(後編)“木づかい”の新拠点・清水建設東京木工場【遠藤日雄のルポ&対論】

関東地方 東京都 建設

(後編)“木づかい”の新拠点・清水建設東京木工場【遠藤日雄のルポ&対論】

(前編からつづく)約140年の歴史を持つ清水建設(株)の東京木工場(東京都江東区)。その全面建て替えというビッグプロジェクトが2025年のグランドオープンに向け総力をあげている。来月(8月)中には、新築施設の第1弾となる来客棟が仮完成する予定だ。このタイミングでキーパーソンとの「対論」に臨んだ遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、「伝統」、「革新」、「SV(清水バリュー)推進」というリニューアルプロジェクトの基本コンセプトを踏まえた上で、新生・東京木工場が目指している“木づかい”の具体像に迫っていく。

「木質アーチ梁」「スリム耐火ウッド張弦梁」など独自開発

遠藤理事長

東京木工場の全面リニューアルでは、革新的な木質構造などにチャレンジしているということだが、実際にどのように進めているのか教えて欲しい。

山田徹・設計本部グループ長

大きなポイントは、新設する来客棟と工場棟の構造材に木材を積極的に使用していることだ。2階建ての来客棟は一般流通材を用いた準耐火建築物、3階建ての工場棟は集成材やCLTを使った耐火建築物として建設する。
これまで弊社は、主に内装材への木材利用に重点的に取り組んできたが、来客棟と工場棟は都市の木造・木質化に対応するモデル的な建築物に位置づけており、国土交通省のサステナブル建築物等先導事業(木造先導型、2021年度)にも採択されている。

遠藤

中大規模の木造建築物ではCLTなど最新の木質材料を使用することが多いが、来客棟はどこでも入手できる一般流通材を使って建設するのか。

山田

一般流通材を用いて10.8mスパンの広い空間を構築するため、弊社独自に開発した「木質アーチ梁」と「千鳥継手システム」を採用している。これによって、木の魅力を最大限に引き出す木架構が低コストでつくれるようになる。また、耐力壁として、「高耐力木質面材壁」を用いることにしている。

建設工事が進む来客棟
遠藤

工場棟にも独自の工夫があるのか。

山田

集成材と鋼材を組み合わせた「スリム耐火ウッド張弦梁」を国内で初めて開発し、耐火性能を有するスパン16mの屋根架構を実現することにしている。耐力壁にはCLTパネルを用いて鉄骨造に組み込み、靱性の高いハイブリッド構造となるように計画している。

大手ゼネコン唯一の木工場でモノづくりと手仕事にこだわる

遠藤

来客棟も工場棟もリニューアルコンセプトの「革新」を体現するような建築物だが、そこにも「伝統」の力が活かされているのか。

和田工場長

そうだ。木の加工は、コンクリートのようにはいかない。木目があり、強度も一定ではなく、樹種による違いも大きい。新たな部材の開発にあたっては、この点を理解しているか否かが重要なポイントになる。「木質アーチ梁」は、弊社の設計・デザイン部門から出されたアイディアをもとに、ここ東京木工場で試作も行い、検討して実用化のメドをつけた。

遠藤

「革新」と「伝統」を融合させる場が不可欠ということか。

和田

大手ゼネコンの中で、東京木工場のような拠点を持っているのは弊社だけだ。明治時代から木を使ったモノづくりを続けており、独特のおさまりなどを熟知した「職人」と言える社員が在籍している。
新設する工場棟には、多軸ロボットなど最新の工作機械を揃えることにしているが、当然のことながらボタンを押したら自動的にモノができるわけではない。手でつくることができ、木の特性を理解している「職人」がロボット制御のプログラムを組むことで、工作機械の能力を十二分に引き出せる。
この点を踏まえた上で、単純な加工工程などは工作機械に任せて効率化を図っていくことが必要だ。

本格稼働に備える多軸ロボット
遠藤

やはり、カギになるのは「人」のようだが、どのように採用して、育てているのか。

木に愛着を持ち、次代を担える「職人」を求めて全国を回る

遠藤理事長から発せられた人材育成に関する質問に答えたのは、東京木工場事務長の染谷光城氏。染谷氏は、CSR推進グループ長も兼務している。

染谷光城・清水建設建築総本部東京木工場事務長兼CSR推進グループ長
染谷事務長

弊社全体では約1万1,000人の社員がいるが、多くは建築・土木の現場で施工管理を担当している。その中で、ここ東京木工場は、約50人の社員がいて、「職人」といえる社員約20名が直接モノづくりに従事している唯一の職場となっている。創業者で宮大工だった清水喜助からの「伝統」を受け継ぎ、発展させていくためにも、東京木工場を支えていける木が好きで技術力のある「職人」を積極的に採用するようにしている。

遠藤

「職人」となるような人材を見つけるのは大変だろう。どうやって探し出しているのか。

染谷

最近は、職業訓練校や各大学の建築学科などの卒業生を採用するケースが多い。木工技術を学んできて、木に愛着を持っていると、就職してからも生き生きと働いてくれる。
幸いなことに、東京木工場で働いている「職人」は、20歳代から定年まで年齢幅のバランスがとれているので、隔年で1人くらいのペースで採用している。3年ほど前からは、全国各地の職業訓練校を直接回って、東京木工場の存在をアピールしている。初めは、ゼネコンが何しに来たのかと思われたようだったが(笑)、今では将来の「職人」を求めている趣旨を理解していただけるようになった。

木の魅力を伝えるのが使命、木造仮設事務所で5つの「循環」に寄与する

遠藤

最後に、「SV(清水バリュー)推進」について、改めて聞いておきたい。木育活動などを通じて、東京木工場と木材利用の重要性を対外的に発信していくということだが、企業経営の観点からすると、どのような意味があるのか。

染谷

木の魅力とモノづくりの楽しさを伝えていくことは、弊社のルーツにつながる使命だと考えている。このため、東京木工場では、全国各地で木工教室を開催してきた。また、弊社の株主優待品として国産ヒノキ等を使った木工製品を贈呈することなども行っている。リニューアル後の東京木工場には常設の木育室などもできるので、社外の方々との交流がより活発になるだろう。
現代の企業経営は、環境問題などに正面から向き合うことが当たり前になっている。単に木を使っていればいいのではなく、どのように使っているのかが問われている。そこで弊社も、木育以外に、建設現場で使用する仮設事務所(プレハブ)の木造化など新しい試みに挑んでいるところだ。

贈呈用に使われた様々な木工製品
遠藤

仮設事務所を木造化すると、どのようなメリットがあるのか。

染谷

まだ研究段階だが、①資源の循環、②森林の循環、③CO2(二酸化炭素)の循環、④建設の循環、⑤人の健康の循環という5つの循環に寄与できる。また、仮設事務所として、1つの現場が終わったら、別の現場に移して再利用することができる。
これから具体的な測定数値などとともに木造仮設事務所の環境調和性などを明確にしていくことにしている。いずれにしても、木が大きな可能性を持っていることは間違いない。

(2023年6月8日取材)

(トップ画像=来客棟と工場棟の概要)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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