ICT+特殊伐採+木づかいで次世代型林業の確立を目指す天女山【突撃レポート】

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ICT+特殊伐採+木づかいで次世代型林業の確立を目指す天女山【突撃レポート】

都心からのアクセスがよく、移住先としても人気が高い山梨県北杜市。この地で1958年に造林業者として創業した(有)天女山(小宮山信吾・代表取締役)がICT(情報通信技術)を活用した次世代型林業の確立を目指している。特殊伐採で安定した収益を確保し、地元の大工・木工作家らとのネットワークを広げながら、着々と“次への布石”を打っている。

高性能ドローンでデータ収集、伐出作業等のリモート化目指す

「近い将来、現場に行かずともオフィスのパソコンからドローンや林業機械に指示を出し、リモート(遠隔)で森林整備や伐出作業ができるようになる」──こう話すのは、天女山の小宮山信吾社長(38歳)。

同社は2年ほど前から県のスマート林業関連事業や研修会などに積極的に参加し、ドローンやテザー、スマートウォッチなどの実用化試験に取り組んでいる。とくに力を入れているのが、ドローンを用いた森林資源量の調査・解析だ。

天女山が使用しているドローン(DJI社製のPhantom 4 RTK)

同社が使用しているドローンは、位置情報を正確に取得でき、幹材積量の測定誤差が±5%以内に収まる高性能タイプ。これを社員が操作し、小宮山社長自らデータ解析を行っており、「初めは点群データがとれないこともあったが、試行錯誤を繰り返して飛行高度や飛ばす時期などがわかってきた」と手応えを口にする。

同社が行っている森林整備関連事業は間伐が基本で、一部長尺の注文材なども生産している。細かなオーダーに応えるためには、単木ごとの正確な位置、樹高、胸高直径を把握しておく必要がある。小宮山社長は、「注文材をスムーズに伐出するためにも正確なデータは欠かせない。もっとデータが充実してくれば、ハーベスタなどを無人で操作することにも活かせる」と先を見据えている。

祖父の話で大学を中退し家業へ、スーツ姿で「経営に徹する」

天女山の小宮山社長は、いつもスーツ姿。このためか「取引先から『IT企業の出身ですか』とよく聞かれる」と笑う。だが、これまで林業一筋でやってきた。

大学2年のとき、同社の創業者で祖父の小宮山福一氏(故人)から林業の話を初めて聞き、「なんという大きな時間のスケールで仕事しているのかと驚いた。そのまま大学を中退して祖父に頼み込んで入社した」と振り返る。

小宮山信吾・天女山代表取締役

入社後、現場で経験を積んで2016年に社長に就任。これを機に、出社時の服装を作業着からスーツに切り替えた。その理由を聞くと、「今まで通りに作業着で現場に出てもいいが、それだけでは現状は変わっていかない。私は敢えて現場に行かず、経営に徹することで新しいものを生み出したい」との答えが返ってきた。

年間売上高約1億3,000万円、特殊伐採で稼ぎ、新規投資を続ける

天女山が手がけている主な事業は2つ。1つは、約230haに及ぶ森林の管理・経営と造林・伐出事業で、年間の素材生産量は約5,000m3、その約9割はカラマツ・アカマツとなっている。

もう1つは、屋敷林や支障木などを整備・処理する特殊伐採事業。同社には、13名の社員が在籍しており、8名が森林整備関連事業、4名が特殊伐採事業に従事している(1名は事務担当)。

同社の年間売上高は約1億3,000万円で、その半分は特殊伐採事業で稼ぎ出している。

同社が拠点を構える八ヶ岳南麓地域は、ほとんどがカラマツ林で占められる。カラマツは落葉・落枝するため、住宅の敷地内などに生えていると「伐採して欲しい」という要望が絶えず出てくる。同社のもとにもほぼ毎日特殊伐採の依頼が寄せられており、1件当たり約23万円の費用を基準にして引き受けている。小宮山社長は、「この地域は移住者も増えており、特殊伐採のニーズはなくならないだろう。特殊伐採で稼いだ分を次世代型林業の実現に向けて投資していく」と明確に言う。

特殊伐採の様子

地元のカラマツを活かし新事務所、「餅は餅屋」で連携広げる

今年(2022年)の1月、天女山の新しい事務所が竣工した。「地元材を活かすモデルハウスとなるように建てた」と小宮山社長が自負をみせる新事務所は、主たる構造材に自社で伐出したカラマツを約10m3使用した。

設計・施工を引き受けたのは、北杜市の大工集団・素朴屋(株)(今井久志社長)。素朴屋は、伝統的工法を用いて住宅や店舗等の新築や増改築を行っており、新事務所で使用しているカラマツは生木の状態で組み上げ、柱と漆喰の壁に隙間が出れば適宜補修するなど、竣工後も同社との“つながり”を深めている。

同社は、北杜市で暮らす約200の木工作家との“つながり”もつくり始めている。その拠点となっているのが、昨年(2021年)から半年に1回のペースで開催している広葉樹の原木市場だ。同社が集荷した優良な広葉樹材を木工作家に直接販売することを通じて、新たな需要を創り出すことを目指している。

小宮山社長は、「餅は餅屋でやっていく」との基本姿勢を示した上で、今後の展開方向について、こう語った。「弊社は最新のICT機器や林業機械を活用して次世代型林業を追求していく。一方で、素朴屋や木工作家などとの“つながり”を太くして地元材の価値を高めていく。これによって相乗効果が高まっていくだろう」。

(2022年10月13日取材)

(トップ画像=カラマツを活かした新事務所、延床面積70.4m2)

『林政ニュース』編集部

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