵木センターが発展していくためには、「3年黒字」を契機に「黒字経営体質」を維持・強化していくことが必要だ。「第2ステージ」に向けてどのような“秘策”を考えているのか。

八木

企業秘密もあるので全部は話せないが、加工施設を整備拡充していきたい。すでに1,100坪の屋根を備えた施設を確保した。

遠藤

課題である天然乾燥をさらに充実させたいということか。

八木

そのとおりだが、新しいビジネスをプラスすることも考えている。例えば、素麺箱だ。

遠藤

素麺箱?

八木

宍粟市からたつの市に至る揖保川沿いは素麺の産地だ。その高級素麺入れには国産モミの箱を使うが、モミは梅雨時になると青カビが発生するので嫌がられる。そこで屋根のついた加工施設で十分に天然乾燥をしてプレーナーがけをして素麺箱をつくる。すでに年間8万箱を出荷しており、好評なので増産したい。

遠藤

いいところに目をつけたものだ。

八木

宍粟や山崎周辺にはモミが多い。これまでは仏事(棺桶、卒塔婆など)に使われてきたが、乾燥を十分に施せばテーブルとしても使える。このほか「第2ステージ」では、大工・工務店やビルダーと連携した新たな企画も考えている。(後編につづく)

(2016年3月10日取材)

(トップ画像=1日(2シフト制)に2,000本の原木を挽く連続製材システム)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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