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コモディティ製品を量産する一方で自由に使える板を生産
遠藤理事長が兵木センターを訪ねるのは、これで3度目になる。
1度目は、工場が稼働する直前の2010年12月、最新鋭のノーマンツインソーが設置され、試験運転をしている最中だった。
2度目は、工場稼働から5年が経過し、原木消費量が増えて量産加工のメドがつき、「第2ステージ」にステップアップしようとしていた時期だった。そのときの別れ際、八木理事長は遠藤理事長にこう語りかけていた。「コモディティ製品の量産は続けながらも、新たな取り組みを始めようと考えている」。

5年前に話していた「新たな取り組み」がどうなっているのかを知りたくてやって来た。従来からの製材事業以外に、何をやっているのか。
フリー板の生産だ。
フリー板とは?
製材端材を幅はぎして大きな板にしたものだ。集成材の1種と考えてもらえばいい。
何に使うのか。
文字どおりフリー、自由だ。ユーザー自らがカウンターや造作材などに加工して使っている。
ボイラー用の燃料にしかならない端材を有効利用し製品化
なぜフリー板をつくるようになったのか。
私は、素材生産業者の立場から兵木センターの開設に参画した。工場の経営にあたって常に考えているのは、地域の人工林の賦存状況を的確に把握しながら、木材加工に反映させることだ。その1つの答えがフリー板になる。
もっと詳しく説明して欲しい。
周知のように、全国的にスギ大径材の出材量が増えている。九州然(しか)り、東北然り、そしてここ関西然りだ。ところが、スギ大径材を有効利用する決め手が未だに見つかっていない。この問題を解決しなければ、日本林業の発展は望めないだろう。
そのとおりだ。スギ大径材をムク(無垢)のKD(人工乾燥)平角などに加工する動きも出ているが、米マツKD平角とレッドウッド集成平角との挾間で苦戦を強いられている。フリー板にして突破口が開けるのならば、全国の関係者にとって朗報だ。どうやって生産しているのか。
スギ大径材に最初に鋸を入れたときに得られる「側」(背板)から採っている。他の製材工場では、端材として捨てたり、ボイラー用の燃料にしかなっていないものだ。
それを有効利用しているのか。製材ラインはどうなっているのか。
それは工場をご案内しながら説明しよう。
製材システムを一新、最大径63㎝の丸太でも効率的に加工
八木理事長に先導されて工場の中に入った遠藤理事長は目を見張った。5年前に訪れたときとは、製材システムが様変わりしている。人工乾燥機も増設され、大型の中温乾燥機が2基設置されていた。

工場稼働時は、最大径50cmまで挽けるノーマンツインソー(キクカワエンタープライズ(株)のクリアシステム)しかなかった。その後、スギ大径材の出材量が増えてきたので、対応可能なように自動化製材システムを一新した。この段階からフリー板の生産を視野に入れていた。
新しい製材システムは、どのくらいの丸太まで挽けるのか。
最大径63㎝まで加工できるワンマンツインソーを導入している。
それはすごい。
それだけではない。最大径50㎝まで挽けるノーマンツインソーについては、価格も含めた最新の需要情報が専用コンピューターに入力されており、木取りなどに反映できるようになっている。
そうした情報を活かして生産されるフリー板の値段はどのくらいなのか。
現在のスギ大径丸太のm3当たり価格はせいぜい1万2,000~3,000円程度だ。これがフリー板になると12万円にもなることがある。
製材の仕方によって、そんなにも価値が高まるのか。
そうだ。このような製材の“妙”を追求するため、この工場にはノーマンツインソーとは別に、スギ大径材に対応した製材機を設置している。こちらはワンマンのシングルソーだ。最大径110㎝、長さ6mまでの丸太が挽ける。コンピューターに任せて製材するか、人の“眼”を活かして木取りをするか、丸太に合わせて判断しながら使い分けている。

在来工法住宅向けという固定観念から脱して、製品開発へ
フリー板の仕上げ加工はどうしているのか。
ここから車で20分ほどの山崎工場で行っている。白肌のムクの良質材はそのまま使い、節がある場合はそれを除いて、様々なサイズのフリー板に仕上げて販売している。
改めて聞きたい。なぜフリー板に着目したのか。販売面で不安はなかったのか。
スギ大径材をフェンス材に加工して米国へ輸出する取り組みが盛んに行われているが、米国バージョンのサイズに加工して出荷しなければならない。手間がかかるわりに単価は安い。
それに比べて、フリー板は米国のホームセンターなどで消費者が直接購入し、備え付けの製材加工機で自分の好きなサイズにカットして持ち帰ることができる。
確かにそうだ。米国テキサス州ダラス市のホームセンターでも、そのような光景を見たことがある。
米国だけではない。日本でもそうだ。ホームセンターに行くと、消費者がフリー板を購入している。自分なりに加工しているのだろう。
これまで林業界は、在来工法住宅の柱や梁のサイズにとらわれすぎていた。住宅市場が縮小する中では、固定観念から離れてもっと自由な発想で製品開発をするべきだ。フリー板には、そういうチャレンジの意味も込められている。

(2022年2月10日取材)
(トップ画像=スギのフリー板)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。