再訪・さつまファインウッド、本格稼働後の課題と展望【遠藤日雄のルポ&対論】

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再訪・さつまファインウッド、本格稼働後の課題と展望【遠藤日雄のルポ&対論】

国産材の新規需要先として、2×4工法(枠組み壁工法)住宅用の部材として供給することが有望視されている。平成25年の2×4工法住宅の着工戸数は約12万戸、同年の新設住宅着工戸数(約100万戸)の12%を占めた。2×4住宅で使われる構造材の大部分は北米産のSPF(スプルース・パイン・ファー)に依存しているが、SPFは現地で時折発生する港湾ストライキの影響を受けやすく、北米住宅市場の動向によって価格が変動するという問題を抱えている。そこで2×4住宅部材のうち、木造軸組工法の間柱に近いスタッドを国産材に置き換えていく取り組みが始まっている。
そのトップランナーである(株)さつまファインウッド(鹿児島県霧島市)を遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が再訪した。前回訪問時(昨年秋)*1は加工施設を建設している途中だったが、今年4月に竣工式を行って生産を開始、8月7日からは大阪以西のマーケット向けに製品出荷を本格化させている。

スギのスタッド用材を天然乾燥、1万5,000m3を常時在庫

ほぼ1年ぶりにさつまファインウッドの門を叩いた遠藤理事長を、林雅文・同社代表取締役社長((株)伊万里木材市場代表取締役社長)と藤村要・取締役が出迎えた。

遠藤理事長

昨年視察したときと比べてスタッド用材の桟積み量が増えた。圧迫感が漂う。

林社長

かごしま材新需要開拓協議会のメンバー(製材工場)や協力工場から集荷したスタッド用材(スギグリーン材)を桟積みして天然乾燥している。目一杯桟積みすれば、1万7,000~1万8,000m3はいけるが、現在は1万5,000m3を在庫している。

遠藤

天然乾燥する期間はどれくらいなのか。

藤村取締役

通常は3か月だが、4か月にすれば含水率のバラツキはより少なくなる。4か月半から5か月にすれば含水率30%以下も可能というデータも得られている。

既存の流通を前提にして4m材を調達し、2.4mにカット

遠藤

桟積みされているスタッド用材のサイズは?

藤村

43㎜×98㎜×4mまたは3mのサイズで製材工場から買い取っている。

遠藤

2×4住宅用のスタッドの長さは2.4mではないのか。

遠藤

桟積みされているスタッド用材のサイズは?

藤村

43㎜×98㎜×4mまたは3mのサイズで製材工場から買い取っている。

遠藤

2×4住宅用のスタッドの長さは2.4mではないのか。

藤村

基本的に4m材で買って、さつまファインウッドで加工して2.4mに仕上げている。

遠藤

原木の段階で2.4mに採材すれば効率がよいのではないか。

長級2.4mの原木は日本では流通していない。3m、4mが主流だ。製材システムも人工乾燥機もすべてこのサイズが基調になっている。2.4mだとトラックに積むにも時間がかかる。
かりに、2.4mの原木からスタッドをとったとしても、残った背板(側)からどのような製材品をとればいいのか。弊社の社是はマーケットインだが、国内の原木からスタッドを製材・加工するには既存の流通サイズを前提とせざるをえない。

遠藤

では、4mのスタッド用材を購入して、具体的にどのような方法で2.4mのスタッドに仕上げているのか。

林雅文・さつまファインウッド社長(伊万里木材市場社長)

1.6m材でもフィンガージョイントしてスタッドに加工できる

遠藤理事長から発せられた疑問に応えるため、林社長と藤村取締役は一連の生産ラインが並ぶ区画を案内し始めた。

そこでは、天然乾燥した4mのスタッド用材をまず人工乾燥機(中温)に入れて含水率を19%以下に落とし、養生棟に移した後、加工工場へと搬入していた。

藤村

4mのスタッド用材はほぼ真ん中で切る。かりに用材が少々曲がっていても、真ん中で切ることによって矢高は4分の1に落ち直材に近くなる。したがって、4mのB材丸太からのスタッド用材を製材することも可能だ。
4mから2.4mをとった残りの1.6m材は接着剤(レゾシノール同等性能の水性ビニールウレタン系)でフィンガージョイント(FJ)してスタッドにしている。さつまファインウッドでの生産工程では全量MSR(機械強度区分機)で強度検査を実施しているので、ゆくゆくはスタッドだけでなく横枠にも使えるよう提案していきたい。

遠藤

生産加工の大まかな流れはどうなっているのか。

藤村

乾燥後のスタッド用材は外観検査と含水率検査を行い、ラフモルダー掛けされ、グレーディングマシンで強度が測定される。ここまでが1次加工だ。次いで1.6mと2.4mに分けて、FJ・2次加工が行われ最終製品となる。それを梱包して出荷となる。

藤村要・さつまファインウッド専務取締役

JAS改正で国産材は使いやすく、撥ね率も大幅に低下する

事務所に戻った遠藤理事長は、さつまファインウッドの今後の事業展開を中心に2人へのインタビューを再開した。

遠藤

改めて、さつまファインウッドを立ち上げた理由を聞きたい。

弊社は平成23年12月に、鹿児島県曽於市に南九州営業所を開設した。それに伴って、鹿児島県産材の需要拡大が課題になり、製材品のJAS化を進めて、2×4住宅部材という新規需要を開拓するシナリオを描いた。
このシナリオを実行段階に移せたのは、南九州営業所の踏ん張りが大きい。同営業所の平成26年の丸太供給量は7万2,000m3になっており、近い将来に16万m3にまで増大させる計画だ。同営業所から、かごしま材新需要開拓協議会の製材工場へスタッド製材用の丸太を供給するルートも軌道に乗ってきた。

遠藤

なるほど。スタッドを納入する製材工場もその原料用丸太を安定供給してもらえると仕事がしやすくなる。ところで、2×4住宅に使用される製材品はJAS(日本農林規格)によって規定されている。これまでのJASは北米材の品質に合わせた規格になっており、国産材でJAS認定を受けるのは難しいとされていたが。

農林水産省が今年3月に枠組壁工法構造用製材(2×4材)のJASを改正し、スギ、ヒノキ、カラマツでも認定をとりやすくなった。主な改正点は、①2×4製材用のJASと2×4製材たて継材のJASの統合、②MSR(機械強度等級区分)たて継材規格の新設、③新たな樹種群(スギ、ヒノキ、カラマツなど)の追加、④平均年輪幅による制限の緩和、⑤曲げ強度性能に下位等級を追加──の5つだ。これによって鹿児島県産材を活用する道が大きく開け、弊社も7月27日にJAS工場に認定された。改正前のJASだと丸太の年輪幅が6㎜以上あると自動的に最下級にランクされてロス率も20%と大きかったが、改正後の撥ね率は大幅に下がっている。

小径・大径丸太を活用できる製材システムの開発が必要

遠藤

今後の課題はなにか。

ご覧いただいたように、現在1万5,000m3のスタッド用材を在庫している。月5,000m3のスタッドの加工をするから3か月分になる。したがって今年一杯は大丈夫だが、来年以降も安定的な在庫を確保できるかどうかが問題だ。さつまファインウッドが順調に稼働すると、年間のスタッドの生産量は6万~7万m3弱になる。これを生産するために必要な丸太は15万m3に達する。

遠藤

スタッドを効率よく製材するためにはどれくらいの太さの丸太がよいのか。

末口16㎝~18㎝が最適だ。

遠藤

その径級の丸太を15万m3も確保するのは難しいだろう。

やはり、小径丸太や大径丸太からも効率よくスタッドを生産できる製材システムを開発する必要がある。こうした課題を1つ1つクリアしていけば、2×4住宅部材の国産材化は大きく前進していくと確信している。

(2015年8月20日取材)

(トップ画像=天然乾燥中のスギスタッド用材)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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