冷涼な気候を活かし「避暑地化」を推進、ツアーに14名参加
紋別市の人口は約2万人。総面積は約8万3,000haで、その約8割・約6万5,000haは森林に覆われている。
同市の基幹産業は、酪農や漁業、とくにホタテ漁が盛んで、これに連なる加工業にも活気がある。また、冬には、オホーツク海での流氷見物や、スキーなどのウインタースポーツを目当てに多くの人々がやってくる。
しかし、夏は観光客が少なく、冬と夏の繁閑格差が大きい。これを解消するため、2017年4月に「紋別避暑地化宣言」を内外に発信。以降、市内観光に必要な交通手段の充実などインフラ整備を進めるとともに、ポスター、ガイドブック、WEBサイト等を活用したプロモーション活動を積極的に展開してきている。
同市の最大の強みは、夏場でも気温が20度前後と冷涼で過ごしやすいこと。加えて、雄大な自然環境と豊かな食資源などにも恵まれている。
コロナ禍を経て、人々の生活スタイルは変容してきており、テレワークや二地域居住などが取り入れられるようになった。地方の自治体にとっては、交流人口の拡大を図る好機が訪れている。
この時代の波をとらえて行われたのが、今回のHARUツアーだ。同市内を一望できる大山と森林公園をフィールドにして、従来にない“旅のメニュー”を揃え、2日間で3万円(宿泊費・食事代込み、税別)の費用で募集をかけたところ、首都圏から6名、道内から5名、市内から3名の計14名が参加した。
森ヨガやホースセラピーで自然と一体化、心身をリフレッシュ
HARUツアーは、紋別観光振興公社が主催、紋別市が後援し、森林公園関係業務を受託しているNPO法人森林未来研究所(下川町)と、ローカルマガジン『HARU』を発行する(一社)オホーツク・テロワール(興部町)が協力して実施した。
2日間のメニューは、森ヨガ、ホースセラピー、大山登山道・バラ園散策、記念植樹、講演会などで、地元の食材を使ったバーベキューやオーガニックランチなどもふるまわれた。
メインとなった森ヨガとホースセラピーは、参加者を2班に分け、森林公園内で約1時間ずつ実施した。
森ヨガは、ヨガマットを芝生の上に円になるように敷き、講師からポーズや呼吸法のレクチャーを受けながら行った。過ごしやすい気候の中でほどよい汗を流した参加者からは、「室内よりも伸び伸びヨガができた。自然と一体になるような感覚が心地いい」との感想が聞かれた。

ホースセラピーは、1人が10分ほど乗馬を体験。馬に乗ると、自然と背筋が伸びて姿勢がよくなる。馬と呼吸を合わせて駆け回るほどに、心身ともリフレッシュされてくる。乗馬は初めてという人も、「普段とは目線の高さが違い、気分が上がった」と言い、「馬とコミュニケーションをとるのは難しかったが、走り出すと風を切る感じが楽しかった」と笑顔をみせた。
記念植樹では、来年(2023年)の5月頃に花が咲くことを見込んでエゾヤマザクラを植樹。「また紋別にくる理由ができた」との声があがり、早くもリピーター獲得の布石が打たれていた。

農林漁業の連携で価値を高める、コンテンツを追加し継続へ
HARUツアーのコンセプトは、「地元住民も知らないようなオホーツクの魅力を伝える」。新たな魅力の中心に森林を据えたのは、利活用の余地が大きいからであり、ツアーの中では森林と地域資源とのつながりがわかるような仕掛けも盛り込んだ。

地元食材を使ったバーベキューのセッティングをしたオホーツク・テロワール代表の大黒宏氏は、「農林漁業が連携することで、地域全体の価値が上がるようなツアーが組めた。このような取り組みを通じて地域で回るお金を増やしていきたい」と手応えを口にした。
紋別市の森林面積の約90%は、SGECの森林認証を取得しており、環境に配慮した管理・経営が行われている。ツアーの初日に講演した佐藤木材工業(株)会長の佐藤教誘氏は、「豊かな森林から流れ出す栄養豊富な水が農産物や乳牛・肉牛を育て、海に流れ込んでからもホタテなど沿岸漁業の役に立っている」と説明し、「農産物や水産物の高付加価値化で得られる収益の一部を森林に還してもらうような仕組みも考えたい」と話した。
参加者のアンケート結果からは、森ヨガやホースセラピーによるリラックス効果が確認されており、継続開催の要望も出ている。同市の宮川良一市長は、「森林をもっと活かして、夏でも人を呼び込めるようにしたい」と話しており、産業部農政林務課長の石田明久氏は、「参加者からの反応はいい。新たなコンテンツを用意して、森林空間の利用を進めていきたい」と意欲をみせる。関係者はさらに連携を強化して、運営体制やツアー内容のブラッシュアップに取り組むことにしている。
(2022年8月25日取材)
(トップ画像=心地よい空気の中で森ヨガを体験)

『林政ニュース』編集部
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